サメですが、なにか
森の木々たちの枝をポキポキと折って、ミミック・ウッドを倒しながら、現場に到着。
三匹のウルフ型の魔物、そして、尻もちをついている一人の少女。
わたしが来たからには、もう安心だよ。
後ろからアタッーーーーク!!
ウルフみたいな黒い獣に、後ろからパペット攻撃を仕掛けた。まるで紙でも破るように、あっさりと歯形を残して、魔物が二匹しずんだ。そのまま駆け抜けて、少女とウルフの間に立つ。
『レッサー・ウルフを倒しました』
『レッサー・ウルフを倒しました』
『装備レベル25になりました。装備【メガロドン】はスキル【サメさんポーチ】を獲得しました』
ふっふっふ、サメに勝てるオオカミなどいないのだよ。わたしの大噛みの方が立派だよ。ジャキンジャキン。ハサミのように、二体のパペットを動かす。
威圧の効果があったのか、最後に残った一匹は向かって来ずに、去って行った。
よかった。実は大型犬って、普通に怖いんだよね。だって、本当に大きいから。どこがレッサーなのか聞いてみたいです。二足歩行できるのは、パンダとサメで十分です。
そして、新しいスキルを得ました。ヤブ犬を倒したら、サメさんポーチになりました。アイテムボックスな予感。まあ、後で確認しよう。
「大丈夫?」
「サメがしゃべった!」
そりゃあ、サメもしゃべるよ。
で、お嬢さん、このワンダーランドで、落ち着ける場所はないですか。
手を差し伸べてあげたいけど、それをすると、もれなく大惨事なんだよね。早くなんとかしないと。あと、【サメハダ】のスキルは常時発動なんでしょうか。切り方を教えてほしい。
わたしは、少女をジロジロと眺める。
村娘っぽい。カゴを持っていて、森によくある果実を入れている。腰には一応短剣が装備しているみたいだけど、さっきウルフを前にしても抜いていないところを見るに、飾り程度の腕しかないのだろう。
「襲うの?」
「襲わないよ」
わたしはオオカミじゃないからね。でも、少女がいなければ、レッサーウルフを食べたいです。無償に食べたい。でも、食べ始めたら、【血の忘我】で、我を忘れて、孤食の極地に達するのでやめとこう。
血の匂いで暴走するデバフじゃなくて、本当に良かった。オープンワールドで犯罪者スタート並みの最悪性だからね。血液の匂いで暴走なんて。今は【飢え】のデバフの方が、耐えがたい。現実世界の私も、そろそろ、お腹空いてるんじゃない。
「ぎゅううぅぅぅぅぅぅーー」
あ、お腹がなった……わたしの。
「食べないで。おいしくないよ、わたし」
ああ、そんなに怖がらないで。傷つくんだよ、サメも。
こんなに可愛いのに。
「もう仕方ないなぁ」
わたしはステータスを操作して、装備を解除した。
当然、全裸です。
沈黙。
あ、全然、飢餓感がない。すごく楽。
尻もちついていた少女を引き上げる。
「……お姉ちゃん、服着た方がいいよ」
ステータスを操作して、メガロドンを装備した。
分かってるよ。少し寒かった。視線もーー。
「お姉ちゃん、間はないの?」
「あいにくと……」
フルヌードかフルメ……、ふもっふ、なんです。
「あ、わたしの身体に触れないでね。サメハダで傷つくから。絶対、触っちゃダメだからね」
「はい」
よーし、村に連れて行ってもらおうか。
そこで、ゆっくりと一眠りして、現実世界に戻ろう。もしかしたら、宿でのみログアウトできるゲームかもしれないし。私が【鈍足】スキルのせいで、無駄に時間がかかっただけで、本当はすぐに村に行ける設計だったのかも。