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悲しくも美しいこの世界で  作者: 静観 啓
第1章 『一人と一人の出会い』
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第19話 「謝罪、そして仲直り」

 戦闘が終わってすぐ、シュウ、ソウマ、イチカの三人はすぐさまタケルと俺のところに駆け寄ってくる。タケルは聖遺物レリックの使い過ぎで体力を消耗しているようだったが、他の三人はいたって元気だった。シュウが興奮気味に口を開く。


「本当にあの数のリザードマンを倒しちまったよ! 俺たちスゲーな!!」


 シュウが盛り上がるのも分かる。通常、このメンバーの実力でリザードマンを倒すことは不可能に近い。それでも倒せたのは、タケル率いるソウマとシュウがいたからだ。

 そう説明すると、シュウは恥ずかしそうに頬を掻く。


「いやー、それほどでもねぇよ。今日は調子が良かったんだ」


 そういう彼はまんざらでもなさそうな様子。こういう仲間を見ると、指揮を取るのも悪くないと思ってしまう。しかしその中の一人、ソウマだけは浮かない顔をしていた。


「どうしたんだよ、ソウマ。そんな顔して。何か気になることでもあるのか?」


 シュウの言葉に、ソウマは迷いながらも口を開く。


「調子がいいのは認める。だが、あまりにも良すぎる。気持ち悪いくらいだ。それに、リザードマンも噂に聞くほど脅威ではなかった」


「私も同感です」


 ソウマの言葉に、タケルも共感する。


「まるでこちらのクールタイムが分かっていたかのように、リザードマンが動いてくれていました。だから、効率よく能力を発動させることが出来たんです。一体これはどういうことなのか説明してもらえますか?」


――気づくやつもいるんだな。


 俺は思わず内心で感心してしまう。

 二人の視線を一心に集めつつ、俺はしょうがないので口を開く。


「簡単なことですよ。こちらで相手の行動を誘導したんです。詰将棋の要領ですよ」


 まず初めに、シュウの聖遺物レリックの効果でリザードマン全員の注意を彼に向けさせる。今回の戦いで最も怖いのは、六体のリザードマンが一度に襲ってくることだった。つまりそのリスクを最初に回避しておく。しかし問題もある。それが、六体のリザードマンをシュウは相手に出来ないということだ。だから、次にリザードマンの部隊を分断する必要があった。つまりタケルの聖遺物レリックの能力で一体を倒し、注意を分散させ、シュウが三体、ソウマとイチカで二体のリザードマンを相手にする場面を作ったのだ。だがそうすると、新たな問題が出てくる。それがソウマの聖遺物レリックでは決定打にかけるということだ。もちろんイチカは今聖遺物レリックを持っていないので論外。そうなれば、時間稼ぎしか方法はないが、それも不安が残る。そこで考えたのが、イチカの配置だ。常にリザードマンの背後に立つことで、彼らに圧をかけ続け、ソウマとの戦闘に集中させないというものだ。あとは簡単。イチカの配置を少し変えてやるだけで、リザードマンを一列に並ばせることができ、そこをタケルの聖遺物レリックで打ち抜くだけ。ソウマが調子がいいと感じたのは、イチカの圧があったからだろう。

 このことを説明すると、三人とも目を丸くしていた。


「マジかよ……」


「そんなこと不可能です」


「俺も同感だ」


 三者三様、それぞれ驚くがそこまで難しいことではない。


「確かに、普通なら難しいでしょう。でも相手がリザードマンなら可能です」


 リザードマンは、良くも悪くも勘がいい。戦闘では戦略を立て、こちらの戦力を計算しながら襲ってくる。つまり、ブラフも効くということだった。

「だから、僕の雇い主の彼の場所を調整するだけで、相手をコントロールすることが出来るのです」

 俺の説明に、三人が顔を見合わせる。

 そして次の瞬間。


「お前見た目によらずスゲーな!!」


 シュウが駆け寄ってきて俺の頭を脇に抱えホールドする。


「ちょ、ちょっと!?」


「まさかここまで出来る奴だと思わなかったぞ!!」


 彼は雑に俺の頭を撫でながらニヤニヤ笑う。

 しかしそれを真剣な眼差しで見つめる者が一人。彼はじゃれつくシュウに笑うことなく、突然頭を下げた。


「すみませんでした」


 ソウマのそれに、俺だけでなくシュウも目を丸くする。


「え!?」


「ど、どうしたんだよ。お前が謝るなんて……」


「俺だって、自分が悪いと思ったら謝るさ」


 悪い? 彼は何かしたのだろうか。俺は心当たりがなく、思わず聞いてしまう。


「なんのことですか?」


「俺は、お前が荷物持ちバックスというだけで見くびってた。バカにしていた節もある。それの謝罪だ」


 彼の言葉で、納得する。確かにソウマは、俺がチームに合流するのも、戦闘で指揮を取るのも反対してた。

 だが。


「頭をあげてください。ソウマさんの判断はもっともです。普通、荷物持ちバックスが指揮を取るなんてありえません。心配になるのも分かります」


「でも……」


「いいんですよ。今はこうして認めてくれているんですから」


「そう言ってもらえると助かります」


 頭をあげた彼の顔は、今まで見たものとは違って、柔らかい年相応の顔だった。

 和やかな雰囲気が漂う中、タケルがさてと言って場を仕切り直す。


「仲直りしたことですし、ここいらで一つ、私たちが忘れていることをしませんか?」


「忘れていること?」


 俺の言葉に、タケルは律儀に頷く。


「自己紹介ですよ」


 彼の言葉で、初めて俺たちが自己紹介していなかったことに思い至る。


「確かに。していませんでしたね」


「ええ。タイミングを見失って出来ていませんでしたから、これを機にどうでしょうか?」


 彼の申し出に、俺は思わず口をつぐんでしまう。自己紹介をするということは、自分の名前やイチカの紹介をしなければならないということだ。さんざん身分を偽ってきて、ここで本当のことを言うわけにもいかない。悪い人たちではないということは分かってはいるが、ここばかりは譲れなかった。


「何か不都合なことでもあるでしょうか?」


 何かを感じたのだろう。タケルが気にかけてくれる。


「いえ……。そういう訳ではないんですが…………。自己紹介というものが苦手でして」


「そういうことですか。気にしなくて大丈夫ですよ。名前だけ教えてくれれば」


 俺は戸惑いながらも、仕方なくその偽名を口にした。


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。読んでいただいて面白いと思っていただけた方は、ブックマーク、評価、感想等よろしくお願いいたします。

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