リョートの決意
オーガベアとの一件から一週間程経った。
スティーリアの怪我はリョートの飲ませた上級ポーションの効果で既に完治していたが、フォルにより彼はずっと寝室で横になっていた。
事後処理の為にショウタロウが度々ギルドを訪問したため、《幻影の狂剣士》の噂が瞬く間に広がっていた。
そんなショウタロウの凄さを再認識する事となった今回の事件以降、リョートは黙り込み、何かを考える事が多くなった。
「どうされました?リョート様」
「ショウタロウ……いや、何でも無い」
という会話が幾回も繰り返された。
そんなある日。
今日は暑いですねとショウタロウがフォルと共に話しながら花に水をやっていた所、リョートが現れた。
リョートは最近、この時間には屋敷の周囲を散歩しているはずだ。そうショウタロウが不思議に思っていると、下を向いていた彼が意を決したらしくショウタロウの顔を見る。
「どうされました?リョート様」
何回目か分からないフレーズをショウタロウが言う。
それを聞くと同時にリョートは勢い良く頭を下げた。
「私……いや、俺に戦い方を教えてください!!」
再び上がったリョートの顔は今までの何処か冷めた表情では無く、年相応の少年らしい憧れや恥が入り交じった表情が浮かんでいた。
「私は向こうへ行きますね」
何かを察したのかフォルはそんな事を言いながらその場を離れる。
そこにはショウタロウとリョートの二人だけになった。
「えっと……何で僕なんですか?それに一人称……」
この一週間でリョートは自分から外に出たり運動したりと少しずつ変化してきた。ショウタロウもその事に気づいていた。
「今まで俺はただ父上の様にならなければいけないと思っていました。それで父の真似ばかりして魔術を学びそれだけで良いと思っていました。けど、父やあなたのように誰かを信頼し、守れないと意味がないって分かったんです」
ショウタロウがリョートのプライドの高さの原因が魔術の才能ではなく、父の様にならなければという思い込みや焦りだと知ったのはこの時が初めてだった。
才能があるが故に将来父の様になる事を周囲に期待され、いつの間にかそうならなければいけない。期待を裏切らない様に大切な事を学ばず頑張ってきたのだろう。
「だから、あなたのように人を守るための戦い方を教えてください!もし、誰かを守れるようになったその時に本当の意味で俺は父の真似事を始めようと思います」
リョートは最後に何の迷いもない笑顔を控えめに浮かべた。
人を守るための戦い方という言葉にショウタロウは複雑な気分になる。
(僕が目指さ無かった強さか……)
しかし、少なくともリョートの言葉にはショウタロウを動かす何かがあったのだろう。
「そこまで言うなら分かりました。先に言っておきますけど、リョート様に剣術は無理ですよ?」
「え、何で!?俺にはセンスが無いんですか?」
ショウタロウの言葉にリョートは露骨に残念がった。
「スティーリア様と同じで骨格が向いてないんです。センス以前の問題です」
今まで抑え込んでいたのかリョートの表情はコロコロと変わり、ショウタロウはそれが可笑しく吹き出す。
「どうしたんです先生?」
「は、先生?誰が?僕が?」
「はい、これからあなたに色々教えて頂くのだから当然でしょ?」
「流石にそこまでは……」
従者の身でありながら主に師と仰がせるのは流石に不味いのではとショウタロウは思う。
その時、突然屋敷の窓が広く。
ショウタロウとリョートがそれに気付きそこを見上げるとスティーリアが顔を突き出した。
そして、グッと親指を立て突き出すと中に戻り窓を閉めた。
(あの人何してるんだろ?)
主の唐突な奇行にショウタロウは戸惑う。そんな彼とは反対にリョートは何やら一人で感動していた。
「父の許しも得た事でこれからお願いします、先生!!」
ショウタロウは内心ため息を吐いた。




