第一章:謎の影
「クソッ!!」
私達が座るテーブルをボリスは力任せに叩き、私はビクリとしました。
「ちょっとテーブルに当たらないでよ」
モニカは私の肩をポンと叩きつつボリスを宥めました。
「これが悔しくないのか?俺達は無理と言われたんだぞっ」
ボリスは怒りに任せてモニカに噛み付きましたがマリさんが静かに呟きました。
「私達の階級は・・・・何級?」
「そ、それは・・・・・・・・」
これを言われてボリスは先程とは打って変わり言葉に困りました。
「3級よ・・・・私達全員が」
口ごもるボリスに対しマリさんは冷静な口調で私達の階級を言いました。
「本来なら・・・・3級に山賊退治を依頼するのは禁止されているわ」
依頼する事が出来るのは2級からで、しかも冒険者としての経験が3年以上で、パーティーを組んでいる者が望ましいとされているとマリさんは言いました。
「それを私達は満たして・・・・ないわ。それを知りながら支部長は町の住民から嘆願されて・・・・掟を破ったわ」
この事実がギルドを監視する「ギルド監察官」の耳に入ったら・・・・・・・・
「支部長は更迭・・・・私達も何らかの処罰が下されるわ」
そうなると冒険者の間に忽ち情報は広がり今後の冒険に大きな足枷となるのは必定とマリさんは断言しました。
「それが嫌なら・・・・我慢するか・・・・・・・・」
チラッとマリさんが私を見ました。
その眼は何か考えている眼でしたが私には分かりませんでした。
「・・・・・・・・」
ただボリスとモニカは察したように私を見て・・・・私は居たたまれない気持ちになりました。
それは私だけ酒を飲んでいないからかもしれません。
いえ・・・・あの時、私だけ中立を保つような状態だったから・・・・・・・・
「・・・・先に休みます」
私は椅子から立ち上がり、3人に背を向けました。
それを皆は待っていたように会話を始めたのが解り・・・・私は酷く情けない気持ちになりました。
だって冒険者のパーティーは言い換えれば「旅の家族」です。
誰か一人でも欠けたら残りがカバーしなければなりません。
だからパーティーを組む冒険者達は仲間を家族と見る人が多いんです。
これは私が生まれ育った修道院に訪れた冒険者のパーティーが口を揃えて言った事でした。
だから私も冒険者を志してパーティーに入ったのです。
孤児であるから・・・・・・・・
ですが・・・・・・・・
『所詮・・・・私なんて・・・・・・・・』
私は自分の実力に情けなさを覚えずにはいられませんでした。
そして部屋に戻り泣くよりは・・・・外で泣きたいと思い宿舎の外へ出ました。
宿舎の外へ出ると冷たい夜風が吹き、私の体を冷やしました。
ただ拒絶する色はなく私を癒やすように静かです。
「・・・・・・・・」
私は夜風に当たりながら3人と初めて出会った日を思い出しました。
その日は私が15歳を迎えた日で、このまま残るか、俗世に帰り生活するかを決める日でした。
そんな日に3人は現れ、私に冒険者にならないかと誘ってきたんです。
それは私くらいの娘が成人になると酒場で聞き聖職者をパーティーに入れたかったでした。
ここを聞いて私は外の世界も見たいと思っていたので3人の申し出を受け入れたのです。
これが私の意思で決めた唯一の事で、それ以外は・・・・・・・・
「冒険者・・・・・・・・か」
私は本当に冒険者になりたかったのか?
本当に彼等と家族になりたかったのか?
私は何で土の魔法が使えるのか?
幾つもの疑問が頭に浮かびましたが明確な答えは何一つ見つけられませんでした。
寧ろ私は何一つ出来ない小娘と思った時でした。
背後に気配を感じ、私は振り返ろうとしました。
ですが・・・・・・・・
「むぐっ!?」
私は鼻と口を布で覆われ、そして体を持ち上げられて身動きが取れなくなりました。
「悪いが寝てもらうぜ?」
耳元に囁くのは聞き覚えのない男の声でしたが私は山賊と察しました。
そして眠気を誘う、この香りの正体も・・・・・・・・
ですが、ここで私は意識を手放してしまいした。
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私は夢を見ているのでしょうか?
体が空を飛んだ感覚を覚えました。
もしかして天に召されているのでしょうか?
空を飛んでいる感覚を覚えたので尚更でした。
だから・・・・私は言いました。
私を天の国へ導くなら・・・・このまま導いて下さい。
どうせ私なんて・・・・誰の役にも立てないんです。
そればかりか自分の意思すら無いような人間です。
だから・・・・・・・・
「・・・・そいつは違うと思うけどね」
男の声を聞いて私は眼を開けようとしました。
ですが眼を優しく覆われました。
「悪いが顔は見ないでくれ。恥ずかしがり屋なんだ」
とても優しい声に私は、ただ頷くだけでした。
ですが声は私に語り掛けてきました。
「君は土の魔法を使えるんだろ?」
土の魔法は寝床を作り、敵からの攻撃から味方を護る壁を作るか、ゴーレムを作って戦わせるなど出来ると声は語りました。
「君は自分の限界を知らないだけさ。そして仲間が欲しいなら自分で探せば良い」
今の仲間達とは別に・・・・・・・・
「まぁ、彼等なりに君を仲間として扱っていたようだけど・・・・俺から言わせれば君には似合わない仲間だよ」
何より私にも意思はあると謎の声は言いました。
「さっきの場から出たのは・・・・他ならぬ自分の意思だ」
あの様子を見ていたのですかと問う私に謎の声は「見ていた」と答えました。
そして歩いているのでしょうか?
ギシギシと床が僅かに軋む音が聞こえてきました。
「君は自分の意思を持っているよ。そして土の魔法も使えるんだ」
本当の仲間を見つける旅に・・・・もっと薬学を極める為に・・・・・・・・
「救いの手を待つ人達の為に旅しても良いと思うよ」
謎の声は何処までも優しい声で私に語り掛けましたが、足が止まりました。
そして私は硬いベッドに寝かされたと背中の感覚で知りました。
つまり・・・・・・・・
「私を天の国へは・・・・・・・・」
「まだ天の国へ行くには早過ぎる。もう少し現世で頑張りな」
謎の声は私の言葉を遮りました。
ですが私の気持ちを解っているのか優しく諭してきました。
それに対して私は問いました。
「私に・・・・出来るでしょうか?」
「・・・・フリードリッヒ陛下も回顧録で説いているよ」
謎の声は私にフリードリッヒ陛下が回顧録で説いた一節を語ってくれました。
「自分に出来るか、出来ないかを問う瞬間を私は何度も味わった。しかし、その時に導いた答えは何時も同じだ」
その答えは・・・・・・・・
「考えて答えを見つけられないなら行動せよ・・・・行動によって答えを見つけられなくても行動せよ」
何故なら・・・・・・・・
「その答えを見つけるのも冒険であるから」
私が最後の部分を意識も朦朧な状態で言うと謎の声は笑いました。
「あぁ、そうさ。君は、まだ自分の事を分からない。だから・・・・それを見つける冒険をしなさい」
そうすれば・・・・・・・・
「君は本当の意味で冒険者になれる筈だ」
だから・・・・・・・・
「明日から頑張りな・・・・・・・・」
ここで謎の声は私の眼を覆っていた手を退かしました。
すると私の意識は再び遠い世界へと旅立っていきました。