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幕間:謎の影

 「・・・・・・・・」


 「・・・・・・・・」

 

 「・・・・・・・・」


 ギルドの支部所の隣に在る宿舎にして酒場の一角で酒を飲んでいた3人の冒険者達は無言でいた。


 他の場所では日雇い人夫などが酒を飲んだりしているが、そこだけは異常なほど静かだった。


 理由は明確だ。

 

 先ほど一人だけ行ってしまったパーティーの一員であるアンナに対する罪悪感と・・・・・・・・


 自分達がやろうとしている事の重大さについて考えているからだった。


 しかし沈黙を続けても答えは見つからない。


 これは冒険者の礎を築いたフリードリッヒも回顧録で説いている。


 『沈黙は大事だ。しかし沈黙を続けても答えは見つからない。それなら語り合うべきだ』


 そう・・・・語り合うのは大切だ。


 特に単独ではなくパーティーを組んでいるなら尚更だ。


 だが・・・・一人だけ仲間に入れないのは大問題だ。


 もっとも双方に言い分はあるから互いの話を聞くのも肝心であるが・・・・・・・・


 「・・・・行くか」


 バンダナを巻いた青年剣士ボリスはパーティーのリーダーとして結論を一人、欠けているのに出した。


 「・・・・明日、言いなさいよ」


 ボリスの幼馴染である槍使いのモニカは釘を刺すような口調でボリスに言った。


 「あぁ・・・・解っている。しかし、フォローはしてくれよ?」


 「・・・・フォローする云々の前に今後の事も考えるべきよ」


 最年長の女性魔術師マリがボリスを冷たく見ながら言葉を発した。


 「あの娘---アンナを今後もパーティーの一員として連れて行くのか、それとも今回の仕事で切るか」


 「ちょっと切るだなんて・・・・・・・・」


 「本当の事でしょ?パーティーとは互いにカバーし合って成り立つものよ」


 あの娘は土の魔法が使えるとマリは言った。


 「だから私の援護か、或いは私が彼女を援護すれば今以上に良い筈よ。それなのに・・・・あの娘は戦闘に参加した事が無いわ」


 何時も自分達が戦っているとマリは語り、それに対してモニカは言葉を濁すように喋った。


 「それはマリさんが名人だし・・・・あの娘も自分の意見を言わないから・・・・・・・・」


 モニカの言葉にマリは無言となるが、一理あると認めているように頷いた。


 「というか・・・・別に、あの娘が戦わなくても良いんじゃないか?」


 こういう空気は苦手とばかりにボリスは何気なく呟いたが、その呟きにマリはキィッと鋭い眼でボリスを睨んだ。


 「私が言った言葉を忘れたの?パーティーは互いに補うものよ」


 「いや、だからさ・・・・あの娘は寝床を作ったり、飯を作る事で俺達の役に立っているんじゃないかって・・・・・・・・」


 「それじゃ召使いじゃないっ。あんた、そんな眼で見ていたの?」


 モニカはボリスの言葉に激昂したが、それも一理あるとばかりにマリは頷いた。


 「確かに、貴方の言葉にも一理あるわね。でも・・・・これから2級へ・・・・1級へ階級を上げて行くつもりなら・・・・あの娘は私達にとって”足枷”となるわ」


 冒険者が階級を上げるには必要な経験と知識以外にも試験を受ける必要がある。


 しかし、それとは別にパーティーには面接もあるのが違う点だ。


 それはフリードリヒ王が冒険者という職業をギルドに申請するに当たって設けた条件に由来している。


 冒険者とは単独も良しとする反面で・・・・パーティーには連帯感がある事を求めたのだ。


 この点はフリードリヒ王が様々な冒険を一人ではなく小姓および部下達とした事で得た一つの結論であり、ギルドとしても連帯感が必要と見たのか・・・・パーティーを進級させる際に必ず面接を行い、そのパーティーの連帯感を見るようになった。


 もし、ギルドの面接官がパーティーに連帯感が欠けていると見れば進級は出来ない。


 ここをマリは危惧していると察したモニカはボリスを見た。


 「・・・・俺の夢は、一流の剣士として冒険者の歴史に名を遺す事だ」


 「私も・・・・槍使いとして冒険者の歴史に名を遺したいわ」


 ボリスの言葉にモニカも続いて自分の夢を語った。

 

 そして貴女はどうなのとモニカはマリを見たが、マリは冷たい口調で答えた。


 「私も冒険者の歴史に名を遺したいわ。特級の階級を加えて・・・・ね」


 「・・・・・・・・」


 「・・・・・・・・」


 マリの言葉に2人は無言となるが・・・・それこそ3人の出した結論とも言えた。


 それを誰も聞いていないように酒場は煩くなったが、その喧騒から逃げるように外へ立ち去る一つの影があった。


 ただ、その影の唇は・・・・こう告げていた。


 『お前達じゃ特級になんてなれない。まして歴史に名前を遺すなんて・・・・馬鹿げた夢だ』

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 酒場兼宿舎の外に出た影はチラッとギルド支部所の方を見た。


 その支部所の壁際には一人の男が居り、麻袋を担ごうとしている所だったが・・・・影に気付いていないのか独り言を呟いている。


 「たくっ・・・・何で、俺が小娘の誘拐をしなきゃならねぇんだよ」


 出来るなら女魔術師の方が良かったと男は如何にも賊らしい台詞を発した。


 「まぁ良いか。この小娘を誘拐して地図を置いておけば餓鬼共は来るからな」


 攫われた仲間を助けに行く為に・・・・・・・・


 「しっかし”大親分”も悪知恵が働くぜ。まぁ、お陰で俺達の懐は・・・・・・・・!?」


 「重たそうだな?手伝ってやろうか」


 賊は背後に気配を感じて飛び下がった。


 だが、背後には誰も居ない。


 「こっちだ」


 「!?」


 賊は再び背後から声がして振り返ろうとしたが・・・・自分の喉に鋭い痛みが走ったのを感じて麻袋を落とした。


 「おっと・・・・・・・・」


 賊が落とした麻袋を影は難なく受け取ると・・・・そのまま賊の喉に突き刺したダガーを更に奥へ押した。


 「!?!?!?!?」


 喉にダガーを押し込まれた賊は目を見開いて目の前に立つ影を見たが・・・・・・・・


 「婦女子は優しく扱え」


 冷たい言葉と共に止めの一撃とばかりに喉へ一押しされ賊は事切れた。


 「大親分も悪知恵が働く・・・・ねぇ」


 影は賊が語った言葉を口ずさんだ。

 

 そして同意するように頷いた。


 「確かに悪知恵が働くな。しかし・・・・何時まで続くかな?」


 意味あり気な台詞を影は言うと麻袋をゆっくりと地面に置いた。


 それから事切れた賊を軽々と肩に担ぐと静まり返った家々の屋根を跳躍して町を覆うパリサード(柵)から外へ放り投げた。


 パリサードの外へ放り投げられた賊だった死体は直ぐ闇の中へと消えて行った。


 「せいぜい美味しく食べられな」


 軽い皮肉を影は言ってから再び家々の屋根を跳躍して麻袋を置いた場所へと戻り、結ばれていた紐を解いて・・・・眠らされた娘を出した。


 しかし影は娘の瞼が濡れているのを見ると静かに自分の手で優しく拭ってやった。


 すると娘は意識を僅かに取り戻したのか、どうか自分を天の国へ導いてと頼み込んできた。


 どうせ私なんてパーティーの役に立たないし、自分の意思すら持てないんだと娘は朦朧としているが自虐の言葉を発した。


 それに対して影は娘を抱いて宿舎の2階を見ながら答えた。


 「そいつは違うよ。君は自分の意思もあるし魔法も使えるんだ」


 決して自虐するような人間ではないと影は娘に言いながら賊を殺したダガーを地面に押し付け、柄頭に足を掛けると・・・・あっという間に2階の窓まで跳躍した。


 そして2階の部屋に入り、ベッドまで歩きながら尚も自虐の台詞を言い続ける娘に励ましの台詞を発した。


 「君は冒険者のパーティーを家族と称したね。確かに、その側面はある。だけど・・・・今度は自分から家族を探す旅をしても良いと思うよ」


 若しくは土の魔法を極める為・・・・或いは薬学を極める為でも良い。


 「もっと自分を信じて・・・・自分から歩いてみなよ」


 そうすれば本当の意味で冒険が出来ると影は言い、娘をベッドに寝かせた。


 すると娘は「天の国へ導いてくれないのですか」と言ってきた。


 「君が行くには早過ぎる。何より・・・・君の冒険は、まだ始まってもいない」


 だから明日から頑張りなと影は言い、娘の額に手を置いた。


 「お休み・・・・・・・・」


 この一言を添えて影が手を離すと娘はスヤスヤと眠り始めた。


 それを見てから影は2階の窓から音も無く姿を消し・・・・その姿は何処にも無かった。

 

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