サメ、よく考えてみる
この物語はサメ娘の平凡な日常を淡々と描くものです。過度な期待はしないでください。スプラッタシーンは、カットしています。唐突なシーンジャンプはお子様に配慮した結果です。
ということで、ギルドで金を得た。別にわたしは何もしてない。【血の忘我】でグチャグチャなことなんてなかったのだよ。魔物討伐の依頼を受けて、達成して、それ以上でも以下でもない。
図書館へレッツゴー。図書館こそ戦争の場。
知性を愛するわたしは、図書館というライブラリーにエントリー。
ああ、ワンピース姿で街を歩くわたし。完全にNPCに溶け込んで……。
ん?
そういえば、わたし以外のプレイヤーはどこに?
なんか一人RPGの気分で今までいたけど、これネットワークに繋がってるはずだよね。ログイン人数とか確認できたりしないの。
ステータスには、ないか。当たり前か。実はオフライン環境だったりするのかな。誰もいなさそうだし。
「キョロキョロして、どうしたの、お姉ちゃん」
「哲学的ゾンビについて考えていた」
「何、それ?」
仕方ない。教えてあげよう。博識で知的で雑学好きで饒舌なのが、オタク的早口を持つものだから。
「人間に完全にそっくりなアンドロイドができたら、区別がつくのかって問題」
「は、はぁ。お姉ちゃん、街の人はロボットじゃないよ」
はい。はい、知ってます。
当然の反応。しかし、実はNPC以外の人間が隠れて、こっそり、この一人デスゲームを失笑しながらワロスしているかもしれない。
あいつ、出られなくなってる〜、おっとスレに書き込んでやれ、と。VRから帰ってきたら、SNSトレンド入りという事態。現代の悲劇。
海外ユーザーがいないのは、日本サーバーだからかな。まぁ、いきなりどこにも繋げたりしないだろうし。
そっかぁ……。黄昏るわたしはキリンの如く。
あっ、そうだよっ!
わたし、このゲーム、初日ダウンロード即ダイブだったから、人がいないんだ。きっと、そうだよ。マップが広くて、今は会えてないだけ。
そうだ、そうに違いない。
家の宝は寝て待て。きっと続々と、新規ダウンロードの人が入ってきて、ログアウトの果報が聞けるはず。
「ふっふっふ……」
「お、お姉ちゃん、気持ち悪い声でてるよ」
「読書しながらスローライフをしていればいいんだよ。ねー、シェーラちゃん」
シェーラちゃんに抱きつく。
ああ、現実とVRの区別をどこでつけるんだろう。こんなにいい手触りでいい匂いなのに。本当、リアルでも美少女が欲しい。リアルだと事案だよね。たまに、VRに行って、帰ってこない系男性もいるそうだけど。幸せな夢を見ろよ。何が本当か決めるには、君自身だから。
わたしは、地球で肉体と共に生きるけどね。
街を歩き、図書館とおぼしき本のマークの看板がある。やけに縦に長い建物だ。
さっそく、中に入る。
円形の建物の壁じゅうに、本がずっしり。
オシャレだ。どう考えても、スペースの使い方が間違っている気がするけど。円形の壁と円形の本棚に本が入っている。スペースを考えなくていいVR空間様様の造り。ファンタジー味と現代風の調和を感じる。
以上。
問題は本です。
まぁ、新刊を2、3冊読めば、そのうち出られるでしょ。ま、まぁ、最高でも20冊ぐらい読み漁れば、出られるよね。
「新刊、新刊っ」
「お姉ちゃん、そんなに本が好きだったんだ」
「本は偉大な暇つぶしだよー」
「お姉ちゃん、キルタイムは良くないよ」
いいのいいの。時間を殺すことしかできないから。待つことが辛いなんて、暇の重要性を理解してないなぁ。余暇こそがギリシアなのだよ。働いてばかりのモダンタイムは終わりました。労働という宗教は全時代の遺物です。時間伸縮技術は偉大なり。時間は無駄にできることを人類は証明しました。一夜漬けなんて日常茶飯事。
「さぁ、本を食べる魚だよー。木魚じゃないよ、本魚だよ」
図書館の新刊コーナーへ、ゴー。
「え、英語っ?」
英語の新刊しかない。どういうことなのか。
海外のゲームでしたね。そうでした。
まぁ、いいや。自動翻訳をオンにして読もうっと。
ん、あれ、どうやって、どこに、設定は?
もしかしてゲーム内スキル設定になってるとかはないよね。今のところ言語に困ってないし。まさか、翻訳設定の仕方も分からない……。
「あ、これは、読める」
魔法理論書だった。
なるほど、ゲーム内限定の書物は読めると。
読みたくないなぁ。
「寝よう」
惰眠こそ最大の果報を寝て待つ方法だ。
「お姉ちゃん、本は借りないの」
「お姉ちゃん、字が読めないみたい」
ああ、識字能力が思わないところで必要ハプニング。
「わたしが読んであげるよ」
「いやいや、英語を日本語にして、とかさすがに無理がーー」
「うん、わかった」
無理じゃなかった。NPCの処理能力が高すぎる件について。なるほど、能力が低ければ、それはNPCではない。いや、でも、この子が特別に能力がバカげた設定になっている可能性も。
世界観が壊れませんか。村娘さまですよ。初めて会ったNPCで私に付いてきているから優遇でもされてるの。
チートNPCに本を読んでもらって、寝かしつけてもらいます。いいんです、飼われるサメだから。




