月に寄りそうオサメの作法
風が吹けばオケヤが儲かるらしいけど、風が吹いて少女の服がパンチラを見せようとした結果、下から覗き込んでいたような砂中水泳の少女には、ちゃんとしたーー。
要するに。
うん、男の娘だった。
無茶苦茶、女の子っぽいけど、確実に男性の象徴が。
まぁ、わたしもオサメドメインでサメではなくて少女なわけで。
「少年よ、わたしはサメじゃなくて女の子だよ」
訂正は早くしないとね。
「少年?」
ちょっと待って。心は乙女だから身体には関係なく女の子かも。だいたいポリコレに厳しいのは海外の常。肉体を超越した現代のゲーム事情からすれば、ネカマにも人権はあって、当然、性自認こそ性別を決めるジェンダー。
いきなりハードな吸血アーマーに出会ったけど……。
「わたし、女の子だよ」
うんうん、分かった。
お互い、大変だね。
「これアーマーだよ」
ガバッと、ワンピース姿の少女が自分の服を脱ぐ。
いやいやダメだよ、AI生成美少女でもダメなんだし、非実在青少年のエロもダメなんで…………、女の子はビキニアーマーを着ていた。
うん、わたしのアーマー、もっと露出度高くて良くない。
わたしが見たのは内腿の短剣の照り返しだったよう。月の明かりを反射した影がーーって、説明させるなぁ!!
「こんなところで何してるの」
「夜のモンスター退治。何匹か入ってくるときがあるから」
話している間に、イベントか依頼か始まりそうだなぁ。
まぁ、アーマー持っているなら一人で十分なのかな。
「ボランティアだよ、もっと街近くに正規の衛兵が守ってる」
追加の説明もしてくれた。ボランティアで街の守りなんて、少女のやることじゃないと思うけど。
わたしが訝しげな目で見つめていると。
「あ、このアーマー、サイズが小さくて、子どもぐらいしか着れないんだよね」
胸の部分を触るあたり、貧乳限定の装備なのか。
邪推はやめよう。
きっと、他の部分だよ、そうに違いない。ビキニアーマーも色々とサイズの問題があるんだよ。
「お姉ちゃん、それアーマーだよね。わたしのと交換しない?」
少女がこっちに近づいてくる。
ああ、一応、そういう展開。
つまりアーマー交換イベントか。
でも、さすがに、わたしはナイスバディだから無理だなぁ。いやぁ、あと5年若ければ着たんだけど。
「ごめんね、わたしには、ちょっとーー」
断ろうとしていたわたしに少女はさらに近づいてきて、太ももの短剣を引き抜いて首をめがけて、バキィッ。
「あ、えっ……」
少女が驚きに目を開いている。
わたしも驚きで目を開いてそう。
まぁ、【夜目】があるし、短剣で襲ってきたのはしっかりと見えていたのだけど、なぜか避けるでもヒレで遮るでもなく、口で砕けば早いと判断してしまった。
バリバリ、バリバリーー。
わたし、短剣を食べてるよ。大丈夫なの、わたしの身体。
「えーと、名前も知らない処刑少女ちゃん?」
「う、うぇ〜〜ん、ごめんなさ〜い。だって、サメは危ないから〜」
いやいや、ちょっと待って。
周りで電流感知で何人かひかかってるから。絶対、盗賊でしょ、これ。
油断させて身ぐるみハグでしょ。剥がれるのはイヤだよ。はいでいいのは、チョコのコーティングだけだよ。
女の涙は信じるなって、ばっちゃも言ってた。
うわー、人間なんて食べたくなーい。
マミるにまみえる準備はできてないよ。
食べる以外の解決策ないですが。
【ハンドパペット・シャーク君】に任せるか。
ちょっとその前に、全力で【威圧】しよう。逃げてくれるといいなぁ。まぁ、少女を使って油断させて襲うなんてサイテーなクズだけど。
もし睡眠薬入りのお水とかもらってたら、飲んでたよ。
早く毒耐性や麻痺耐性が必要だなぁ。
人間の血がエフェクトしました。
さて、でも小さな少女をゲーム内でもやっちゃうのは抵抗があるなぁ。
でもなぁ、この子、さっき盗賊仲間たちに、見た目詐欺とかサバ読みババァとか言われていたし、盗賊のお頭はコイツだ、とかも言われてたんだよね。
うーん、【威圧】で、失禁しているのだけど。
「ねぇ、本当は何歳なのかな?」
本当のことを言えば助けてあげるよ、という視線。
「4、45歳」
年齢詐称しすぎでしょ。vtuberでも、もう少し我慢するよ。
「こ、このアーマー、着用すると、成長が止まるんです。ど、奴隷として買われた時に、面白半分で着させられてーー」
ロリコン死すべし。
さて、脱いでくれるかな。シェーラちゃんを永久保存〜。
「脱げません」
バキバキ、バキバキ。
ふー、悪は去った。変態アーマーを破壊する。なんて気持ちいいんだろうか。
見た目少女の45歳は、その辺の盗賊の遺体から服を取って、去っていった。強く生きなよ、まだやり直せるよ。
あっ、砂中水泳五kmの途中だった。
サメになろう。サメに。
海のようなゆっくりとした時間を過ごそう。
地上は展開が早すぎるよ。




