サメさん、街へと至る道
期待とは裏切られるものです。
サメは、ゆらりゆらりと荷馬車で揺られーーーー。
うーーーーーーーん、長い!!
いつまで私は、この果てなき日光浴を続けるのか。まあ、ちゃんと屋根付きだけど、サメの身になって考えれば、こんがり焼かれちゃうよ。紫外線はお肌の大敵。
あー、ワープコマンドないですか。
「はい、サメのお姉ちゃん」
わたしはシェーラちゃんに、ご飯を食べさせられるペットでございます。役立たずの陸に上がったサメです。もぐもぐーー。お肉、おいしい。ウルフ肉は乾燥させてもいけますね。ジャーキーですかね。干し肉、干し肉、干し肉、干し肉、筋肉、筋肉ーー、ん、おかしいぞ、飲まれるな。
サメは飲んでも、飲まれるな。
もう意味わからんないこと考え始めてますよー、現実の私の身体脱水症状とか起こしてませんか。ナトリウム足りてますか。海水はどこーー。
「お姉ちゃん、元気ないね」
「体勢がそろそろ辛い」
もう亀からは十分離れたし、そろそろサメ抜いていいですか。もぞもぞーー。
「ダメだよ。まだ魔物が現れるかもしれないから」
「了解サメ」
あー、終わらないコントロール不能の逃避行。大海の自由を満喫したい。コーラの海に浸かりたい。というか、お風呂に入りたい。だって、サメの中は、女の子ですから。サメハダに自動洗浄器は、まだつきませんか。制作陣、早くアップデートして。
「お、お姉ちゃん、あれ!」
シェーラちゃんの指差す方を、まるでスマホをベッドで眠気眼でつつくような感じで見ると、ウルフの大群。
あー、ごめんなさい。今、ちょうど、あなたたちの仲間の干し肉をいただいたばかりでして、本当にごめんなさい。
でも、これでやっと、荷馬車は一時停止。わたしは、機動力を取り戻し、颯爽と戦いの火蓋を切って落とすーーあれ、落とすはいるかな。火蓋を切る……うん、落としとけ。
私はゴロゴロと荷馬車から滑り落ちる。
痛っーーくわないけど、なんか精神にダメージがくるなぁ。私の立派な背ヒレにキズができてないよね。まあ、背ビレの傷ってなんかカッコいいけど。ただ、海で絵面が悪いからね、立派なフカヒレを見せないと。
ーーうん、切れたら、自分で食べてみよ。
わたしが、見事に受け身をとって立ち上がりました。それは、もう審査員がいれば、全員がレッド判定を出すほどです。ちなみにレッド判定の意味は詮索しないこと。
「「「「「ウォーーーーーン!!!」」」」
ふっ、向こうさんもやる気満々元気溌溂ーー、自粛します。
さあ、どこからでもかかってきなさい。わたしの機動力を見せてあげよう。
秘技、不動の構え。
タートル・メイデンは封印です。亀に怒られるから。
「……??」
やけに遅くない。さっさと、この美味しそうな魚に齧り付きなさい。まな板の上のサメですよ。美味しいですよ〜、鱗ごといっちゃってください。
「くぅーん」
あら、可愛らしい。
いやいや、めっちゃ耳元ですやん。まさか転がして腹ワタをワタ流しですか。いやいや、わたしカラスにもオオカミにも骸を夕べにさらしたくないです。
待って、たしかにクドリャフカの如く、自動食肉処理器のような罠にかけたのは謝るから。話せば分かる。サメ類の未来のためだった。サメを裏返しても、神はいなかったけど、腹は白かったで終わりですよ。わっふーーーー。
てか、遅いな。わたしの独り言を止めてよ。
「くぅん」
えっとーー、この鳴き声はーー。
わたしは意を決して、首を上げた。アザラシがついに顔を水面から出すがごとく。まあ、周りには誰もいない多摩川ですけど。
「……えー、今、ありのままに目の前にある状況を説明するぜ。信じられないだろうけど、シェーラちゃんが、ウルフの首を撫で撫でしていた」
危険だ。相手はオオカミ、赤ずきんちゃん気をつけて。それ、子犬とちゃう、ウルフやっ!
「あ、やっと顔上げた。お姉ちゃん、この子達、お姉ちゃんと一緒についていくみたい」
およ、いつのまにか、テイムゲーに。おかしい、もっと、ズッタバッタとモンスターをハントするはずが。仲間になりたさそうな目で見ている系とは。
おすわりしているけど、野性の呼び声を忘れたのかな。白い牙を忘れたの、わたしと同じく真っ赤にして、トラウマを与える旅々に出かけるの。
「よし、ならば、ついてこい!」
うん、なるようになれー。
だいたい、街に入れるのか、こいつら。
まあ、当初の予定通り、ウルフという騎乗手段を得たわけだ。つつがなく進行している。
全てはわたしの手のひらの下。
それにしても、どうやってログアウトしようか、期待通りにいきませんね。




