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終章:新たな旅

 支部長がギルド監察官に拘束されてから数日が経過した日に私達は馬車に揺られていました。


 その馬車はアンリ監察官局長が用意した馬車で、アンリ監察官局長も乗っています。


 ただ護送ではありません。


 本来なら私達も支部長のように審問会に召集される筈なんです。


 ところが・・・・招集はされませんでした。


 それは支部長の罪を暴くのに監察官達は大忙しという理由もありました。


 ですがアンジュさんの話によればアンリ監察官局長が裏で動いた事で私達の罪は「現状注意」という形で済んだそうです。

 

 普通ならアンリ監察官局長もタダでは済みません。


 ところが・・・・アンリ監察官局長だけでなく上層部も今回の件はギルド史上最悪な件と捉えたのか、事が今より大事になるのは避けたかったのでしょう。


 アンリ監察官局長にも咎めはなかったそうです。


 それを聞いた時は何だか大人の・・・・いえ、組織の持つ「裏の顔」とも言えるモノを垣間見た気がします。 


 もっとも私達も規則違反をしたのだから公然と批判など出来る身分ではありません。


 まして咎めが注意だけと言う事もあり、私達の経歴に汚点が残らなかったので将来を考えれば良かったと思う心もありました。


 つまり・・・・何だかんだ言って私達も結局は似たようなモノと言う他ないでしょう。


 ですが・・・・聖職者でありながら私はホッとしているんです。


 それは冒険者として旅が出来るという単純な理由でした。

 

 ただ、直ぐに旅には出れませんでした。


 何せ口頭注意で済んだとはいえ私達は規則違反をしたのです。


 そして支部長の捕縛にも係ったので色々と質問されたりしました。


 特に私の場合は傷の治療もあり2日ほどは安静という名目でベッドに拘束されていました。


 2日後に拘束が解かれた私は直ぐ旅支度を行い、上記の通り馬車で街道まで乗せてもらっているのです。


 ただ、何時もならボリス辺りが喋るのですが・・・・今は誰も喋りません。


 街道に出れば道は分かれていて、そこで私はボリス達と別れるからです。


 もっともボリスは私に残るように言ってくれました。


 『アンナ。パーティーから抜けてくれと言ったけど撤回する。虫が良い台詞だってのは解る。だけど山賊退治で解ったんだ。もう一度、俺達と旅をしよう』


 これを言われた時、私は嬉しかったです。


 漸く私も仲間として・・・・認められたんだと再認識できたからです。 


 ですが・・・・私はボリスの申し出を謝辞して一人で旅する事に決めました。


 それは未熟な自分を成長させる為ですが・・・・・・・・


 『漸く・・・・貴方の故郷が判りましたよ。ヴァルターさん』


 私は馬車の小窓から見える空を見ながら心中で何処かへ去ったヴァルターさんに言いました。


 虚空教の開祖ディアマント・シャーストリ様が登頂できなかった山。


 その山がヴァルターさんは自分の故郷と言い、私は2日間ベッドに拘束されている間ずっと考えていたのですが・・・・漸く判りました。


 ただ、そこには・・・・まだ行けません。


 百足僧と渾名されたディアマント・シャーストリ様が登頂できなかったほど険しい山ですから私のような小娘では話にならないです。


 それでも・・・・・・・・


 『何時か・・・・もっと成長した暁には、行きます。貴方が生まれ育った故郷を見たいんです』


 それが叶った時・・・・貴方は真の主人に仕える騎士となっているでしょうか?


 若しくは私が先に本当の意味で一人前の冒険者として・・・・女となっているでしょうか?


 その答えは分かりません。


 分かりませんが・・・・・・・・


 『諦めず前へ進め。それこそ冒険者である・・・・ですよね?』


 私は空を見上げながら呟き、街道に出た所で御者に停めて下さいと言いました。


 すると馬車は直ぐ停車したので私は一人、馬車から降りました。


 「アンリ監察官局長。この度はありがとうございました」


 私は見送るように顔を出したアンリ監察官局長に深々と頭を下げましたが、アンリ監察官局長は苦笑して首を横に振りました。


 「いいや、こちらこそ愛娘を助けてくれて感謝するよ。それより・・・・これから何処へ行くんだい?」


 「自分を更に高める為に修行します。幸い虚空教は隣国にも分派があるので、その伝手を頼るつもりです」


 そして自分一人でもこなせる仕事をやっていき経験を高めると私は言いました。


 「そうか・・・・気を付けなさい。アガリスタ共和国は女性の冒険者が一人で行くには危険だからね。クリーズ皇国も同じだが、危険度的に言えば共和国の方が遥かに上だ。そこは憶えておいてくれ」


 「はい。ありがとうございます。ボリス、モニカ、マリさん・・・・短い間でしたけど楽しかったです」


 私はアンリ監察官局長の直ぐ横から顔を出したボリス達に別れの挨拶をしました。


 「いや、俺等の方こそ・・・・楽しかったよ」


 「アンナ、また会いましょう。その時は、新しい仲間を見せてね?」


 「・・・・今度、会う時は私の背中を任せるわ」


 3人はそれぞれ思う言葉を私に言いましたが、その眼は一端の寂しさが見られました。


 それは私もですが・・・・私は笑顔で3人を見ました。


 これは永遠の別れではないのです。


 それなら笑顔で別れて・・・・次に会う時の思い出とするべきですから。


 「では・・・・また何処かで御会い・・・・きゃあっ!?」


 「わぷっ!?」


 「な、何っ?この強風!?」


 「・・・・・・・・」


 突然、吹いた強い風に私達は眼を閉じました。


 ですが直ぐ風は止みましたが・・・・私達は自分達の懐に入れられた紙を見て驚きました。


 その紙は綺麗な絵が描かれていたのです。


 私の紙は3枚で、それぞれ「山中で悩む可愛い冒険者」、「清らかな祈りを捧げる冒険者」という題名が書かれていました。


 ボリス達の方は「腕白小僧」、「他力本願の槍娘」、「傲慢な魔術師」という酷い題名の絵でしたが・・・・2枚目の絵の題名はこうでした。


 「”仲間と笑い合う冒険者達”・・・・か。ケッ!あのおっさん、味な真似をしやがるぜ!!」


 ボリスは大袈裟に鼻を鳴らしますが、その眼はヴァルターさんに感謝している眼でした。


 「まったく・・・・気障な案内人ね。でも、綺麗な絵だわ」


 「顔の輪郭なども的確に捉えられいる辺り絵心はかなりね・・・・アンナ。3枚目の絵はどんな絵が描かれているの?」


 モニカの言葉に相槌を打ったマリさんですが、私が3枚目を懐に隠したのを目敏く見たのか質問してきました。


 ですが直ぐ首を横に振りました。


 「やっぱり良いわ。あの”陰の騎士”が貴女に送った絵だもの・・・・きっと貴女の心を射止めるような絵だと想像できるわ」


 「さぁ、それはどうでしょうか?ですが・・・・再会した時には見せます」


 私は再び笑顔を見せてマリさんに言いました。


 するとマリさんは「楽しみにしているわ」と返しました。


 それをボリスとモニカは楽しそうに見ていましたが・・・・私は名残惜しい気持ちを我慢して今度こそ別れました。


 そして一人、歩き出しました。


 ただ寂しくはありません。


 寧ろ今から行く道には果たして何があるのか?


 どんな所なのか?


 想像すると胸がワクワクするんです。


 もっとも別の意味で胸は熱かったです。


 それは3枚目の絵にありますが、私は前を向いて歩き続けました。


 本当の意味で一人前の冒険者になる為に・・・・・・・・


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