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黒の忌み子が刀抜く。  作者: 白達磨
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坊っちゃまと従者の鬼ごっこ

 ショウタロウが従者になり一ヶ月が経とうとしている現在、リョートと共に家庭教師による授業を受けていた。


 授業の内容は覚醒者について。


 この世界には、誰かが決めたのかそれとも最初から決まっていたのかは不明だが、種族ごとに序列がある。


 頂点を神とし順に、旧神、天使、精霊、龍……。


 そして、その下に存在する人間族、各種亜人族、魔人族の序列は戦争や協議によって入れ替わりが激しく起こっている。


 件の覚醒者は主に序列四位までの超常の存在と契約したり加護を与えられたりして異能に覚醒した者達の総称だ。


 現在、世界中で確認されているのは、四例だ。


 《絶対の剣聖》ジーク・アブソルート


 《未来見透す指揮官》ラオム・ディメンション


 《新魔王》デウスペア


 《賢神竜》エイオース


 二つ名がある通り、彼ら全員が各々前人未到の伝説を築き、万夫不当の力を持っている。



「覚醒者は一国の勢力全てを用いたとしても勝てるかどうか疑問視されています。基本、覚醒者を倒せるのは同じく覚醒者か魔法使い、人智を超えた魔術師です。そのため、国際法で法国が認めない限り国際間の争いで彼らの使用は出来ません」


 法国とは、王国が位置する大陸の国際間の調停を司る国だ。


「過去の魔王の侵略時に我が国の覚醒者、ラオム・ディメンション様が参戦されたのも法国が認めたからですね」


 魔王と言った時に教師がちらりとショウタロウを見るの直ぐに目を逸らす。


 だが、一瞬とは言え、戦闘のスペシャリストであるショウタロウにはバレバレである。



 本来、魔王とは魔国を統一する王の事だ。


 魔国は昔から他国との外交がほとんど無く、解明されていないが、生まれながらに超常の存在により加護を与えられ異能に目覚めた者が魔王となるのだ。


 過去に王国や周辺諸国に侵攻してきた魔王も例外ではない。


 つまり、魔国出身の魔人以外が魔王と同じ特徴を持つからと言って忌み子とするのはお門違いと言うものだ。



 当の本人は全く気にした様子は無いが……。


「時間ですね。今日はここまで」


 教師は懐から懐中時計を取り出し時間を確認するとそそくさと部屋から退出した。


 部屋を静寂が支配する。



「坊っちゃまは何故外で遊ばれないのですか?御友人がいらっしゃるでしょう?」


 静寂を破ったのは意外にもショウタロウだった。


 実際、ショウタロウがグラキエース家に雇われてしばらく経つがリョートは屋敷に閉じ篭り魔術に関する書物を読み漁っているだけだった。


「その坊っちゃまってのをやめろ」


 リョートは不機嫌そうに吐き捨てた。


「失礼しました。たまには外に出ないと健康に良くないですよ」


 ショウタロウは軽く悪びれると本題を口にした。


「ふん、領内に居る三下共と慣れ合うくらいなら不健康の方がマシだ」


 リョートは鼻を鳴らしそのまま不機嫌さを隠さずに言う。


 実際、彼が言う通り彼は同年代と比べると天才と言わざるを得ない。


 魔力の四大属性は火、水、風、地である。


 その四つの属性が適性に沿って混ざり合い人々に合った魔力属性となるのだが、グラキエース家の魔力属性は氷だ。


 この属性は、対を為す火と水の丁度中間に存在する属性で発現する事は滅多に無いのだ。


 それに加え、リョートは生まれながらに膨大な魔力を所持していた。


 それらの事がリョートをプライドの塊にしてしまったのだろう。これまで受けてきた授業から得た知識を元にショウタロウはそう推理した。



「三下共……ですか。なら、今から僕と''鬼ごっこ''をしましょう」


 唐突なショウタロウの提案にリョートは呆れた様に席から立つ。


「は?何を言っているんだ?私はこれから書庫へ」


 リョートがそのまま部屋から出ようとするのをショウタロウは許さない。


「僕は、正直に言ってかなり強いです。三下なんて言わせません。それに……鬼ごっこは遊びではありません」


 そう呟くとショウタロウ立ち上がり、机に立て掛けていた鎖を巻かれた刀を帯に差し、棒を握ると先端をリョートに向けた。


「ほお……面白い。良いだろう、相手してやる」



  ***


「ルールは簡単。僕が鬼でリョート様に触れれば僕の勝ち、昼食までに逃げ切ればリョート様の勝ちです」


「なるほど……勿論魔術を使っても良いんだよな?」


 リョートは手に魔力を集めているらしく彼の手は白縹色の光を発し冷気を放つ。


「はい、いくらでも妨害して頂いて結構です。三〇数えます。その間に逃げるなり隠れるなり自由にどうぞ」


 そう言うとショウタロウは目を瞑り静かに一から数えだす。


 それを確認してからリョートは屋敷の庭にある立派な木を背に息を潜めた。


 彼は思った。いくらショウタロウが強いとは言え、逃げるだけなら簡単だと。その上、得意の魔術が使えるのならこちらに分があると。


 しかし、彼はその後、日の出の民たるショウタロウの素の身体能力と気を読む能力の恐ろしさを知る事になる。


「三〇……では行きます」


 微かにそう声が聞こえいよいよかと思った瞬間―、


「見つけました」


 頭上を見上げれば、ショウタロウが背にしていた木の上に立っていたのだ。


「へ?」


 リョートは突然の現れたショウタロウの姿を見て間抜けな声を上げた。


「いくら上手く隠密しても僕には関係ありません。ほら、逃げないと」


 ショウタロウはリョートを捕まえる事なく木の上から彼に声を掛けた。


「《地より生えろ・氷柱》!」


 魔術を発動において最も初心者向けの方法である詠唱により発動した魔術により作り出された氷柱がショウタロウを阻んでいる隙にリョートはその場から逃げ出した。


「これは中々……」


 関心しながらショウタロウが棒を横に薙ぐと天に聳え立つ氷柱は綺麗な断面を見せ彼の腰辺りの高さから上がずり落ち地に落ちた。


 ***


「はあ……はあ……」


 鬼ごっこが開始され数十分が経過している。


 リョートの魔力は既に底を尽き、逃げる体力も無く彼は膝に手を付き息を荒らげている。


 そんな彼の目の前に無常にもショウタロウは小屋の屋根から落ち葉が落ちるかの如く、音も無く地面に着地する。


「もう終わりですか?」


 そう言ってショウタロウは鬼ごっこを終わらせようとリョートに触れようとするが、彼は身を捌きその手を交わした。


「へえ」


「まだ……終わってないぞ……はあ」


 リョートはショウタロウの実力を舐めていた。そして、ショウタロウはリョートの負けず嫌いさを考慮していなかったのだ。


 その後、リョートの意外な運動神経の高さから勝負は長引いたが、結局ショウタロウの勝ちで幕を閉じた。


「運動もたまには良いでしょう?」


「そう……かもな」


 体力を使い果たしたリョートは天を仰ぐ。そして、初めとは対称的な清々しい表情で呟いた。


「何故、私を構ったんだ?」


「ん?僕が暇だったからです」


 ほとんど表情を変えずに何気なしにショウタロウは答えた。


「そ、そうか」


 これ以降、リョートのショウタロウに対する態度は緩和されたとかされなかったとか。

面白いと思って頂ければ幸いです。

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