公爵の困惑
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(私の目の前で一体何が起きているというのか)
彼こと王国の三大貴族と謳われるグラキエース家の現当主であるスティーリア・グラキエースは困惑していた。
王都から彼の領地に帰る途中に盗賊達に待ち伏せされていたらしく、抵抗する間もなく息子のリョートを人質に取られたのだ。
彼は一人で王国の騎士団に匹敵する魔力を持っていると言われている程だ。
その事が盗賊達がそれなりの手練であるということを物語っている。
しかし、その彼らは頭ただ一人を残して突然現れたリョートと同世代の少年にのされてしまったのだ。
そんな少年にスティーリアはこんな状況でありながら興味を持っていた。
なぜなら、少年からはあんな人間離れした動きをしていたのに、魔力は一切感じられなかった。
この世界の戦闘力の高さと魔術の才はイコールと言っても過言ではない。
つまり、通常なら魔術がまともに使えない者はあんな動きが出来るはずがない。
それどころか、スティーリアは別の不気味な何かが少年の中で蠢いているような気がしたのだ。
***
少年は拾った棒をいつもの調子で帯に誘うとした時、自分が未だにほぼ裸である事に気づいた。
(そう言えば、荷物返してもらわないと)
「あの、そろそろ荷物を返してもらいたいのですが」
少年は、棒を左手で腰辺りに持ち、盗賊の頭にゆっくりと歩み寄る。
その瞬間、
「ち、近づくな!!」
頭はリョートの顔に自分の手を近づけ叫ぶ。それに呼応するように彼のても異常に発光する。
頭が手に魔力を集め、魔術を放とうとしているようだ。
しかし、頭は冷静さ失っているようだ。
伏兵に忍ばせていた者達のことは見破られ、彼らを含めて全員一人の少年に気絶させられたのだ。当然だろう。
そのためか頭の魔術は上手くコントロール出来ておらず、今にも暴発しそうだ。
「まあ、少し冷静になりましょう。このままだとあなたも怪我することになる」
少年が頭を宥めようと近づいて行くが、彼の手には更に魔力が集められていく。
「し、少年……!?」
止まってくれと言う意味でスティーリアが叫ぶと彼はこちらに少しだけ振り返り、自信ありげな笑みを浮かべ小さく頷く。
「まあまあ」
少年は歩みを止めることなく頭へと近づいて行く。
頭も動揺しているらしく、魔術を放つ事なく、ただわけも分からない事を叫び続ける。
そして、遂に少年が頭のすぐ前に来た。
スティーリアはこのまま頭にさっきの部下達のように一撃入れるかと思うとそのまま少年は通り過ぎて行く。
「何をやっているんだ、少年?!」
そう叫んでからスティーリアはある違和感に襲われた。
(彼は、棒を右手で握っていたか?何故彼は棒を振り下ろした状態でいるんだ?いつあれを左手から抜いた?)
「カハッ」
彼がそんな事を考えていると頭が白目を剥きそのままうつ伏せに倒れていく。
リョートも彼と同じく何が起こったのか分かっていないようで、周囲を見渡している。
「荷物は……あった」
今までの戦いなど無かったかのように何食わぬ様子で少年は何かを探し始め、見つけたようで、一人の倒れている盗賊に近づいて行く。
「えい」
そして、子供の様な軽い声を上げ盗賊を蹴った。その盗賊は矢のような勢いで飛んでいき木に衝突した。
あんな華奢な身体にどれだけの力があるというのだろうとその場の誰もが思った。
どうやら少年は、盗賊の下の荷物を取りたかったらしい。
「うん、全部揃ってる」
少年は、何事も無かったかのようにその場で所謂和服を羽織りだす。
それまで少年を見ていたスティーリアは自分がそんな事をしている場合ではないことに気づき、直ぐに地面にへたり込んでいる息子のリョートに駆け寄った。
「リョート!大丈夫か?!」
スティーリアは血が少し流れるリョートの傷口を撫でた。
「は、はい父上……しかし、あの黒髪の奴は一体……」
スティーリアがリョートに釣られ少年の方を見ると、彼は既に服を着終わり荷物を整理しているようだった。
そして、鞘と柄の間に鎖が多く巻かれた刀を帯に差した。しかし、刀をスティーリア達は一度も目にした事なく珍しく思った。
(しかし、あの剣……危険な何かが宿っていると私の勘が告げている)
スティーリアは少年に改めて警戒心を持つが、彼に助けられたのは事実だっため、
「ありがとう少年。助かった」
直ぐに少年に礼を言った。
「な!?父上!何故貴族が旅人などに礼を言うのです?!しかも奴はいみ……」
それ以上をリョートが言わないようにスティーリアは口を開く。
「貴族だからだよリョート。我々は民のおかげで生きているのだ。そして、彼に命を助けられたのだ。だからこそ礼を忘れるな」
強めの口調でスティーリアはリョートを諭した。
「……はい」
不満げではあるがリョートは素直に返事をし俯く。
「僕はただ荷物を取り返したかっただけなのでお気になさらず。では」
少年は余程居ずらかったのか直ぐにその場を去ろうとする。
「少年待ってくれ。お礼をさせて欲しい。食事だけでも食べて行ってくれ」
「いえ、お構いな『グルルルル』」
彼が断ろうとした時、地に響くような不気味な音が辺りに響く。
「何だ?!魔獣か?!」
辺りを見回すが何も居ない。仮に何か来たとしてもどうにかして退治できるだろう。
「旦那様方、速く馬車へ!!」
今の今まで空気だった従者がここに来て馬車を操りこちらへ来た。
「分かった、少年も速く」
スティーリアがそう言って少年の方を見ると、彼は倒れていた。
(まさか、先程の戦いで?!もしくはこの鳴き声の主に?!)
「すみません、貴族様……。先程の音は僕の腹の虫です」
「…………」
彼はそのまま無言で少年を馬車に乗せ屋敷へと運んだのだった。
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さて、白達磨自信ラブコメの方が書くのが得意な訳で今までのバトル物は駄作すぎて自ら削除する程です。
今回の作品は消さないように頑張りたいです。応援よろしくお願いします。