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黒の忌み子が刀抜く。  作者: 白達磨
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どうしても手放す気は無いようで

(……失敗した)


 スティーリアは心の底から後悔していた。


「出来上がった物から出していけ」


「料理長!!食材の在庫がもう」


「直ぐに誰か買い出しに行かせろ!!」


 現在、彼のいる客間に同じ屋敷内とは言えそれなりに離れている厨房からの騒がしい声が聞こえてくるのだ。


 そして、彼の目の前には、


「貴族様、今まで焼いた魚や野草ばかり食べていたのでこんな美味しい物初めてです!!」


 出された料理を人間業とは思えない速度で平らげていく少年が居た。


 彼の左右では、食べ終わった皿が成人男性の身長よりも高い山を作っている。



 ***


「とても美味しかったです」


 少年は満足そうに言うと小さく息を吐いた。


「それは良かった……」


 少年の食事が終わったのはあれからもう一つ同じ大きさの山を作ってからだ。


「そろそろ本題に移ってもいいかな?」


「どうぞ」


 スティーリアが告げると少年の緩んでいた顔が瞬時に引き締まる。


「私が君を招いたのは礼がしたかったというのもあるが、それ以上に君に興味を持ったからだよ」


 彼は手を組むと机に肘を付き落ち着いた様子で話し始めた。


「興味ですか?僕のようなただの旅人に貴族であるあなたの好奇心を駆り立てる程の価値はないと思うのですが?」


 この世界は、戦闘において勝敗を左右するものは魔術だ。


 戦闘以外でも貧富の差、階級、仕事……それらは全て魔術によって左右される。


 それなのに、少年はそれなりに戦闘に長けた集団を一人で魔術を使うことなく一掃したのだ。


 そして、魔術を使わないどころか、そもそも魔術の根底にある魔力すらも感じない。


 スティーリアの好奇心を駆り立てる物を少年は持っているのだ。


「謙遜はよし給え。君も勘づいているだろう?この世界で魔力を持たない存在なんて滅多に居ないよ」


「確かに()()()()あなた方が魔力と呼ぶであろう力を持たない人間を僕は見ていませんね」


 少年はスティーリアが何を言いたいかを理解した上で分からないふりをする。


 面倒な事態になる事を避けるためだ。


 しかし、相手は王国の三大貴族と呼ばれる家の当主だ。そんな事は直ぐに見破られてしまう。


「フフフ……やはり君は面白い。なら単刀直入に聞くが、君は何者だ?何のために旅をしている」


 ここまで聞かれてしまうと打つ手がない事を悟り少年は正直に語ることにした。


「僕の名前はショウタロウです。察せられているとは思いますがギルドの依頼を受けながら各地を旅しています。階級は銀です」


 この世界には国を問わずギルドというものが設置されている。


 簡単に言えば、人類に対するありとあらゆる驚異を国家等のしがらみに囚われず協力して対処するために三十年程前にラオム・ディメンションが設立した組織だ。


 ギルドに登録された冒険者にはそれぞれ階級が与えられ、青銅、鉄、銅、銀、金、白金まで存在する。


 そして、この階級が彼らの戦闘能力やその他の技術の高さをそのまま表しているのだ。


「ほお、私の目には君の強さは少なくとも銀以上に映ったのだが?」


 スティーリアは顎を引きショウタロウの目を見た。


「ははは、ありがとうございます」


 ショウタロウはスティーリアと視線が合うと目を細め高らかに笑った。


「いやいや、お世辞なんかじゃないよ?現に君はただの棒であの手練を殺す事なく速やかに制圧した。そう、ただの棒でだ」


 そう言ってスティーリアは彼の左側で机に立て掛けられている刀に視線を送った。


「私はそんな武器を見た事がない。それに、君はその武器を使っていなかった。これはあくまで私の勘だが全力を出せば……これ以上は止めておこう」


 スティーリアに全てを見抜かれている事を改めて少年は理解した。


「仰る通りです。僕はこの武器、刀と言うのですが滅多に抜きません」


 彼は、刀をスティーリアよく見えるように持ち上げた。


「それだけの強さがあって何故ギルドの階級を上げない?その方が報酬が多いだろう?」


 スティーリアがそう聞くのは当然だ。


 誰でも可能なら利益の多い方を選択する。


「僕が今必要なのはお金ではありません。それに、金以上は緊急の依頼に強制力があるため自由な旅が出来なくなります」


 基本自由に依頼を受けることができ、休むのも自由な冒険者。しかし、金以上ともなれば例外だ。


 報酬は多く発生するものの緊急の依頼、例えばドラゴンや魔神の討伐には、最も近いギルド支部に所属する金以上の冒険者が強制的に向かわされるのだ。


 言うなれば、彼らは人類における都合のいい軍隊なのだ。


「ほお……ならば君は何を求め旅をしている?」


 部屋を静寂が支配する。


 スティーリアが真っ直ぐショウタロウの目を見ると彼の目が一瞬だけ表現出来ないような不気味な光を灯した。


「ある組織を追っています。ただそれだけです」


 スティーリアの今までの余裕はショウタロウの圧により消し飛んでしまい、彼はこれ以上深入りする気分になれなかった。


 しかし、ここでショウタロウを手放す気も毛頭ない。


「君に俄然興味が湧いたよ。ショウタロウ、我がグラキエース家の従者にならないか?何、君にとっても都合が良いはずだ」


 ショウタロウのような戦力が居れば、国内の貴族や外国への牽制になるとスティーリアは考えた。


 しかし、この提案には彼だけでなくショウタロウ自身にも利益がある。


 一国で国王に近い権力を保持する貴族の従者となれば状況によってはかなり動きやすくなるからだ。


(それにこの国で()()に通じる者を探しやすいし始末しやすいだろう。悪くないな)


「君の欲する情報は出来る限り君に回そう。そして、住み込み食事付きだ」


 情報を提供するという条件が後押ししショウタロウはスティーリアの提案に乗ることを決めた。


「分かりました。その提案に乗りましょう」


「契約成立だな。よろしくショウタロウ。その力をこれからは我が家のためにも奮ってくれ」


 スティーリアが満足そうに頷きながらそう言った瞬間に勢いよく扉が開いた。

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