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第四章:蠱毒師

 パチィ・・・・パチィ・・・・パチィ・・・・


 焚火が「子守唄」になっているのでしょうか?


 ボリス達は私が築いた「土小屋」の中でスヤスヤ眠っていました。


 起きているのは私とヴァルターさんだけです。


 ただ、これは別に珍しい事では私にはありませんでした。


 ボリス、モニカ、マリさんが戦う中・・・・私は戦わずに何時も居ました。


 だからボリス達が戦って疲労し眠る中で・・・・火の番は私となっていたのですから。


 「・・・・君が何時も火の番だったのかい?」


 ヴァルターさんが焚火越しに私を見ながら問いを投げてきて、私は慌てましたが少し間を置いてから答えました。


 「えぇ・・・・そうです」


 「やっぱりね・・・・見て判ったよ」


 煤で汚れた服と・・・・焚火の炎で僅かに火傷した手の痕で・・・・・・・・


 「・・・・観察力が凄いですね」


 私はヴァルターさんを見ず焚火に小枝を足しながら皮肉交じりに言いました。


 「職業柄と言うべきかな?どんな小さな事も見逃さないようにしているのさ。俺を雇う人間は・・・・細かい人間が多くてね」


 少しでも気に入らない点があると「重箱の隅を楊枝でほじくる」ように突いてきたとヴァルターさんは語りました。


 「だから、そういう点が否応なく研ぎ澄まされたのさ。まぁ俺はともかく・・・・マドモアゼル・マリが言ったようにパーティーは互いに補って存在するんだろ?」


 それなのに君だけが火の番をするのはどうなんだいとヴァルターさんは問い掛けてきました。


 「私が・・・・戦闘に参加しないからです。何よりマリさんは名人で、年上ですから・・・・・・・・」


 「能力と年齢が上だからと言って役割を免除するのは違うよ。まして君だって戦闘に参加していなくても役目を果たしているんだ」

 

 暗にマリさんを庇うなとヴァルターさんは言っているように私には聞こえました。


 ですが私はこう言いました。


 「マリさんが言う理論は正しいです」


 「確かにパーティーは補い合って成り立つ理論は間違いじゃない。だけど・・・・俺から言わせれば魔術師ほど理論に煩い人種は居ない。そして・・・・その理論が絶対に正しいとも限らないよ」


 「では・・・・逆にヴァルターさんは理論に煩くない人種を知っているんですか?」


 誰だって自分の理論・哲学を持っていると思っていた私はヴァルターさんに怒気を込めて問いました。


 するとヴァルターさんは「世の中に自分の理論あるいは哲学を持っていない人間なんて居ない」と答えました。


 「俺にだって哲学---では語弊があるけど・・・・誇りはある。ただ、その誇りを”過度”に持たないように注意しているけどね」


 「というと・・・・・・・・?」


 「過度な自信は自分を堕落させる象徴だ。歴史を振り返れば腐るほど自意識過剰で身を滅ぼした連中は居る」


 「・・・・・・・・」


 「生憎と俺は自意識過剰で死ぬなんて真っ平だからね。自分に過剰な自信は待たないようにしているのさ」


 「では・・・・逆に自信を持てない場合は、どうですか・・・・・・・・?」


 「今朝の事を気にしているのかい・・・・・・・・?」


 ヴァルターさんの硬い声の問いに私は頷きました。


 「・・・・私は、冒険者に向いていないんです」


 「・・・・・・・・」


 私の言葉にヴァルターさんは無言となりましたが、私は言い続けました。


 まるでヴァルターさんになら何を話しても良いという気持ちが強かったのもしれません。


 いえ、今の私にはそんな事は関係ありませんでした。


 ただ・・・・誰でも良いから自分が抱えていた気持ちをぶつけたかったのです。


 「今まで旅をしてきましたが私は一度も・・・・ただの一度も戦闘に参加しませんでした。自分でも参加させてくれと言わなかったのが原因ではありますが・・・・やってきたのは寝床造りと炊事洗濯です」


 「・・・・召使いだね」


 ヴァルターさんは静かに・・・・ですが的を射た言葉を私に言い、それに私は自嘲しながら肯定しました。


 「えぇ・・・・その通りです。私は召使いでした。もっとも実力が無いので・・・・召使いが相応しいのでしょう」


 「・・・・・・・・」


 ヴァルターさんは私の言葉に無言でしたが、心中は小娘の愚痴にウンザリしていると私は勝手に解釈しました。。


 それなのに私は語り続けました。


 「貴方と会う先日・・・・私、山賊に攫われそうになったんです。冒険者の端くれなのに・・・・情けない限りです」


 「・・・・・・・・」


 「ですが・・・・私を助けてくれた方は言いました。自分に自信を持てと・・・・今の仲間ではなく自分で探してはどうかと」


 そして・・・・明日から頑張れと・・・・・・・・


 「・・・・良い言葉だ。俺には遥かに劣るが”騎士の素質”があるね」


 「騎士の素質・・・・ヴァルターさんは騎士になりたいのですか?」


 私は沈黙をしていたヴァルターさんが口を開いたので驚きましたが、騎士と言う単語を聞いて思わず問い掛けました。


 「まぁね。さっきも言った通り俺の育った場所は“ド辺境”なんだ。だから人口も少なくて”遍歴騎士”も来なかったんだ」


 ですが幼い日に読んだ騎士物語から騎士に憧れたとヴァルターさんは言いました。


 「ただ、誰でも良いから剣を捧げて騎士になりたくはないんだ。俺の全てを理解し、共に歩く主人に俺は剣を捧げたい」


 だから今も見果てぬ土地に居るだろう「真の主人」を探すために日雇い仕事をしながら旅をしているとヴァルターさんは語りました。


 「・・・・ヴァルターさんは強いですね」


 「いいや。俺より強い奴は幾らでも居るよ。肉体的にも精神的にもね」


 「確かにそうかもしれませんね。でも、ヴァルターさんも強いです。そして・・・・ヴァルターさんならきっと出会えますよ」


 真の主人に・・・・・・・・


 「あぁ、俺も信じている。だけど君だって俺より若いんだから冒険はこれからさ」


 私を助けた人物が言ったように・・・・・・・・


 「頑張れば良いんだよ。それこそ今回の仕事を片付ければ君は自由なんだ」


 弱かったら修行を積めば良いし、修行の一環として軽い仕事をこなせば良い。


 「そうすれば経験は豊かになる。経験が豊かになれば自分の自信となる」


 自信が付けば誇りとなり・・・・・・・・


 「君は本当に冒険者となれるよ」


 「・・・・最初に思いましたけどヴァルターさんは優しいですね」


 「婦女子には優しくするのが騎士だからさ。まぁ野郎には厳しいけど・・・・ね」

 

 スゥ・・・・・・・・


 ヴァルターさんの眼が猛禽のように鋭くなり、私が作った土小屋の覗き窓を見ました。


 「・・・・経験が積める機会が来たよ」


 覗き窓から外を覗いてみなとヴァルターさんは言いながらボリス達を起こし始めました。


 その傍らで私は覗き窓から外を覗いてみました。


 「!?」


 私は覗き窓から見えた蜂に息を飲みます。


 何故なら土小屋を囲むように大量の蜂が飛び回っていたのです。


 「この蜂は・・・・・・・・」


 「“蠱毒師”の使い魔の一種さ」


 ヴァルターさんが私の隣から顔を覗かせて教えてくれました。


 それは助かるのですが・・・・・・・・


 『距離が近いっ!!』


 場違いにも私は赤面しますがヴァルターさんから目を離して問い掛ける事で気持ちが落ち着かせます。


 「蠱毒ってクリーズ皇国とシャインス公国に在る“呪術”の一種ですよね?」


 「あぁ、その通り。どうやら・・・・偵察と巡回が目的のようだ」


 ヴァルターさんは私の言葉に頷きましたが、私はヴァルターさんの声が固くて鋭い事を感じ・・・・本当に何者なのか気になりました。

  

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