これはドラゴンですか
どうもどうも、サメでーす。本名は秘密でーす。
皆さん、知ってますか。サメの卵はキャビアではないんですよ。チョウザメの卵は、キャビアですけど、チョウザメはサメに見た目が似ているだけでサメではないので。
当然、私も中身は乙女のサメの外観をした乙女です。重要なことなので、重複しました。
まぁ、今は、都市が近くなったので、服を着て、ワンピースに腰に剣をさした一般冒険者。
飢えから救われたこの身体こそ、私のボディですよ。シェーラちゃんと手もつなげる。
でも今更だけど、このアーマーってどこにしまわれているのだろう。私の心の中に住み着いてないよね。心から剣が出れば、それはもうシャイニングなんですが。
「煙が上がってるよ」
シェーラちゃんが、後ろを向いて、さっきまで私たちが歩いてきた方を指さす。警戒を怠らない精神は大事だよね。後方確認は交通安全の基本の応用の発展の先だよね。
「なんだろうねぇ」
きっと、親のドラゴンが助けに来たんだよ。
良かった、良かった。
とりあえず、街も近いし、気にしなーい。匂いを追ってついてきたりしないよね。わたし、魚の匂いを撒き散らしてないよね。軟骨魚類はアンモニア臭がするけど、それは死後なわけで。
それで、私とシェーラちゃんの百合百合しい姉妹愛に満ちた逃避行の旅に、ドラゴン系の凶悪な飛翔物体の立場は無いのです。漢字で強調しますよ、無いのです。
「なにか飛んできてるよ」
見ないふりをしよう。
それは未確認飛行物体です。キャトルミューティレーションされますよ。
ほら、わたし、布団に簀巻きになって電波少女もやってないし、お断りなわけです。
ああ、輪郭が、さっき見たドラゴンな輪郭がーー……。
ということで。
ある日。
少女二人は。
ドラゴンと、出会った。
ええ、イベントは回避に失敗するからイベントなんです。
「あ、ミニリュウです」
うん、なに、その海辺にいた方がいいようなドラゴンさんは。水色だし、保護色になりますよ。
パタパタと降りてくる可愛らしいドラゴンちゃん。
わたしたちの真ん前に降りて、というか、わたしの胸にダイブ。ええ、柔らかい緩衝材があるので、全く問題はなかったですが。本当ですよ。
まぁ、地面に背中をくっつけてますけどね。どっちが背中か分からないとか言う人は、サメの餌にします。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
なんで慌ててるの。大丈夫だよ。本当だよ。
というかウルフさん、頑張って止めてよ。ホント。小型のドラゴンでも、ボーリング玉クラスなんだよ。HP減ってるよ。
「これって?」
わたしは、母性の象徴に、胸を埋めている不届きなドラゴンについて、シェーラちゃんに尋ねる。シェラぺディアに尋ねる。
「ミニリュウです。貴族のペットとして人気のーー。知りませんか」
おう、さすがゲーム世界。ペットにドラゴンとは。家で飼ったら、猫の比じゃなく、飼った跡がつきそう。齧ったり燃やしたり。
「ああ、わたしの胸の上のゴブレット」
「ゴブレット?」
あ、ごめん。伝わらない。まぁ、ゴブレットはグラスだし。
「とりあえず、このキュウキュイ鳴きながら、顔を擦り付ける行為をやめさせたいんだけど」
「懐かれてますね。ミニリュウは、初めて見る強者を、親とみなす種なんですけど」
「……」
子持ちになりました。ウルフを従えるドラゴンの母のサメ。
ちょっと称号を確認。
《ワイバーンの守り手》
「ワイバーン?」
「ワイバーンですよ」
どうもドラゴンではないらしい。まぁ、違いなんて相違ないはず。
「これ、どうすれば?」
わたしの胸の上で暴れている小さなワイバーン。
「お姉ちゃん、わたしに訊かれても分かんない」
ああ、もういいです。私は獣の奏者なので、いくらでも獣を連れていきますとも。冒険者には、テイマー登録しよう。サメ登録はしませんよ。職業欄にサメとか書いてないよね。
あはは、テイムゲーだよ。間違いないよ。亀も連れて行きたかった。
「ミニリュウって進化する?」
「お姉ちゃん、ミニリュウは、あんまり大きくならないよ。成体でも人が乗れないサイズのワイバーンだし」
「戦闘には?」
「お姉ちゃん、ダメだよ。こんなに可愛いんだから」
あ、うん、このゲームのマスコット的位置なのね。戦えないワイバーンをゲットした模様。猫科もトラからチワワまでいるし、いいか。
もうすぐ、都市だし、たいていのことは許しますよ。
一匹随伴者が増えようが、羊飼いは気にしないのです。
よしよし、なかなか触り心地もいいじゃないか。ワイバーンの頭を撫でると、羽毛のようにいい手触りがした。
「ねえ、ミニリュウって親のワイバーンとか来ない?」
「距離があれば、たぶん……それにこの子も親と認めているみたいだし。それより、ペットとして希少だから、襲われないか心配した方が」
あー、うん、胸の中に隠しておこう。
わたしの豊満なバストの一部になればバレないよ、きっと。え、それは盛りすぎ。
はいはい、そうですねボーリング玉は無理です。てなわけで、頭の上のぬいぐるみ状態。鳥の巣状態。




