Episode.0
暗闇の中に、一つの光があった。
「来たぞ! ……漆黒の幻影だッ!」
複数人で固まっていた者の一人がそう言った。他の者も慌てて周りを見渡すが、姿は確認出来ない。確認出来ないまま、倒れていく。
みんな最後に目にするのは、藍色の瞳。
――見つけた
小さな声で呟く。音になっていたかはわからない。
闇の中に紛れて光る瞳。それさえなければこの影を捉えることすら出来ないだろう。
その場にいた者たちを全員気絶させた影は、彼らが守ろうとしていた機械に触れた。何かのシステムだろうか。起動し、辺りが少し明るくなる。
影はそれを一瞥した後、USBにデータを移した。そして容赦なく、そのシステムを壊した。
そして後は興味が無くなったかのように去っていく。まるで何事もなかったように。最低限の動きで。
「ねぇ、ちょっと待ちなよ」
ひゅん! 声とともに繰り出した斬撃。しかし影はそれに反応し、避けると同時に蹴りを飛ばしてくる。
が、それを避けて同じように足をあげた。影の顔面目がけて。影はそれを、受け流して弾く。
視線が一度、交わる。
影は、そのまま姿を消した。
その後ろ姿を見送る。
「――おい、白衣の装飾!!」
「んー?」
「どういうことだ!? 約束と違うじゃないか!」
自分の通り名を呼ばれて振り返れば、ぜえぜえと息を切らした髪の長い細身の男が扉の前に立っていた。明らかに焦ったように文句を言われているが、さほど興味は出ない。
「約束っていってもなぁ……俺は漆黒の幻影を見たいと言っただけですよ。システムを守るとは言っていない」
「くっ……! しかし良いのか!? 逃げられてしまっているぞ!?」
「そうですねー、まぁ相手が相手ですし」
駆け寄ってきた男は不服そうだったが、対して俺はただただ暢気に、漆黒の幻影が消えた闇を眺めていた。
ついと、口の端が上がる。
「それに……」
「あ?」
――すぐに、また会うだろうし。
内心で、そう呟いた。