サメは、ウルフに騎乗する
サメです。
いつか、このログを元に、『ゲーム世界からログアウトしたいサメの体験記』(タイトル仮称)というものを作る予定です。
動画にもしようと思っています。もちろん、まずいシーンは編集カットしますよ。わたしのサメハダの下の柔肌を見ることを許可した覚えはない。
わたしは、サメの着ぐるみを脱ぎ捨てて、ワンピースへと着替える。
そう、ウルフにライディングするためだけだ。ウルフに乗っていれば、緊急事態でも、颯爽と逃げてから、変身して戻ってくる魔法少女的なやつでいけるはず。
まあ、ウルフを全面的に信用できるのは、何か知らないけど、ステータス画面に、【ライド】というスキルが出現していたから。一瞬、装備についているのかと思ったけど、装備のスキルではなさそうだ。
そう、わたしは乗るサメ。
サーフィンみたいに乗られるドルフィンじゃない。
「あ……んっ…ちょ……」
豚のレバーを加熱しろと言ったのは、誰だったかな。変態な豚の上に乗るのは難しいように、うーん、どうしよう。ここ、編集カットですね。
よいっしょっと、モフモフーー。ウルフにガシッと抱きつくことにした。見栄えなんて気にしません。馬みたいに鎧もないんです。危険です。
【ライド】スキルとは、いったいーー。
よーし、いくぞ。
日がまた昇る方へ。
ふと向かうべき方を見るとーー。
え、シェーラちゃん、あなたもいつのまに、手懐けてるの。
なに、自然にわたしのウルフの横にーー。いいなぁ、わたしのウルフちゃん、なんかカッコ良すぎるんだよねぇ。シェーラちゃんの小型犬と変えて欲しいかも。
モゾモゾ、ほら、わたし、毛の中に埋もれるよ。ウルフの背中に、サメの背ビレ状態ーーあ、わたし、今、サメの着ぐるみ着てなかった。
やばいやばいーー、勝手に背中に羽じゃなくて、ヒレをつけるなんて。末期症状だ。
わたしとシェーラちゃんは、集落御一行と一緒に、のんべんだらりと街へと向かった。
敵にあんまり会わないなぁと思っていたけど、シェーラちゃんのお姉ちゃんが先にやっつけていたようだ。
NPCが優秀すぎて、プレイヤーが暇です。まあ、亀はほっときます。街から進路が逸れることを期待します。台風のように、南とかに行って、太平洋の藻屑になってよろし。
街では普通の女の子で行きます。
わたしは、人に紛れた一匹のサメ。
そう、わたしは、ポーションとかをほそぼぞと売ったり、平均値の人間を目指して目立たず暮らすんだ。
いやいや、暮らしちゃダメか。帰り方を探さないと。
宿屋に期待。
宿屋にはログアウトのシステムがあるはず。
なければ、このゲーム叩き割ってやる。
ーーーーしかし、VR世界では出来なかった。
門番に止められました。
「この子達は、わたしの使い魔です」
使い魔でいいよね。
異世界に転生した人も、使い魔になったわけだし。
「いや、それはいいんだが」
門番が困った顔をしている。
そういえば、みんな門の上から弓を構えているけど、なにかななにかな。あちらは魔法使いでしょうか。
なんで、犬は友達でしょ。
この子達は安全だよ。さっきまで地獄の果てのランデブーでデレさせたから。
「数が多すぎる」
ですよねーーーーーーーーーー。
わかってました。薄々気づいてましたよ。
うーん、後ろを見ると、集落以上のウルフの集団。
一家に一台じゃあすまないウルフ。
ゲーム作った会社に聞きたい。一匹で十分ではないでしょうか。お供が多すぎる。どこの戦略ゲームですか。
わたし、オオカミ少女になるしかないのかなぁ。
このまま、もののけ姫として生きていく未来が見えるよ。「お前にサメが救えるか」ーーうん、つまんないギャグ。
ここで村のみんなとはお別れかな。
「向こうの門から入ってくれ」
あ、別の門があるのね。
はいはい、回りますとも。
じゃあ、村の人たち、しばしお別れ。
「な、なんだこれは?」
止められた。
おい、お役所仕事か。
たらい回しですか。
今度は、どこの門に行けばいいですか。
「ここは家畜も通れる大きな門だし、住宅街からも離れているけど、その数のウルフをーー維持費はあるのか」」
世の中、金でした。
おかしい、現実のしがらみから抜け出したと思ったら、リアリティが追いかけてきました。そういえば、究極進化したフルダイブゲームが、爆発炎上解体していたなぁ。
リアルって大変。
「お姉ちゃん、すごく強いよ。きっと魔物と戦う時に役に立つよ」
シェーラちゃーん、うん、嬉しいけど、わたしの職業が傭兵になりそう。サメの傭兵ーー。
「たしかに、それだけのウルフを従えているだから、でもなぁ、どうみても、そこのお嬢ちゃんが強いようにはーー」
「お姉ちゃんの今の姿は、仮の姿なんです」
いやいや、仮じゃないからね。
こっちが本体。
こっちが、正常モードです。
人の皮をかぶってるわけじゃないです。
まあ、いいや。
アーマーを着用しよう。
スローライフは、また別の物語だ。
ウルフちゃん、着替えシーンだから隠してね。
変な光線が入って、くるくると回りながらキラッと変身ーーとはいかない。
「そ、その姿はーーーー」
「そう、サメです!!」
シェーラちゃんが嬉しそう。
わたしは少し悲しい。もう脱いでいいですか。
街中にサメで入りたくない。
「いいだろう、アーマーを持っているならば、戦闘の役に立ちそうだ。入っていいぞ」
やったーー、脱ごう。
「分かりやすいように、街中を歩くときは、その姿でな」
シクシクーー。
「あのー、この姿だと、青い部分に触れるとケガをするのですけど」
だから脱ぐしかないんです。
脱がしてください。
「常時発動のスキルか。街の人には、危険だからサメからは距離を取るように通達を出しておこう」
わたし、危ない人扱い!!
まあ、いいや。
宿でログアウトできないか確認だ。
どうせ亀さんがノシノシとやってきたら、すぐに出発することになるんだろうし。
え、戦えって?
女の子は、戦いませんよ。
だいたい噛み付いたり、素手で戦うって、なんか絵面がね。早く、サメの口から、火球でも出ないかなぁ。




