プロローグ
少年は、今にも消えてしまいそうな意識を精一杯留めていた。
彼の視界には、同胞が次々と不思議な術で殺されていく光景が広がっていた。
家屋は焼かれ、次々と崩れていく。
辺りは、同胞の悲鳴と襲撃してきた者達の下劣な笑い声、禍々しい獣達の咆哮に支配された。
少年は思う。
(僕、死ぬのかな……このまま……何も、出来ずに)
次第に彼には、ヒューヒューという掠れた呼吸音しか聞こえなくなってきた。
彼の腹からは赤黒い血が滲み、周囲を濡らしていた。
襲撃が始まった瞬間、何者かに貫かれたのだ。
(僕達が……何をした?傷つけるどころか力を貸したじゃないか?)
振るわれる覚えのない暴力。
その理由を精一杯探してみるが、全く思い浮かばない。そんなものは、ハナから存在しないからだ。
悲しみ、怒り、憎悪、後悔……。
多くの感情が少年の頭を巡り過ぎ去っていく。
流れる涙は熱によって直ぐに蒸発し、喉から声は出ない。
これが絶望なのだと彼は思った。
彼の目の前に二人の男がやって来た。
鍵に蛇が巻きついた独特な印を刺繍してあるローブを二人共纏っている。
「おい、こいつまだ生きてるぞ?」
「確かアイツらが生かしておくと面倒な事になるから真っ先に殺せって言ってたよな」
「そうか、なら殺っちまうか………酸魔術……」
片方が笑いながら手を突き出すとその手が発光し始める。
「お前も飽きねえな」
もう片方が呆れたように呟く。
(僕もこれで終わりか……)
少年は覚悟した。しかし、いくら待っても攻撃がこない。
不思議に思い周囲を見渡せば原理は分からないが、人や獣、家屋を焼く炎やそこから出る煙さえもがピタリと停止していたのだ。
(何が起こっているんだ?)
少年が疑問に思っていると頭上から啜り泣く声が聞こえてきた。その声の方を向くと禍々しい黒い何かが宙に浮いて泣いていた。
『どうして……私の大事な民を……』
黒い何かの声が耳から聞こえるのではなく頭に直接響く。
『お前達は何もしていないと言うのに。生き残ったのは一人だけ』
そう言いながらそいつは少年へと視線を向ける。
その瞬間、黒い刀身の刀と紅い刀身の刀が地から生えてくる。そして、それらは意思があるかのように彼の元へと飛んで来る。
『お前はどうしたい?』
(僕は……)
「い……ぎ……たい」
血が溢れてくる口で途切れながらも必死に言葉を紡ぐ。
『ならば、それを握れ。もう二度とこんな事が起こらないように、無慈悲な暴力に対抗するためにそれで敵を殺せ。……だが、人のままでいられると思うな。選択はお前次第だ。』
その言葉を聞き、彼は何の迷いもなく、紅い刀身の刀を握った。
『もう、戻れないぞ。使い方は分かるな?』
彼は小さく頷いた。
面白ければブックマーク登録や評価お願いします。励みになります。