「方舟去りしのち」
「方舟去りしのち」
命の行方を、決めるのは誰?
いにしえに生者と、死者を分けた方舟は、いまも空に、浮かんでいる。
間抜けにも僕は、それに乗り遅れた。
せっかく乗れた方舟から、飛び降りる君。
荒野に2人残されて、ここからが本当の、創世記の始まりだと、笑う君。
命の行方を、決めるのは誰?
たとえ神に、見放されたのだとしても、遠ざかる方舟を、見送ったそののちの、物語を紡ぐ、権利が僕らにはある。
神話から離れて、もう奇跡は願えない。
けれど人が生きるとは、野に咲く小さな花のような、希望を紡いでいくことだったはず。
命の行方を、決めるのは誰?
見えないその行方を、案じることはない。
何故なら僕らは、方舟ではなく、何もない荒野を、歩くと決めたから。
もしどこかで倒れても、振り返ればそこまでの、重なる2つの足跡が、きっと見えるでしょう。
命の行方を、決めるのは誰?
もしもあの時、方舟に乗れていれば。
もしもあの時、方舟から飛び降りなければ。
僕らはもっと、遠くまで願ったところまで、行けたかも知れない。
けれど命の行方を、決めるのは僕。
けれど命の行方を、決めるのは君。
さっきまで笑ってた、君が泣きそうな顔で見るから、僕は真似して言ってみる。
ここから先は、神話ではない。
たとえ世界の形は作れずとも、命の軌跡を決める旅の始まりだと。
最近、大きな病を得て、生きること、死ぬことを、シビアに考えるようになった。
その中から、言葉が生まれ、この作品となった。