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サメの着ぐるみって、それはナシよりのアリです



 この凶悪なまでに可愛いらしいサメの寝袋にこもりながら、VRゲームをしている美少女は、誰でしょう、ーーーーそう、漫画やアニメの影響をすぐに受ける人種、オタク女子です。


 初めの頃は、VRのデバイスもシンプルで軽量化していましたが、時間が経てば、無駄な機能をつけていくのは人類の(さが)です。サーガです。

 日本独自のガラパゴス仕様を体現したような温度調整付きの快適な寝袋型VRMMOーー通称シャークポッドーー、私はシャー君と呼んでますけど、あまりにも快適でずっと潜ってしまう。ゲーム世界という海に文字通りダイブです。

 目覚め(ザメ)ない、というくだらないダジャレの売り文句 。

 冷めるわー。



 ただ、まあ、問題というものは、技術の発展に付き物のようでーーーー。



「身体のフォルムが、おかしいでしょぉおおおおおおおっ!!」


 海外で話題急騰のオープンワールドゲームを初日ダウンロードしました。そしたら、何を勘違いしたのか、身体のラインがサメだった。

 繰り返す、私はサメだった。

 正確にはサメの着ぐるみを着させられていた。

 オタク風に言えば、さめサメ鮫シャークだ。ジョークです。もしかしたら、最後はジョーズなのかもしれない。


 声が聞こえる。女性の人工音声。

 最初の設定の時に聞こえたのと同じ声。


 『初回特典により、その人の体格に、最もマッチする装備が贈られます。ユニーク装備となりますので、これ以降、手に入れることはできません』


 なるほどなるほどー、まあ、いいや。

 とにかく、まずはーー痛っ。

 ん、転んだ。

 いや、まさかーーーー。

 私はおそるおそる、自分の両足を見た。

 尾びれだった。立派な尾びれだった。

 私、人魚姫!?


 なんとかバランスを整えていく。幸い、両足を出す場所があった。よかった、私、オープンワールドの海に生息するモンスターになるところだった。

 でも、顎が邪魔だなー。下が見づらい。

 そして、手、いや胸びれ!

 残念ながら手を出すところはないようだ。

 これだと箸どころかスプーンも握れない。


 サメだけど、今の気分はペンギンです。というか、この二足歩行スタイルペンギンです。もし大きな尻尾と背びれがなければ、遠目にはペンギンでしょ!


 と、とにかく歩き出そう。このファンタジーワールドを。



 ◇ ◇ ◇




 ーーーん、しばらく大草原を当てどもなく歩いていると、向こうから砂煙を巻き上げて、突進してくるバイソンの如き荒牛の群れ。

 ええ、当然、隠れてやり過ごします。

 初プレイヤーにモンスターの群れは、難易度高すぎwww.

 私は大草原に草に擬態する勢いで、蹲み込んで、海を泳ぐサメのように地面に寝そべった。

 地響きがこっちに向かって、来ている気がする。

 けど、サメさんのつぶらな目はお飾りで、わたしには、緑の草しか見えません。いや、音が大きくなってきたので、目をつぶります。

 というか、臭いが、獣の臭いがぁあああ!



『パイソンを倒しました』

『パイソンを倒しました』

『パイソンを倒しました』

『パイソンを倒しました』

『パイソンを倒しました』

『パイソンを倒しました』

『パイソンを倒しました』

『パイソンを倒しました』

『パイソンを倒しました』

『パイソンを倒しました』

『パイソンを倒しました』

『パイソンを倒しました』

      



 耳障りじゃないと言われる女性の人工音声でも、これだけ続くと耳障りです。

 というか、何、なんで、そんなに倒れているの。近くにドラゴンでもいるの。

 それに『倒しました』って、まるで私が倒したみたいじゃない。

 何回も響くアナウンスが終わり、地鳴りは遠ざかっていった。見回すと、周りに、パイソンたちの残骸。なぜ、バイソンではなくパイソンなのか。プログラマーのおふざけを感じる。


『装備レベルが23になりました。装備【メガロドン】は、スキル【ハンドパペット・シャーク君(両手)】を獲得しました。』


 やっぱり、わたしが倒したんだよね。

 そう言えば、このゲーム、《アーマーズ・ワールド・エボリューション》は、装備が育っていく系のゲームだった。いずれ、わたしのサメ装備は、古代生物のように、巨大化するのだろうか。

 さっさと、別の装備を見つけよう。じゃないと、VR世界で何も食べれない。いや、食べなくてもいいんだけど。サメさんは、血に飢えているのです。お肉、お肉ーー、あ、目の前に大量にある。


誰も見てないし、いいよね〜。

御行儀なんて気にしません。だって、サメですから。

「いただきまーす」


 シャクシャクシャクシャクシャークシャーク。


 柔らかーい。


 クシャクシャクシャクシャクシャ。


 ◇ ◇ ◇



 え、いつのまにか、全部食べてた。どこに入るの。わたしの身体のどこに牛10頭以上、入るっていうーのっ!?

 ちょっと一回、装備を確認。




 装備【メガロドン】 レベル23

 オリジナル装備。サメの形をかたどった着ぐるみの一式装備。可愛い、凶悪に可愛い。つぶらな瞳がチャームポイント。


 スキル

 【サメハダ】【破砕の牙】【威圧】【スイマー】【飢え】【嗅覚鋭敏】【血の忘我】【鈍足】【加速(水中)】【ブレーキ不可(水中)】【夜目】【電流感知】【快眠】【ハンドパペット・シャーク君(両手)】


 アクセサリー スロット ゼロ。


 称号 《サメを愛する者》


 

 うーん、攻略サイトを見たら、どういうスキルか正確に分かるのだろうけど、予想はつくなぁ。パイソンを倒したのは、サメハダかな。そして、私、飢えと忘我で、食べ尽くしちゃったのか

 怖っ。このゲーム、精神汚染ありなの。普通、日本のゲームで、ここまで我を忘れたことないんだけど。デバイスの設定を調整しておこうかな。


 一度、ログ……。

 あれ、どこだろう。

 

 え、ちょい待って。

 ログアウトの仕方が分からない。

 ここままデバイスの最大ダイブ時間の12時間経過まで待つしかないのかな。説明書、読んでおけばよかった。

 オタク、エンジョイ勢ーー説明書、攻略サイト見る気なし。 

 用事がなかったのが、不幸中の幸い。


 それじゃあ、もう少し潜っていましょうか。

 できれば、村を見つけたい。


とりあえずーー。

「【ハンドパペット・シャーク君】」


 わたしの手が小型のサメのぬいぐるみになりました。予想通りです。これで、手の代わりになるのかな。

 パイソンの残ったツノを、そのパペットで掴みあげーー。


 バリバリ、バリバリーーーー。


 あー、これ、攻撃用……なのね。

 角を噛み砕くって、どんだけ。

 そうだ、脱ごう。

 装備を外してーーーー。


 ステータス、ウィンドを操作すると、ポンと音がした。

 本当は、手でも脱げるはずなのだけど、この装備、脱ぎ方がわからない。後ろにチャックとかいうオチがありそう。一人じゃ脱げないという悪魔の装備。


 わたしの手があった。

 わたしの足があった。

 わたしの胸があった。


 よかったーーーーーーーーーーー…………



 全年齢版の全裸だった。

 15歳の美少女、全裸待機モードでした。

 でも、胸がスリムすぎない。もう少しあるはず。

 サバ?

 サメなんでサバなんて読むわけないよ。




 海外のゲームのソフトを作る人へ。

 インナーという言葉をご存知でしょうか。

 わたしは、着ぐるみの中へと戻った。

 サメ防護用のオリ。


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