サメさん、逃げる
えー、こちら中継のサメです。
砂煙の向こうには、大量の魔物がうごめていますz阿鼻叫喚です。阿鼻ってなんだろう。
鳥型の魔物も一目散に飛んでいっています。ベヒモスにまとわりつくコバンザメみたい。
あ、これも無理。これは、軽くサメひねりです。歯形も残りません。
あはは、冗談きついですよ。
わたし、やっぱり、一オツしてログアウトする感じでしょうか。
「お姉ちゃん?」
「逃げようか、シェーラちゃん」
前言は覆すためにある。前例のない事態なので、臨機応変に対応します。非常事態宣言です。
籠城の選択肢はない。タートル・メイデンでは敵わないよ。いや、もしかしたら、わたし一人なら、意外とひょっこり生き残ってしまうかもしれないけどね。
「シェーラ、早く逃げるよ。もう村も必要なものを集めて移動する準備をしているから」
あ、吸血鬼スタイルのお姉さん、いいですね、普通に着れてーー、わたしのアーマーさんは、何故か言うことを聞いてくれなくて大変なんです。特に、サメ肌がどうにもならなーー。
ん、なんか顔色悪くないですか。
「気にしないで。これ着ると、こうなっちゃうの」
お姉さんは蒼い顔に、鋭利な犬歯をチラッと見せて、お茶目に笑っている。
あー、なんか、日本風の萌えが欲しいです。こう変にリアルでーー、困る。でも、黒いマントはカッコいい。どこにあったのそれ。お、動いている。翼になるのかな。カッコいい、デバフがなければ欲しいのにーー。
「シェーラ、準備してね。わたしは村のみんなの誘導と、早めに逃げて来た魔物を倒してくるから」
「うん、お姉ちゃん」
お姉さんは、マントをグネグネ変形させて、飛んでいった。ああ、わたしも空を飛べるようのなりたい。シャークネードしたい。
サメは、空を飛びますよね。ファフロツキーズ現象だよ。決して裏世界じゃないからね。ええっと、なんだったかな、昔の映画ーー魔女の花的なやつだ。
いかんいかん、オタク的な逃避をやめなくちゃ。
「さ、逃げよう、シェーラちゃん」
みんなが逃げようというから逃げるんです。わたしは、別に、逃げなくてもいいと思うけど……嘘です。一目散に逃げたいです。サメロケットで逃げたいです。イメージはキ○ー。
「うん」
ああ、わたし、このゲーム向いてなさそう。ゲームに振り回される主人公ーー。というか、普通は難易度が徐々に上がっていくのがゲームでしょ。こんなヤブヘビなゲームは嫌だ。草むらで出会ったモンスターがレベル70とかだよ。もっと、まともな場所に都市や村を作ろうよ。
「お姉ちゃん、着ぐるみは着ないの」
「着た方がいい?」
「だって、途中で着替えると、裸になるんでしょう。服がもったいないよ」
「そ、そうだね」
この後、サメになった。
うう、仕方ないんです。これが唯一の装備なんです。初期装備がおかしい件について。
その後、サメさんポーチに詰めるだけ物をつめていく、賢いシェーラちゃんであった。ポーチの大きさが亜空間すぎる。まあ、ゲームだしなぁ。
ドナドナの気分で、私たちは、集落から移動していくのであった。サメさんは、自分で移動すると、遅すぎるので、荷馬車で運ばれて行くのです。
ああ、水の中に帰りたい。だったら、亀にも負けないのに、たぶん、きっと、メイビー。
亀の動く時の揺れ荷馬車の揺れがひどい。まあ、わたしは、このヒレだとどこもつかめないから、完全に、売られていく魚のように横たわっていますが。
やっぱり、ワンピースでいたいです。




