幕間:冒険者パーティー
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ボリス、モニカ、マリの3人は焚き火の番をしながら傍らで眠る2人の男女を見た。
女の方はアンナと言い、今回の仕事が終わり次第パーティーから除名する予定だ。
それは3人で足枷になると判断したからで、それをアンナも承諾した。
しかし、ここに来てアンナの動きは自分達より上とボリス達は思い知った。
何せ自分達が息も絶え絶えだったのにアンナは息を乱さず案内人ヴァルターと先へ行ったのだから。
そして先ほどの蠱毒蜂。
蠱毒蜂を土の魔法で圧死させるのを提案したのはヴァルターだが、それを可能にしたのはアンナだ。
「・・・・見下していたわね」
マリがアンナを見て小さな声で呟いた。
「この娘も魔法が使えるのに・・・・戦闘に参加しないだけで私は・・・・見下していたわ」
これは魔術師が必ず一度は陥る「落とし穴」とマリは語った。
「どういう意味、ですか?」
モニカはマリの言葉の意味が解らず問い掛けた。
「魔術師は常人には使えない魔法が使えるわ。そして魔法を極めるために膨大な書物を読み漁るの」
それによって魔術師の誰もが自分は強い、偉いと錯覚するとマリは説いた。
「私の師はこれを落とし穴と称し・・・・私に口酸っぱく説いたわ」
『魔術師だって完璧ではない。寧ろ常人では使えない魔法を使えるから傲岸不遜の性格になり易く、他者を見下す癖も持ち易くなる。そして同じ魔術師に対しても自分より格下と見たら尚更そうなる』
「・・・・・・・・」
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ボリスとモニカはマリの言葉に無言となった。
「師の言った通り・・・・私も落とし穴に落ちてしまったわ」
自分はそんな落とし穴に落ちないと言っていたのに・・・・・・・・
「まったく・・・・飲んべえで、女好きな師の言葉が正しいなんて認めたくなかったわ」
しかし魔術師として独立してから今に掛け師が言った言葉に間違いはなかったとマリは語った。
「・・・・俺とモニカには師が居ないからあれですけど・・・・マリさんの台詞は耳が痛いです」
ボリスはマリの言葉に小さな声で相槌を打った。
「まったく・・・・情けないです」
「・・・・本当よ。案内人に馬鹿にされても無理ないわ」
ボリスの言葉にモニカはアンナの隣で眠るヴァルターを見て自嘲した。
「何者なんだよ。このクソおっさん」
ボリスはモニカの言葉を聞いてからアンナの隣で眠るヴァルターを見た。
ヴァルターは自分達に背を向けて寝ているから寝顔は分からない。
しかし今までの言動からして日雇い労働者とは考えられないとボリスは呟いた。
「アンナが生まれ育った寺院を築いた大師が登頂できなかった山で育ったと言っていたけど・・・・何処かしら?」
モニカがボリスの言動に続いて疑問を投げた。
「6000足の靴を履き潰しても登頂できなかった山だから・・・・恐らく常人では先ず登る事は不可能でしょうね」
「そんな山で育ったなら並外れた足腰の強さでも納得しますけど・・・・呪術の知識はどうなんですか?」
モニカの問いにマリは少し考えてからこう答えた。
「山岳信仰は山を神聖な存在としていて、地上の宗教とは違う独自の思考等があると・・・・言うわ」
それはアンナが自分より蠱毒について詳しいのが証明しているとマリは語った。
「だから案内人に呪術の知識があってもおかしくないわ。本人も荒仕事をやったと言っているし、多少は知っていた・・・・いえ、待って」
マリは自分の言葉を途中で遮った。
「奥深い山奥・・・・しかも常人では入れないような山で育った・・・・そして並外れた足腰・・・・」
まさかとマリは言い、ヴァルターを見た、
しかしボリスとモニカは訳も分からず尋ねた。
「・・・・“陰の者”と呼ばれる人間が闇の世界に居るの」
「陰の者」・・・・・・・・
聞き慣れない言葉にボリスとモニカは首を傾げた。
「陰の者は文字通り闇の世界の住人よ」
古代遺跡の発掘や調査または魔物退治や薬草を採取するけど私達とは似て非なる存在とマリは説いた。
「何故なら私達の仕事に・・・・“暗殺”とか“密猟”は無いでしょ?」
この言葉にボリスとモニカは息を飲んだ。
しかしマリは言った。
「私達だってこんな仕事をしているんだもの。知識はあるわ」
だから冒険者や探検者が落ちぶれてなる時もあるとマリは言い、改めて陰の者を説明した。
「陰の者は基本的に金の関係で依頼を引き受けるわ。そして表立った仕事じゃないから報酬も私達の軽く倍らしいの」
ただし失敗すれば・・・・・・・・
「依頼者から刺客を送られる事もあるの。それはそうよね?捕まれば表になるんだもの」
それを阻止するのは実行者を消せば良いとマリは言い、ボリスとモニカは息を飲んだ。
「だから陰の者は失敗が許されないのよ。そして・・・・陰の者は山奥とかで独自の修行を積むとされているわ」
ここの点を聞いてボリスとモニカはヴァルターを見たがヴァルターは眠り続けている。
「・・・・山賊の仲間とか?」
モニカがヴァルターを疑うように見ながら呟いた。
「確かに・・・・蠱毒蜂をわざとアンナに倒させて俺達を油断させようっていう線も・・・・・・・・」
ボリスはモニカの言葉に先ほどの件を出しヴァルターを強く疑った眼で見た。
「・・・・・・・・」
マリは2人の台詞に一理あると眼を細めたが・・・・自分の推測が正しいか分からないのだろう。
「確証はないけど・・・・疑って掛かるしかないわ」
明日は山賊の洞窟へ行くのだからとマリは語った。
「そこなんだけど洞窟だと・・・・どうやって戦います?」
変に魔法を使うと崩れるのではないかとモニカは不安な点を挙げた。
「山賊も馬鹿じゃない筈だけど・・・・余り強力な魔法は使わない方が良さそうね」
「なに、大丈夫ですよ。今までの連中みたいな奴等で・・・・イダッ!?」
「あんた、さっきの蜂を忘れたの?あんな蜂を使う術者が居るのよ!!」
ボリスの言葉にモニカは拳骨と共に噛み付いたが、それをマリは止めなかった。
何せ同郷出身で、同い年の2人は何時も喧嘩をする。
もっとも何時もモニカが正しい判断をしており今回も例外ではない。
「貴方はアンナを頼るつもりだろうけど・・・・敵が対策を練っていたら・・・・どうする気?」
この問いにボリスは沈黙した。
「蠱毒師を倒せるのは蠱毒師のみという言葉は既に過去の話と案内人は言ったわ。これが何を意味しているか解る?」
「・・・・倒す方法は幾つか在り、それは既に確立されていて知っている。つまり敵も知っている可能性があるという事ですか?」
「・・・・そうよ」
ボリスが導いた答えにマリは頷いて、そこを危惧していると喋った。
「敵があの蜂を放ったという事は私達が来る事を警戒していた証拠と見て良いわ。となれば・・・・私達の事も少なからず調べている筈よ」
「・・・・クソおっさんの台詞なんて言いたくないが・・・・情報収集不足だったのは否めないぜ」
ボリスは先程ヴァルターから言われた台詞の一部を引用して悔しそうに顔を歪める。
「それでも・・・・やるしかないわ」
マリはボリスの言葉を否定こそしないが、奮い起たせるような台詞を発した。
それは自分達の未来が懸かっている事への不安と焦りからきていたのは表情を見れば明らかだった。
しかし、それとは別に・・・・・・・・
『アンナに負けたくない・・・・・・・・』
マリの瞳に宿った純粋な嫉妬を同性であるモニカは察した。
だが、明日が果たしてどうなるかの方がモニカには重要だから・・・・・・・・
「・・・・先に休みます」
先日のアンナが言った台詞を自分も口にして眠った。