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第八章:落ちる鼠

 「お、おいっ!何だよ、これは!?」


 ボリスが目の前で塞がれた道を見て狼狽した声を発しましたがマリさんは冷静な口調で言いました。


 「入り口を塞がれた・・・・つまり私達は袋の鼠になったのよ」


 「・・・・やい、クソ野郎!てめぇ、山賊の仲間だろ?!」


 ボリスは溜まりに溜まっていた感情を爆発させたようにヴァルターさんに怒鳴りました。


 ですがヴァルターさんは冷静でした。


 「俺が山賊の仲間なら蠱毒蜂の倒し方を教えたりしないさ。仮に坊や達を信用させる為にやったとしても・・・・ここに来るまでに殺す機会は幾らでもあったとは思わないのかい?」


 ヴァルターさんの言葉は一理ありました。


 山に入った瞬間から私達は外部と連絡が取れない状態にありました。


 そして私以外は山に慣れていないから・・・・山賊なら幾らでも私達を殺す機会はあったと考えられます。


 ただ・・・・・・・・


 「・・・・仲間を倒された仕返しと、確実に私達を殺す為に巣穴へ引き寄せたのでは?」


 私は出来るだけ冷たい口調でヴァルターさんに言いましたが本心はヴァルターさんを疑ってなどいません。


 ですが考えられる仮定を言ったのです。


 それをヴァルターさんは容易く見抜いたのか、クスリと笑いました。


 「君に賭け事は向かないね。しかし俺が言った台詞を守って実行するまでは良かったよ」


 「やはり私に賭け事は出来ませんね」


 私はヴァルターさんの言葉に肩を落としますがボリスは違います。


 「てめぇ、やっぱり山賊の仲間だな?!」


 ボリスは背中に背負っていた長剣を右手で抜くと高々と構えました。


 「ここで、ぶった倒して・・・・・・・・!?」


 キィン・・・・・・・・


 長剣を振り下ろそうとしたボリスですが、長剣の切っ先が洞窟の少し尖った天井に辺り鈍い音を鳴らしました。


 ですが、それによって・・・・・・・・


 「ぎぃっ!?」


 「・・・・男が暗い中で喚くなんて紳士じゃないぜ?」


 長剣を握ったボリスの手を軽く捻りながらヴァルターさんは小声で囁きました。


 ですが私達はヴァルターさんの動きが速すぎて見えなかった事に息を飲みました。


 2人の距離はそれなりにあったのに一瞬で距離を縮め、攻撃を未然に阻止するなんて・・・・・・・・


 「坊やが俺を疑うのは勝手だ。しかし、今の状態で仲間割れするのは頂けないな」


 何より肝心の山賊は未だに姿を見せていないとヴァルターさんは言いました。


 「それまでは一緒に行動しようじゃないか。どうせ道は一本なんだ」


 この言葉にマリさんとモニカは顔を見合わせ、ヴァルターさんとボリスを見てから私を見ました。


 「・・・・アンリ、貴女は案内人とボリス、どちらを信じるの?」


 「ヴァルターさんです。仮にヴァルターさんが山賊の仲間だったら私は既に殺されていたか、攫われていましたから」


 ハッキリと私が言うとモニカが次に口を開きました。


 「・・・・私も案内人を信用するわ」


 「モニカ!!」


 ボリスはモニカの言葉に悲鳴のような声を上げましたがモニカはこう言いました。


 「ボリス、あんたの言い分も解るよ。でも今の状況を考えると・・・・案内人の言葉が正しいよ」


 「・・・・私も案内人の言葉が正しいと思うわ」


 モニカの次にマリさんが言い、それを聞いてからヴァルターさんはボリスに言いました。


 「坊や、リーダーを気取る前に紳士の勉強をしな」


 それは腕を放すから馬鹿な真似は止めろとヴァルターさんからの忠告でした。


 「グッ・・・・山賊の仲間だったら真っ先に殺してやるからなっ」


 「出来るものならやってみな。もっとも坊やより女性に俺は殺されるなら殺されたいけどね」


 ヴァルターさんはボリスの腕を解放すると私を見ました。


 「俺を信用してくれてありがとう」


 小さく頭を下げて礼を言うヴァルターさんに私は首を横に振りました。


 「いいえ。私は、私の意思に従っただけです。それに・・・・・・・・」


 「それに?」


 「いえ・・・・それより先に行きましょう」


 山賊を退治するのがギルドから受けた依頼だからと私が言うとヴァルターさんは松明を拾いました。


 「仰せのままに。"マダム"・アンナ」


 ヴァルターさんはウィンクして私をマダムと言い、先頭に立ちました。


 マダムは既婚者あるいは成人女性を呼ぶ時に使います。


 ですがヴァルターさんは成人女性と既になっているマリさんをマドモアゼルと呼んでいました。


 そして先程も私をマドモアゼルと呼んでいたのに・・・・・・・・


 「立派な冒険者となった女性をマドモアゼルと呼ぶのは失礼だからね」


 先頭に立ったヴァルターさんは再び笑みを浮かべて言うと歩き出しました。


 その後をモニカ、マリさんが続きますが私も直ぐ続きました。


 それは私も漸く冒険者になれたんだと・・・・他ならぬヴァルターさんに認められたからでしょう。


 出会って間もないのに男性なのに・・・・・・・

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 私達はひたすら前を進みました。


 ですが、ただの一本道なのに・・・・いえ、一本道だから敵は罠を幾つも張り巡らしていたのです。

 

 今もそうです。


 私達の目の前で床が抜け、落とし穴が出て来たのですから。


 もっともヴァルターさんが先頭だったので誰も怪我はしていません。


 ただ私達の神経を擦り減らすには十分な効果はありました。


 「はぁ・・・・何時になったら辿り着くの?」


 ショート・スピアーを杖代わりにしていたモニカが嘆息しました。


 マリさんも杖に体を預けるようにして呼吸を整えていて、私も息を整えていました。


 「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・ちくしょう!やる事が根暗すぎるぞ!!」


 ボリスが先程とは打って変わり弱々しい怒声を上げ山賊を詰りました。


 何せボリスの装備が一番重いから無理もありません。


 ですがヴァルターさんは珍しくボリスを励ますような台詞を発しました。


 「初めてマトモな事を言うね?しかし言い換えるなら効率よく俺達を攻撃しているのさ。しかし・・・・後もう少しだ」


 ここまで来るのに正確な時間は判りませんが2〜3時間は経過しているとヴァルターさんは言いました。


 「となれば・・・・そろそろ向こうも顔を出すさ。若しくは・・・・・・・・」


 ヴァルターさんはボリスを見て言葉を途中で中断しました。


 それはボリスが近くの岩に腰を下ろしていたからです。


 ここで私達が立ったまま休んでいる理由を教えます。


 私達が立ったまま休んでいるのはヴァルターさんが助言したからでした。

  

 『休むのに適した岩や壁には仕掛けが施されているから立ったまま休んだ方が良い』


 これは今まで仕掛けられた罠を考えれば嫌というほど理解できました。

  

 それなのにボリスは座って休みました。


 しかも、お誂え向きに用意されたように岩に座っているから・・・・・・・・


 『・・・・・・・・』


 私、モニカ、マリさんは無言でボリスを見ました。


 対してボリスは息を整えながら反論とも言える台詞を発しました。


 「はぁ・・・・はぁ・・・・別に座るくらい、良いだろ?立ったまま休むより・・・・・・・・」


 「・・・・この馬鹿野郎」


 ヴァルターさんは呆れ果てた眼でボリスを見ながら静かに叱責と取れる台詞を浴びせました。

  

 その言葉にボリスが反論しようとした際・・・・・・・・


 「きゃああああっ!?」


 「クッ・・・・・・・・」


 「いやぁっ!!」


 「う、うわぁぁぁ!?」


 「はぁ・・・・今度は"落ちる鼠"か」


 ヴァルターさんの言葉通りの展開でした。


 私達が居た場所が一瞬で消え、私達は真っ逆さまに落ちたのですから。


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