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黒の忌み子が刀抜く。  作者: 白達磨
11/23

一方、彼らは

 ***


 スティーリアがオーガベアと激闘を繰り広げていた頃、彼に指示された弓使いはグラキエース家の屋敷に到着した。


「す、すみません!!」


 休む事無く走り続けた彼は肩で息をしながら屋敷の扉を勢い良く開いた。


「どうされたんですか?」


「誰か水を」


 駆け寄って来た使用人達が慌てふためく中、弓使いはその内の一人の腕を掴む。


「え?」


 突然の事に掴まれた使用人は間抜けな声を上げる。


「氷魔術を扱う……白髪の方が……助けを呼べと……」


 そんな事等気にせず彼は途切れ途切れに言った。


「た、大変だ!旦那様だ!あの方が助けを呼ぶなんて……」


「しかし、フォル様はオスカー領へと出掛けられている最中。この屋敷にそれだけの戦力を持つ者など……」


 主人の危機に対し、使用人達は焦る。


 そんな彼らを見て、弓使いはパーティーメンバーの救出を諦めようとした。


「何を騒いでいる?」


 続々と使用人が集まり、焦りと不安により屋敷がざわめきで支配されかけた時、鶴の一声と言わんばかりにリョートの声で全員が口を塞いだ。


 静寂が辺りを支配するとリョートは書庫から出て、使用人達の元へと行く。


「リョート様……それが」


 使用人達は、彼の登場したにも関わらず、不安な表情のままだった。


 リョートは確かに魔術の天才と言えるが、スティーリアやフォルに敵う程でも無く、力不足だと誰もが思ったからだ。


「リョート様ー。突然どうされたのです?」


 そして、リョートの後を追ってショウタロウが書庫から出てくる。


「そうだ、ショウタロウさんなら」


「ああ、ショウタロウならいける!」


 ショウタロウを見た途端、使用人達の表情に再び希望が戻る。


「ん?どうされました?」


「話してみろ」


 リョートに促され、弓使いが渋々話し始める。貴族とは言え、自分よりも二、三歳下の少年に命令され気に食わなかったのだろうか。


 弓使いが手短に説明し終えるとリョートにまでもが慌てだす。


「は、早く向かわなければ」


 リョートは口にすると直ぐに行動に移し、扉へ向かって走り出そうする。しかし、それはショウタロウによって未然に防がれた。


「お待ちください、リョート様」


 ショウタロウはリョートの服の襟首を掴み強く引っ張る。


 首が絞まったらしく、彼は軽く噎せた。


「な、何をするのだ!」


 息を整えた後、リョートがショウタロウに詰め寄るが、ショウタロウは全く気にする様子無く、冷静に告げる。


「まず、何処なのか分かるのですか?」


「うぐ」


「それに、貴方が行って何になると言うのです?」


「うぐぐ」


「もっと言えば、貴方の足では手遅れになりますよ?」


「そこまでにしましょう、ショウタロウさん」


 ショウタロウの辛辣な言葉の数々に怒りを通り越し自信を無くし始めたリョートを見兼ねた使用人の一人が止めに入る。


「では、僕は今から向かいます。弓の人、何処です?」


「これで安心ですね」


 ショウタロウがそう告げ、気を全身に巡らせ湯気の様な物が出だすと、使用人達は安堵した。


 しかし、一人だけそれに異議を唱える者が居た。無論、彼の実力を知らない弓使いだ。


「こんな魔力の無い若い少女を行かせてどうするつもりだ?この屋敷の人間は馬鹿なのか?」


 声を荒らげ捲し立てる弓使い。当然だ。こんな事をしている間に仲間の命に危機が迫っているのだから。


「こんなの時間の無……」


「五月蝿いですよ?その魔力とか言うものでしか実力を測れない程度の者が口を開かないでください。僕は何処かを聞いたんです」


 更に口を開こうとする弓使いより先にショウタロウが喋り彼を黙らせる。


 弓使いの頭に血が登り、ショウタロウの目を途端、絶句した。彼の目の前には、スティーリアすらも怖気付かせた瞳があった。


「急いでいるのは分かります。だからこそ、落ち着いて速やかに必要事項を話してください。ギルドでもそう教わっている筈です」


「あ、ああ。この屋敷の正面の森だ。入って五分位だった筈だ」


 それを聞くとショウタロウは目を閉じる。


 読む気の範囲を屋敷から周囲へと少しずつ広げていき、森までに至らせる。丁度魔術を行使していたスティーリアの気だけがハッキリと感じ取れた。


「確かに、入って五分の所でスティーリア様の気がありますね。全力で行けば二分もかかりませんね」


 ショウタロウはそう真顔で告げた。


 彼の当たり前だと言わんばかりの態度と発言に弓使いはギョッとするが、彼に怯え何も言わない。


「直ぐに終わらせてきます。弓の人は後から着いてくるなりしてください」


「お、おう」


 ショウタロウは扉の前に立つと半身だけ振り返り告げ、出て行こうとするが、リョートがそれに待ったをかける。


「待て、ショウタロウ」


「この期に及んで何です、リョート様?急いでいるのですが?」


「私を連れて行け」


「本気で言ってます?」


 圧をかけながらショウタロウがリョートに問うが、彼は怯まない。


「お前の邪魔はしない」


「はあ……確かに、リョート様が居てくれればその冒険者達に気が取られ無くなりますね……良いでしょう」


 リョートは意外とあっさりショウタロウが認めた事に呆けるが、直ぐに力強く頷いた。


 周りの者達の様なただの強者と言いなりになる訳では無く、かと言って父、スティーリアの様な半人前と扱う訳でも無く、一人の同等の者として接してくれるショウタロウにリョートは心を開こうとしていた。


「では、どうぞ」


「……何をしている?」


 ショウタロウはリョートに背を向けしゃがむ。その奇怪な行動にリョートは突っ込まずには居られなかった。


「あ、そうでしたね」


「そ、そうだよな」


 リョートの視線から何を察したのかショウタロウは立ち上がり彼に歩み寄ると、懐から青と緑の小瓶を取り出し手渡す。


「何だこれ?」


「青が酔い止めです。今飲んでください。緑は吐き気止めです。現場に着いて吐きそうな時に飲んでください」


「吐き気止め?!」


「はい、結構僕の背は酔うらしいです」


 そう言うと、再びショウタロウはリョートの前にしゃがむ。


 リョートをおぶる事は決定事項らしい。


 リョートは諦めて青の小瓶の中の液体を飲み干した。独特の匂いがするが少し甘い液体だった。


 そして、ショウタロウの背に体重を預ける。


「では、行きますよ」


 そう言った瞬間、ショウタロウが斜め前へと跳び出すと十メートル以上の高さまで達した。

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