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第五章:蠱毒蜂

 「お、おい、何だよ・・・・あのデカい蜂は?」


 ヴァルターさんに起こされたのか、ボリスは頭に瘤をつけたまま覗き窓を覗いて上擦った声を出しました。


 「やだっ・・・・気持ち悪い・・・・・・・・」


 「これは・・・・・・・・」


 モニカとマリさんも覗き窓を見て土小屋を飛び回る蜂に息を飲みます。


 「マドモアゼル・アンナ。坊や達には俺から説明する。君は“毒消し薬”を調合してくれないか?」


 ヴァルターさんの言葉に私はハッとしました。


 ですが直ぐ頭陀袋から毒消し草等を取り出し調合を始めます。


 「おい、おっさん。あの蜂は何だよ?」


 「呪術の一種である蠱毒で出来た使い魔だ」


 「蠱毒って何?」


 「クリーズ皇国とシャインス公国に今も伝わる古代魔法の呪術で、毒を持つ生物で作られるのさ」


 一つの壷に毒を持つ生物を一纏めに入れて、互いに共食いさせ最後の一匹になった所で壷から出して使い魔とする呪術とヴァルターさんは3人に説明しました。


 「高が山賊が、そんな・・・・・・・・」


 「呪術師が居ないとでも思っていたか?それなら坊やの情報収集能力が足りないだけだ」


 ヴァルターさんの鋭い指摘にボリスは呻ったのを聞きながら私は毒消し薬を一つ作り終えました。


 ですが直ぐ2つ目を調合する作業に取り掛かります。


 「ねぇ、マリさん。蠱毒を倒す方法は?マリさん、名人ですもん。あれ位・・・・・・・・」


 「・・・・蠱毒師を倒せるのは、蠱毒師のみと言われているわ」


 「そんな・・・・・・・・」


 モニカは縋るようにマリさんに問い掛けましたが、マリさんの返答は冷たい現実でした。


 そう・・・・蠱毒師を倒せるのは同じ蠱毒師しか居ないと言われていまさす。


 それは「ネクロマンシー」と同じく古代魔法の中では異端視されているのが良い証拠です。


 ただネクロマンシーとは違い蠱毒は先ほど述べた通り今もクリーズ皇国とシャインス公国には在ります。


 ですが倒す事は出来なくても身を護る術は在ります。


 それは毒消し薬を調合してやられたら飲む事です。


 もっとも如何なる毒か分からないから万能解毒薬の「ベゾアール石」を持たなくてはなりません。


 ただしベゾアール石は毒殺を怖れる権力者が高値で大量に買う事で知られているので冒険者では余程の者でない限り買えません。


 ベゾアール石同様に毒を消し去る事が出来るのは如何なる毒も浄化できる光の回復魔法か、万能薬で知られる「エクリサー」です。


 私の寺院では「仙丹(せんたん)」がエクリサーと同様の力を持っているとされていますが・・・・・・・・


 『私では・・・・作れない・・・・持っていない・・・・・・・・!!』


 毒消し薬を作りながら私は自分の弱さと準備不足を呪いたくなりました。


 ですが今は毒消し薬を可能な限り作る事に専念しました。


 それはヴァルターさんの言葉が私を励まし、そして動かしていたのです。


 そんなヴァルターさんは打つ手が無い事に頭を悩ませる3人にこう言いました。


 「マドモアゼル・マリ。蠱毒師を殺すのは確かに蠱毒師が一番だ。しかし、そいつは一昔前の言葉だ。今なら倒す方法は幾つか確立されているよ」


 「・・・・随分と詳しいのね?」


 マリさんがヴァルターさんを疑う眼で見ましたがヴァルターさんはどこ吹く風で答えました。


「日雇い仕事の中には“荒仕事”もあるからね。で話を戻すとマドモアゼル・アンナが使い魔を倒せる」


 え?


 私はヴァルターさんの言葉に手を止めてヴァルターさんを見ました。


 「マドモアゼル・アンナ。毒消し薬が出来たら坊や達に渡して内壁に擦り込ませな」


 それが終わったら土の魔法で外に居る蠱毒蜂を飲み込ませろとヴァルターさんは言い、それで私は解りました。


 「蠱毒で生み出された使い魔は土中に埋められた壷から出て来る・・・・つまり土の臭いに敏感・・・・・・・・」


 「あぁ、そうさ。そして毒消し薬が染み込んだ土に取り囲まれたら・・・・・・・・どうなるかな?」


 「・・・・毒消し薬の土によって浄化・・・・されます」


 「その通り。これが今、打てる対策だ」


 「・・・・一度も戦闘に参加した事がないアンナに出来るの?」


 ここでマリさんが口を挟みましたが私を信じていない様子でした。


 それは仕方ない事だと私は思いましたが・・・・・・・・


 「マリさん・・・・確かに、私は戦闘に参加しませんでした。ですが、今この場を脱するには・・・・私を信じて毒消し薬を内壁に塗って下さい。お願いです!!」


 私は真っ直ぐマリさんを見て毒消し薬を渡しましたがマリさんの手は・・・・・・・・


 「・・・・まだマドモアゼル・アンナは君等の仲間の筈だよ」


 ヴァルターさんが私の差し出した毒消し薬を取り立ち上がりました。

  

 「マドモアゼル・マリ。君は互いに協力するのが冒険者パーティーと言ったが・・・・仲間を信じられないなら偉そうな台詞を言わないでくれ」


 気分が悪いとヴァルターさんはボリスの時以上に厳しく、そして冷たい口調でマリさんに言いました。


 「俺はマドモアゼル・アンナを信用しているけど・・・・彼女を信用できないなら今すぐ小屋から出て行きな」


 そして自分の力で蠱毒蜂と戦えとヴァルターさんは言いました。


 「君の魔法でも使い魔は殺せるが・・・・詠唱する前に刺されないと良いけどね」


 「・・・・・・・・」


 マリさんはヴァルターさんの言葉にグッと拳を握り締めましたが・・・・直ぐ拳を開いて私に手を差し出しました。


 「毒消し薬を渡しなさい。こんな男に・・・・ここまで言われたんだもの」


 貴女を信じるとマリさんは言い、それに対して私は毒消し薬を渡しました。


 「ボリス、モニカ。貴方達もアンナが調合した毒消し薬を壁に塗って。時間が無いわ」


 「あ、あぁっ」


 「は、はいっ」


 マリさんの言葉にボリスとモニカは頷き、私が調合した毒消し薬を受け取ると壁中に塗りました。


 「マドモアゼル・アンナ。心の準備は出来たかい?」


 ヴァルターさんは毒消し薬を塗り終えると私の前に片膝をついて尋ねてきました。


 「は、はいっ・・・・出来ました」


 「緊張するのは解るけど落ち着きな。なぁに、他の3人は見捨てるにしても君”だけ”は俺が万が一の時は担いで走るから」

  

 「おい、おっさん。その言い方はどうなんだよ!?」


 ボリスがヴァルターさんの言葉に噛み付きましたがヴァルターさんは「早くやれ」と命じました。


「こっの・・・・山賊を倒したら覚えていろよ?!」


 「悪いが男と交わす約束は持ち合わせていない」


 ケラケラと笑うヴァルターさんを見て私の緊張は解れました。


 そしてマリさん達も毒消し薬を塗り終えました。

  

 「・・・・母なる大地に住まう精霊達。貴方達の力を持って私達に仇なす魔性の者達を・・・・その厚き壁で覆い潰して下さい」


 「圧縮壁」・・・・・・・・!!


 私が詠唱すると土小屋が震え、次に形を変えて・・・・蠱毒蜂を取り込むのが気で解りました。


 「・・・・・・・・」


 ヴァルターさんは無言で壁に近付いて何か探るように耳を当てました。


 「ヴァルターさんっ!危な・・・・・・・・」


 「大丈夫だよ・・・・君の魔法で皆“お寝んね”する所だ」


 この言葉に私は立ち上がり自分でも耳を当て確認しました。


 すると蠱毒蜂が押し潰され、そして浄化されていく気を感じました。


 「マドモアゼル・アンナ。君のお陰で窮地を脱出できた。ありがとう」


 ポンッとヴァルターさんは私の頭を軽く叩いて称賛してくれました。


 その言葉は温かく私の胸を大きく占めました。

 

 「先ず経験の第一歩を踏んだんだ。明日はいよいよ洞窟に行くけど・・・・頑張りな」


 君なら出来るとヴァルターさんは言い、壁から離れると横になりました。


 「脅威は去ったから眠りな。坊や、俺とマドモアゼル・アンナが先に火の当番をしたんだ。次は坊や達がやれよ?」


 「言われなくてもやるってんだよ。クソおっさん」


 「それならマドモアゼル・アンナに感謝の言葉も忘れるなよ?彼女は仲間であって召使いじゃないんだ」


 それだけ言うとヴァルターさんは直ぐ寝てしまいました。


 対して私はボリス達の視線を一心に受けましたが・・・・不思議な事に以前と違い萎縮する気持ちはありませんでした。


 「アンナ・・・・今朝は、酷い言い方で悪かったよ・・・・ごめん」


 ボリスは私から視線を僅かに逸らし謝罪の言葉を言いましたが直ぐ感謝の言葉も言ってくれました。


 続いてモニカも謝罪をしてから感謝の言葉を言い、最後にマリさんが私に感謝の言葉を言いました。

  

 「いえ・・・・私も冒険者です。それに・・・・まだ仲間ですから」


 『・・・・・・・・』


 私の言葉にボリス達は何とも言えない表情を浮かべましたが、思わぬ戦いに私は疲れたのでしょうか?


 眠気が急激に襲い掛かり・・・・意識を手放してしまいました。

 

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