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第二章:謎の男

 小鳥の囀りと窓の隙間から入る光で私は目を覚ました。


 「あれ・・・・?私、確か・・・・・・・・」 

 

 そうです!


 賊と思われる輩に眠り薬で!?


 でもベッドで寝ており、衣服と装備もありました。


 何より・・・・・・・・


 「誰かに助けられた・・・・・・・・」


 私を抱き上げてベッドに寝かせた人物は顔こそ見てませんが声からして男性。


 だけど空を飛んだ錯覚を覚えたのも事実。


 何より宿舎の2階は酒場を通るから必ず誰かが見る筈です。


 それなのに酒場の喧騒が聞こえなかったのは・・・・・・・・


 「まさか・・・・・・・・」


 私はベッドから出て窓まで行き調べました。


 窓から入ったなら鍵縄などを使って登るか、或いは魔法または魔道具を使用しないと行けません。


 ですが魔道具や魔法を使えば属性が違っても魔術師には分かります。

  

 それなのに・・・・・・・・


 「嘘・・・・・・・・」


 窓には何の痕跡が無いのを見て私は漠然としました。


 ただ窓の真下に・・・・小さな穴があるのを見つけました。


 あれは・・・・・・・・


 私は居ても立ってもいられず身支度を済ませ外に出ました。


 そして改めて宿舎の2階から地上までの距離を目測しましたが・・・・・・・・


 「どう考えても・・・・無理だわ」


 宿舎の2階から地上までの距離は凡そ9~10mもあり、何か道具を使わないと常人では登れません。


 ですが窓には何ら痕跡が無かった。


 あるのは真下に空いた小さな穴のみ。


 「・・・・・・・・」


 私は穴を凝視しました。

 

 穴の大きさからして短剣を刺した後でしょうか?


 いえ、待って下さい。


 「剣の柄に足を掛けて壁を登る術が・・・・あったわね」


 私が生まれ育った寺院に遺された古い書物に書かれた内容を私は思い出し、謎の男性はその術を使ったと思いました。


 ですが誰が私を・・・・・・・・


 「何をしているのかな?」


 声を頭上から掛けられて私は穴から顔を上げました。


 すると声を掛けた人物の足首が見えたので更に顔を上げる今度は上着の下が見えました。


 更に顔を上げると漸く上着の首元が見えて、天を見上げるように顔を上げて・・・・今度こそ顔が見えました。


 「おはよう」


 男性は彫りが深く、本当の鷲みたいに鋭く尖った鷲鼻と、グレーの瞳に、ブラウンが少し混ざった黒髪をしていました。


 そして私より頭が3つ分もある長身でした。


 服装は野良仕事で着る野良着で、足首は短い長靴に脚絆を巻いています。


 腰には木の鞘に納まった山刀とダガーを吊していて、その姿は人夫か、林業に携わっている感じでした。


 「え、あ・・・・おはようございます」


 私は男性が挨拶したのを思い出し、戸惑いながら挨拶を返しました。


 「君がファティマ嬢の話していた聖職者のアンナって娘さんかい?」


 「え、えぇ。そうです。貴方は・・・・・・・・」


 「おっと、これは失礼。女性に名前を尋ねる前に男が自己紹介しなきゃならないのに」


 男性は謝りながら自己紹介をしました。


 「初めまして。俺はヴァルター・ヴァン・フォーゲル」


 ここのギルドで募集していた日雇い仕事をしているとヴァルターさんは語りました。


 「ファティマ嬢から話は聞いていたけど・・・・癖っ毛がチャーミングだね」

  

 クスリとヴァルターさんは笑いながら言いましたが、私は癖っ毛ではないので戸惑いました。


 「左耳辺りを触ってみな」


 言われた箇所を触ると酷い寝癖が!?


 「鏡はないからこれで直しな」


 ヴァルターさんは腰から山刀を抜き、その刃を鏡代わりにしてくれました。


 「ありがとう・・・・ございます」


 私は恥ずかしい気持ちを抱きながらも寝癖を直しました。


 「女性に優しくするのが俺の良い所だからね。何より・・・・・・・・」


 チラッとヴァルターさんは私の背後を見て言葉を途中で止めました。


 それに釣られて私も見ると身支度を整えたボリス達と目が合いました。


 ただマリさんは私を責めるような眼で見ていました。


 「・・・・部屋に居ないと思ったら男と一緒とは・・・・パーティーを何だと・・・・・・・・」


 「失礼ながら貴女がフロイライン・マリですか?」


 ヴァルターさんが私の前に出てマリさんに尋ねましたがマリさんは眉を顰めました。


 「貴方は誰かしら?」


 「日雇い仕事をしているヴァルターです。してフロイライン・マリ」


 「・・・・フロイラインと付けないで」


 「ではマドモアゼルと?」


 「・・・・マダムよ」


 マリさんはヴァルターさんの小馬鹿にしたような言葉に怒りを込めて自分で修正しましたがヴァルターさんは薄ら笑みを浮かべています。


 それどころか小さく肩を震わせました。


 「これは失礼・・・・成人の女性には見えませんでした」


 「・・・・・・・・」


 マリさんはヴァルターさんの態度に明らかな怒りを感じた様子でした。


 ボリスとモニカも人を食ったヴァルターさんの態度に嫌悪感を抱いたのか眉を顰めました。


 ですがヴァルターさんは・・・・・・・・


 「・・・・身丈に合わぬ長剣と、空回りする行動力を持った剣士・・・・蓮っ葉な口調と態度の割には他力本願的な短槍使い・・・・そして気位の高い魔術師に退治される山賊も憐れだね」


 「やい、てめぇ!何様のつもりだ!?」


 ボリスがヴァルターさんの態度に我慢できなくなって噛み付く勢いで尋ねました。


 「俺は事実を言っただけだよ。しかし・・・・山賊の巣穴を探すなら急いだ方が良い」


 これはファティマ嬢から聞いたとヴァルターさんは言いました。

 

 「近々ギルド本部から“ギルド監督官”が来るらしい」


 『!?』


 ヴァルターさんの語った単語を聞いて3人は驚きましたがヴァルターさんは違います。


 「君達は3級でありながら山賊退治をしている。これをギルド監督官が知れば支部長だけでなく・・・・君等もタダでは済まない」


 かといって・・・・・・・・


 「今の仕事を放り出せば・・・・冒険者としてのプライドに傷が付くだろ?」


 如何に秘密の依頼でも完遂できなかったとなれば・・・・・・・・


 「・・・・何が望みなの?」


 マリさんはヴァルターさんを睨みながら用件を尋ねました。


 「なぁに、簡単な望みですよ。マドモアゼル・マリ」


 ヴァルターさんはマリさんを皮肉るように再びマドモアゼルと言ってから・・・・用件を伝えました。


 ですが、それを聞いてマリさん達は呆れたようにヴァルターさんを見ました。


 ただ・・・・私は疑問を感じました。


 それはヴァルターさんの要求が、自分の役目に比べて余りにも割に合わないからです。


 ですがマリさん達はヴァルターさんの要求を飲み、それに対してヴァルターさんも承諾したのは事実でした。


 「なら早く案内してくれ」


 こんな仕事は早く終わらせて次の冒険に出たいとボリスはヴァルターさんに言いました。


 ただ・・・・その次に私を見て・・・・こう言いました。


 「アンナ・・・・悪いが君とはこの仕事が終わり次第パーティーから外させてもらう」


 昨夜3人で山賊の巣穴に行くと決めた時に決定したとボリスは言い、モニカは私から目を逸らし、マリさんは当然という表情をしていました。


 それが私には当然帰結という形で・・・・すんなり心に入ったから個人的に驚きです。

 

 ただ昨日の件を考えれば3人の限界と私自身が感じていたのかもしれません。

 

 ですから私は首を縦に振りました。


 「分かりました・・・・短い期間でしたが、皆さんと旅をする事が出来て嬉しかったです。そして・・・・最後だからこそ精一杯、皆さんの足手纏いにならないように努力します」


 自分でも何時になく饒舌に喋ると思いましたが、これで終わりだからこそ・・・・心が軽くなったのかもしれません。


 ただ、それを黙って見ていたヴァルターさんはボリスを見て・・・・辛辣な台詞を浴びせました。


 「仕事の前に仲間の気持ちを底にまで落ち込ませるとは“立派”だね。悪い見本のリーダーとして冒険者の歴史に名を遺せるよ」

 

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