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第六章:慈悲の心

 私は朝日が昇る前に目を覚ましました。


 起きた私は皆が寝ている事を確認し入り口へ行きました。

  

 ただ・・・・・・・・


 「今度は何処に行くんだい?」


 背後から声を掛けられて振り返るとヴァルターさんがグレーの瞳で私を見つめていました。


 「・・・・何時から起きていたんですか?」


 「君より少し早くね。それで何処に行くつもりだったんだい?」


 「・・・・自分のやった結果を見る為・・・・祈るんです」


 「・・・・慈悲深いね」


 自分達を殺す存在にも祈るんだからとヴァルターさんは言いましたが皮肉る様子はありませんでした。


 そして私の行動を読んでいた態度にも私は驚かず・・・・こう言いました。


 「私の亡き師が言ったんです」


 『例え人に仇なす存在にも慈悲の心を見せなさい。自衛は否定しませんが・・・・それでも心ならずも他者の命を奪ったなら祈る事が自分自身を救うのです』


 「・・・・立派な教えだ。そして君の亡き師はディアマント・シャーストリの教えを受け継いでいるね」


 「自慢の師でしたから・・・・・・・・」


 ヴァルターさんの言葉に私は自分のように微笑みながら入り口のドアを開けました。


 外は今も暗いですが山奥の寺院で育った私には見慣れた光景です。


 そして外の壁を見ると・・・・蠱毒蜂が圧縮されたのが端から見ても判るほど妙に膨らんでいました。


 「・・・・・・・・」


 私は自分の魔法で蠱毒蜂を倒したという結果に冒険者として喜ぶ反面・・・・心ならずも蠱毒蜂を殺してしまった罪悪の念を覚えました。


 私が魔法を使わなければ私達が死んでいたのは間違いないでしょう。


 ですが・・・・いえ、だから・・・・私は膝を折りました。


 「この者達の魂を浄化し・・・・どうか、来世では幸あらん事を・・・・・・・・」


 私が祈ると土の底から浮遊した気体が出て来ました。


 「・・・・君は”浄化”の魔法も使えるようだね」


 ヴァルターさんが天高く浮遊する気体---蠱毒蜂の魂を見上げながら断言するように言ってきました。


 「浄化か、どうかは解りませんが・・・・真摯に祈れば魂は救われると教えられましたから」


 「良い師だったんだね?あそこまでハッキリ見える”清浄な魂”は久し振りだ」


 「・・・・ヴァルターさんも魔法が使えるんですか?」


 常人では魂の類は見る事は出来ません。


 ですが魔力を持っている者なら見えるという言葉を思い出し私は問い掛けました。


 「まさか・・・・ただ、君が心から蠱毒蜂の為に祈る姿は見えたたよ」


 まさに「聖女」のようだったとヴァルターさんは茶化した口調で言いますが私は首を横に振りました。


 「私は聖女ではありません。ただ、亡き師が教えてくれた事をやっているんです」


 「どんな師だったんだい?君の師は」


 ヴァルターさんの問いに私は亡き師の事を静かに語りました。


 「亡き師は私が育った寺院の長で、虚空教の中でも高い位にいました」


 ですが驕り高ぶらず、自身の知識を出し惜しみせず人々に与えてくれました。


 「私の薬学も師が教えてくれた物ばかりです」


 「自分の技術を出し惜しみしないのは良い性格だ。しかし、魔物退治に関してはどうだったんだい?」

  

 虚空教の人間は退魔の術に優れているとヴァルターさんは言い、それに私は頷きました。


 「亡き師も例に漏れず退魔の術は優れていました。ただ師は余り退魔の術を使いませんでした」


 「寧ろ"結界"を張り、そこから魔物を出さないようにしていたのかな?」


 ヴァルターさんは何でも御見通しとばかりに言いましたが嫌味はなく、私の性格などから師が如何なる人物か察した感じ


 「亡き師は退魔の術を使用せず結界を張り、それで魔物との境界線を敷きました。出来るならそれすらしたくなかったようですが」


 「・・・・自然に共存できるのが最良だからね。しかし、君の話から察して一度は見たのかな?」


 ヴァルターさんの問いに私は頷きました。


 「私が使いで里に下りた際、帰りが遅かった時に・・・・魔物を師は退治しました」


 私を護る為に・・・・・・・・


 「魔物を師は一瞬で倒してしまいました。そして私に何の説明もしてくれませんでしたが・・・・・・・・」


 寺院の先輩から亡き師は光、風、そして火の魔法を使える大家と教えられたとヴァルターさんに語りました。


 「大家ともなれば魔術師から畏敬の念を抱かれ、国からは教育者として呼ばれ、地位も名誉も欲しいままに求められるけど・・・・君の亡き師も他の大家と同じく例に漏れなかったんだね」


 「はい。亡き師は死ぬまで修行と称し野に下りませんでしたから」


 ヴァルターさんの言う通り魔術師の長い歴史に居た大家の多くは死ぬまで修行と称し殆どの方は流浪の最期を遂げました。


 私の師も例外ではありませんでした。


 ただ・・・・・・・・


 「大家の多くは魔法を最終的には使いたがらない傾向があるけど、その理由は君が見せた慈悲の心を誰よりも持ったからだろうね」


 「・・・・それが真実なのか私には解りません。ですが・・・・貴方に言われると如何なる言葉も胸を占めるので困ります」


 かなり恥ずかしい台詞を言っていると自覚しながら私が言うとヴァルターさんはこう返しました。


 「困る事なんてないさ。寧ろ俺の言葉で胸が占められるなら・・・・今度は俺自身で君の心を独占したいと思うよ」


 ただ後「6~7年後」とヴァルターさんは言いました。

 

 「今は・・・・駄目、なんですか?」


 私は理由が知りたくて問いました。


 「俺は旅した場所で女性と愛を育むのが趣味なんだ」


 「・・・・・・・・」


 「ただ、女性なら誰でも良い訳じゃない。俺の心に響く強い気を持つ女性が好みなんだ」


 私には当て嵌まらないと早々に私は自分に結論を下しましたがヴァルターさんは続けました。


 「君は自分に自信が無いだけで、後は俺好みさ。だけど流石に15歳になったばかりの成人女性をベッドに連れて行くわけにはいかないからね」


 「それなら・・・・いえ、何でもありません」


 私はヴァルターさんの台詞に自分が思った事を言おうとしましたが止めました。


 それはボリス達が入り口から出て来ると分かったからです。


 「ちっ・・・・人が聞きたい所で邪魔をするとは"良い性格"しているぜ」

  

 ヴァルターさんはあからさまな舌打ちをしてボリスを睨みました。


 「んだよ?朝っぱらから睨まれるような真似を、おっさんにした覚えは無いぞ」


 「今した。しかし・・・・この"借り"は後で払ってもらうから覚悟しておけよ?」


 「やれるもんならやってみろ」


 ヴァルターさんの台詞にボリスは喧嘩腰で応答しましたが、涼しい態度のヴァルターさんとボリスでは・・・・・・・・


 『どっちが上かは明らか・・・・ね』


 それはモニカとマリさんにも解ったのでしょう。


 「朝っぱらから喧嘩しないでよ」


 「案内人と喧嘩しても・・・・無意味だから止めなさい」


 2人に止められボリスは鼻を鳴らし折れましたがヴァルターさんを睨む事を止めません。


 ですがヴァルターさんはボリスから目を離し・・・・山の方を見ていました。


 「・・・・さぁて行くかい?」


 ヴァルターさんの問いに私は頷きましたがマリさん達は疑うような眼をしていました。


 それは昨日の件から私のようにヴァルターさんを疑っているからと私は直ぐ察しました。


 ただヴァルターさんが歩き出すと・・・・私と同じく後に付いて行きます。


 もっとも疑いの眼差しを向け続けているのは仕方ないでしょう。


 ですが・・・・・・・・


 ヴァルターさんからは疑う事は大事と言われましたが私の性格からでしょうか?


 『・・・・この方は敵ではない』


 根拠も無いのに私は既に確信していました。


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