第19話 「謝罪、そして仲直り」
戦闘が終わってすぐ、シュウ、ソウマ、イチカの三人はすぐさまタケルと俺のところに駆け寄ってくる。タケルは聖遺物の使い過ぎで体力を消耗しているようだったが、他の三人はいたって元気だった。シュウが興奮気味に口を開く。
「本当にあの数のリザードマンを倒しちまったよ! 俺たちスゲーな!!」
シュウが盛り上がるのも分かる。通常、このメンバーの実力でリザードマンを倒すことは不可能に近い。それでも倒せたのは、タケル率いるソウマとシュウがいたからだ。
そう説明すると、シュウは恥ずかしそうに頬を掻く。
「いやー、それほどでもねぇよ。今日は調子が良かったんだ」
そういう彼はまんざらでもなさそうな様子。こういう仲間を見ると、指揮を取るのも悪くないと思ってしまう。しかしその中の一人、ソウマだけは浮かない顔をしていた。
「どうしたんだよ、ソウマ。そんな顔して。何か気になることでもあるのか?」
シュウの言葉に、ソウマは迷いながらも口を開く。
「調子がいいのは認める。だが、あまりにも良すぎる。気持ち悪いくらいだ。それに、リザードマンも噂に聞くほど脅威ではなかった」
「私も同感です」
ソウマの言葉に、タケルも共感する。
「まるでこちらのクールタイムが分かっていたかのように、リザードマンが動いてくれていました。だから、効率よく能力を発動させることが出来たんです。一体これはどういうことなのか説明してもらえますか?」
――気づくやつもいるんだな。
俺は思わず内心で感心してしまう。
二人の視線を一心に集めつつ、俺はしょうがないので口を開く。
「簡単なことですよ。こちらで相手の行動を誘導したんです。詰将棋の要領ですよ」
まず初めに、シュウの聖遺物の効果でリザードマン全員の注意を彼に向けさせる。今回の戦いで最も怖いのは、六体のリザードマンが一度に襲ってくることだった。つまりそのリスクを最初に回避しておく。しかし問題もある。それが、六体のリザードマンをシュウは相手に出来ないということだ。だから、次にリザードマンの部隊を分断する必要があった。つまりタケルの聖遺物の能力で一体を倒し、注意を分散させ、シュウが三体、ソウマとイチカで二体のリザードマンを相手にする場面を作ったのだ。だがそうすると、新たな問題が出てくる。それがソウマの聖遺物では決定打にかけるということだ。もちろんイチカは今聖遺物を持っていないので論外。そうなれば、時間稼ぎしか方法はないが、それも不安が残る。そこで考えたのが、イチカの配置だ。常にリザードマンの背後に立つことで、彼らに圧をかけ続け、ソウマとの戦闘に集中させないというものだ。あとは簡単。イチカの配置を少し変えてやるだけで、リザードマンを一列に並ばせることができ、そこをタケルの聖遺物で打ち抜くだけ。ソウマが調子がいいと感じたのは、イチカの圧があったからだろう。
このことを説明すると、三人とも目を丸くしていた。
「マジかよ……」
「そんなこと不可能です」
「俺も同感だ」
三者三様、それぞれ驚くがそこまで難しいことではない。
「確かに、普通なら難しいでしょう。でも相手がリザードマンなら可能です」
リザードマンは、良くも悪くも勘がいい。戦闘では戦略を立て、こちらの戦力を計算しながら襲ってくる。つまり、ブラフも効くということだった。
「だから、僕の雇い主の彼の場所を調整するだけで、相手をコントロールすることが出来るのです」
俺の説明に、三人が顔を見合わせる。
そして次の瞬間。
「お前見た目によらずスゲーな!!」
シュウが駆け寄ってきて俺の頭を脇に抱えホールドする。
「ちょ、ちょっと!?」
「まさかここまで出来る奴だと思わなかったぞ!!」
彼は雑に俺の頭を撫でながらニヤニヤ笑う。
しかしそれを真剣な眼差しで見つめる者が一人。彼はじゃれつくシュウに笑うことなく、突然頭を下げた。
「すみませんでした」
ソウマのそれに、俺だけでなくシュウも目を丸くする。
「え!?」
「ど、どうしたんだよ。お前が謝るなんて……」
「俺だって、自分が悪いと思ったら謝るさ」
悪い? 彼は何かしたのだろうか。俺は心当たりがなく、思わず聞いてしまう。
「なんのことですか?」
「俺は、お前が荷物持ちというだけで見くびってた。バカにしていた節もある。それの謝罪だ」
彼の言葉で、納得する。確かにソウマは、俺がチームに合流するのも、戦闘で指揮を取るのも反対してた。
だが。
「頭をあげてください。ソウマさんの判断はもっともです。普通、荷物持ちが指揮を取るなんてありえません。心配になるのも分かります」
「でも……」
「いいんですよ。今はこうして認めてくれているんですから」
「そう言ってもらえると助かります」
頭をあげた彼の顔は、今まで見たものとは違って、柔らかい年相応の顔だった。
和やかな雰囲気が漂う中、タケルがさてと言って場を仕切り直す。
「仲直りしたことですし、ここいらで一つ、私たちが忘れていることをしませんか?」
「忘れていること?」
俺の言葉に、タケルは律儀に頷く。
「自己紹介ですよ」
彼の言葉で、初めて俺たちが自己紹介していなかったことに思い至る。
「確かに。していませんでしたね」
「ええ。タイミングを見失って出来ていませんでしたから、これを機にどうでしょうか?」
彼の申し出に、俺は思わず口をつぐんでしまう。自己紹介をするということは、自分の名前やイチカの紹介をしなければならないということだ。さんざん身分を偽ってきて、ここで本当のことを言うわけにもいかない。悪い人たちではないということは分かってはいるが、ここばかりは譲れなかった。
「何か不都合なことでもあるでしょうか?」
何かを感じたのだろう。タケルが気にかけてくれる。
「いえ……。そういう訳ではないんですが…………。自己紹介というものが苦手でして」
「そういうことですか。気にしなくて大丈夫ですよ。名前だけ教えてくれれば」
俺は戸惑いながらも、仕方なくその偽名を口にした。
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