第十二章:蠱毒師との対決
私達はヴァルターさんを先頭に廊下を走り続けましたが、前から山賊達が現れたので案の定と言うべきでしょうか?
挟み撃ちにされる形となりましたが・・・・・・・・
「婦女子の御通りだ。汚い男は地べたに伏せてろ」
ヴァルターさんは走りながら突進してきた山賊達目掛けて何かを投げました。
それは牢に来た見張り役を殺した際に使った先端が鋭利な鉄の棒で、その棒は真っ直ぐ飛んで行き山賊達の額や眼に容赦なく突き刺さりました。
前方に居た山賊達は忽ち体を地面に倒しますが後ろから来る山賊達は違います。
「おい、坊や。交代だ。前へ行け」
前の山賊達を倒したヴァルターさんは速度を緩めると最後尾を走っていたボリスに言いました。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・今度は前かよ!?」
「死にたくないなら走れ。ほら、行け!!」
ヴァルターさんに怒鳴られたボリスは息を切らしながら前へ移動し、新たに現れた山賊達に棍棒を打ち据えます。
ですが、ボリス一人では対応できないと悟るやモニカも加わり何とか前へ進む事が出来ました。
ただ私達が走っている間にヴァルターさんは私達と距離を置いています。
どうしてかは判りませんでしたが、ヴァルターさんがウエストバッグから竹の筒を取り出して何かを地面に落とすところが見えました。
そして山賊達が悲鳴を上げたのを聞いて私は察する事が出来ました。
『”菱の実”を使ったんだわ』
菱の実は池沼に生える「浮葉植物」の一種で、実は逆三角形の形状をした上で棘があります。
それを乾燥させると固くなるので踏めば先ず痛い思いをしますが、実の中にある種子は食べる事が出来るので持っていても山仕事などをしていれば然して怪しまれる事はないでしょう。
この点が如何にも陰の者らしいと私は思いましたが・・・・それだけ用意周到で、咄嗟の判断力などにも富んだヴァルターさんを酷く頼もしく思いました。
きっと逃げると言ったのも何か秘策があってと思いますが、私の方には秘策など無いのは我ながら情けないです。
ただ・・・・・・・・
『私が倒すと決めたんだもの・・・・冒険者の端くれとして・・・・倒してみせる』
それが志半ばで死んだ冒険者達の鎮魂にもなると思い直した時です。
私達は広い場所に出ました。
そこは天井も高く、周囲にも遮蔽物が殆ど無い場所でしたが辺りを見渡せば血糊が至る所にこびり付いているのが見えます。
しかも松明が何十本も備えられている辺り・・・・・・・・
「・・・・まさかっ!?」
「ほぉ・・・・やっぱり虚空教の人間だけあって物知りだな」
私は後方から聞こえた声に顔を向けます。
声がした後方には蠱毒師を先頭に山賊達が20人前後は居ました。
「おい、案内人。さっき俺を殺さなかったのは失敗だったな?」
蠱毒師は何時の間にか私の隣に立っていたヴァルターさんに嘲笑を浮かべました。
「あそこで粘っていれば俺を殺す事は出来たが・・・・ここなら俺等の勝ちだ」
遮蔽物は何も無いし自分達は25人も居ると蠱毒師は言い、その人数の多さに私達は唖然としました。
寝床で倒した山賊達は、ほんの一部だと知らされたのですから無理もありません。
ただ私は疑問を抱きました。
『山賊が徒党を組むにしても今まで私達が倒した人数も・・・・合わせれば優に50人は下らない・・・・・・・・』
如何に豊かな土地とはいえ一つの山賊だけが居るのはおかしいと思いましたが・・・・ここで改めてハッとします。
それは先ほど感じた毒々しい気の中に・・・・僅かに感じた気の正体を察したからです。
「貴方・・・・動物や昆虫だけでなく・・・・・・・・」
「あぁ、人間も使ったぜ」
ニヤリと蠱毒師は私の言葉を肯定しました。
そしてサァッと手を掲げ・・・・闇の中から数体の蠱毒を出しました。
ですが先日の蠱毒蜂とは違い・・・・人間でした。
いえ・・・・正確に言えば「元」人間です。
何故なら体こそ人間ですが眼は紫色で、肌の色も赤紫だったのですから・・・・・・・・
「こいつ等は俺等とは違う山賊でな・・・・ちょいと実験感覚で作ったんだよ」
ただ動物や昆虫に比べるとコストパフォーマンス的に最悪だと蠱毒師は悪びれた様子も見せず説明しました。
「やれやれ・・・・屑みたいな人間は腐るほど見てきたが・・・・久し振りに見たぜ」
ここまで「糞」が付く野郎を見たのは、とヴァルターさんは言いながらロング・スピアーを構えました。
「俺も久し振りに見たぜ。ここまで気障で、人の神経を逆撫でする陰の者を、な」
「人の神経を逆撫でするのは生れ付きだ。ただ気障だと言うなら・・・・てめぇも気障になれば良い。地獄でな。そして・・・・・・・・」
「ほざくんじゃねぇ!野郎共!案内人と、虚空教の小娘は俺が殺す!後の餓鬼共を嬲り殺せ!!」
ヴァルターさんの言葉に蠱毒師は激昂したように子分達に命じ、私達は戦闘の体勢を取りました。
「・・・・アンナ。貴女はゴーレムを作りなさい」
私達でカバーするとマリさんは言い私の前に立ち、ボリスとモニカは左右に分かれました。
そしてヴァルターさんは・・・・・・・・
「マダム・アンナ。あんな”出来損ない”は楽勝だから落ち着いてやりな」
相変わらずと言うべきでしょうか?
軽い口調で私に話し掛けてきましたが、それが私の緊張を解したので・・・・滑らかな声で私は詠唱する事が出来ました。
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「我が呼び声に応えて下さい。土の精霊達・・・・・・・・」
私が詠唱を始めると周りの土は小刻みに震え始めましたが、それを阻止せんと蠱毒師達は動きました。
ただマリさん達も動いたので私は詠唱を続けます。
「死ね!餓鬼!!」
私の右から山賊が数人ほど来ましたがボリスが棍棒を振るい寄せ付けず、左から山賊もモニカがショート・スピアーを振るい寄せ付けませんでした。
そしてマリさんが火の魔法を繰り出すと山賊達は一斉に散り、距離を開けるのが見えました。
「土の精霊達。どうか、私の呼び声に応え、その固い身で私達に仇なす邪悪なる者達を打ち砕いて下さい」
私が詠唱を続けると土は浮き上がり少しずつ纏まっていき形を築いていきます。
「この小娘が・・・・ちぃっ!?」
「悪いが・・・・さっきみたいにマダムを傷つけるのは許さないぜ」
私が詠唱し、必死に頭の中でイメージしている傍らで蠱毒師とヴァルターさんは激しい攻防を繰り広げています。
ただヴァルターさんの方は蠱毒で出来た「蠱毒兵」も相手にしていたので大変に見えました。
ですが・・・・それによって私は強くイメージする事が出来ました。
『皆を護れるように・・・・強い力を!!』
錫杖を両手で握りながら強く念じると土は獣の形を成していき、唸り声すら上げました。
「土の精霊達。どうか、私の呼び声に応えて邪悪なる者達を打ち倒して下さい!!」
強い念と声を出すと土で出来た使い魔「ゴーレム」が誕生の雄叫びを上げました。
数は4体で、獅子の形をしていました。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・ゴーレム達。私の味方を、護り・・・・邪悪なる者達を倒して!!」
想像以上に疲労した私ですが錫杖で体を支えながらゴーレム達に命令しました。
するとゴーレム達は蠱毒師を護るように立つ「蠱毒兵」に飛び掛かりました。
それを見ながら私は意識を失わないように努めました。
蠱毒師を倒すのは他でもない私なのですから・・・・・・・・




