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第七章:洞窟の中へ

 私達はヴァルターさんの案内で正午前には山賊の巣穴へ到着しました。


 巣穴と思われる洞窟は昼間なのに暗く、中は光を拒むように真っ暗です。

  

 「如何にも山賊らしい住処だな」


 ボリスは洞窟を見て興奮したように言いますが私は暗く先が見えない洞窟に恐怖を抱きました。

  

 虚空教の修行の中に暗い洞窟で一人過ごす修行があります。


 ただ大半は半日で挫折し、何人は2日くらい持ちますが2日以上は・・・・・・・・


 先輩の何人かも挑戦しましたが挫折し、その際の経験を話してくれたのですが・・・・・・・・


 『暗闇は我々の正気を乱し、そして囁き掛けてくる。耐えられる者はそう居ない』


 その言葉を思い出し私は錫杖を握り締める事で恐怖を抑えようと試みます。


 そんな私をヴァルターさんは見るとポンッと肩を叩きました。


 「恐怖を抑える必要はあるけど、そこまで抑える必要はないよ。寧ろ恐怖心はある程度、持っていた方が良い」


 「・・・・・・・・」


 「聖人なんかは恐怖心を信仰心で克服するけど君は冒険者だ」


 冒険者は依頼を遂行する事で報酬を貰うとヴァルターさんは言いました。


 「だから恐怖心を持って慎重に当たれば良いのさ。下手に恐怖心を持たずに行けば墓穴を掘るからね」


 そう言ってヴァルターさんは近くに生えていた木から伸びた手頃な枝を何本な山刀で切り落としました。


 「おい、おっさん。何しようってんだ?」


 「松明を作るんだよ。まさか、松明無しで入るつもりだったのか?」


 「松明なんて持ったら体の良い的じゃねぇかよ」


 「あぁ、そうだな。しかし・・・・坊やは松明無しで暗闇を歩けるのか?」


 洞窟は凸凹していて足許を取られるとヴァルターさんが言うとボリスはマリさん火を点けてもらおうとしました。


 「男なら火くらい自力で点けられる知識くらい持ちな。若しくは道具を、な」


 ヴァルターさんは腰に付けているショルダー・ポーチから薄汚れた布切れと竹の筒を取り出しました。


 薄汚れた布切れを枝に巻いたヴァルターさんは竹の筒を押し上げて、中に入れていた火種を出しました。


 「"打ち竹"ですか」


 「山歩きには必需品だからね」


 私の言葉にヴァルターさんはクスリと笑いました。


 「ねぇ、打ち竹って何?」


 モニカが私に問い掛けてきたので私は答えました。


 「火種を入れた竹の事です。常に火種を持ち歩けるので山で育った者は好んで所持しています」


 「自分達の知恵と知識で解決するのも冒険の醍醐味だろ?マドモアゼル・モニカ」


 ヴァルターさんの言葉にモニカは感慨深そうに頷きましたが、疑っている為か複雑な表情でした。


 ですがヴァルターさんは打ち竹で薄汚れた布切れを巻いた松明に火を点けると私とマリさんに渡しました。


 「坊や、最後尾に付け。マドモアゼル・モニカは最前列、その間にマドモアゼル・アンナとマドモアゼル・マリが入ってくれ」


 「何で、おっさんが指揮するんだよっ!パーティーのリーダーは俺だぞ!!」


 「あぁ、パーティーのリーダーは坊やだ。しかし俺は死にたくない」


 だから自分の経験から隊列を考えたとヴァルターさんは言い、その隊列が良いと私は思いました。


 「最前列と最後尾を男で固め、真ん中を魔術師で固める事で接近戦や不意打ちに備える為・・・・ですね?」


 私がヴァルターさんの考えた隊列の構成を言うとヴァルターさんは頷きました。


 「ならマドモアゼル・モニカを俺の次にした理由は分かるかい?」


 「狭くて天井も低い洞窟ではボリスの剣は長すぎます。ですがモニカなら槍だから突きが出来るからです」


 「その通り。そして君の錫杖も槍になるから坊やの前にしたのさ。まぁ坊やの剣も・・・・・・・・」


 「もう良い!おっさんの御託は沢山だ!!」


 ボリスは怒声を上げて早く行こうと言いますがヴァルターさんは冷静な声で言い返しました。


 「焦るな。敵はてぐすね引いて待っているんだ」


 それなら準備は大事とヴァルターさんは言いながら松明を持ちました。


 「ある程度の距離を開けて進むけど離れ過ぎないように注意してくれ」


 後は耳を澄ませ、鼻で臭いを嗅げとヴァルターさんは私達に言いました。


 「蠱毒師は毒を使うから独特の臭いを放つ。それを嗅ぐんだ」


 それをマリさんとモニカは真剣に聞きましたがボリスは面白くないとばかりに聞いていない様子でした。


 ただ私はシッカリ聞いたのでカヴァーする事は出来ると思います。


 以前ならそこまで考えられなかった事ですが、昨夜の戦いで自信が・・・・ほんの僅かですが持てたからでしょうか?


 「さぁて、また坊やが癇癪を起こさない内に・・・・行こうか?」


 ヴァルターさんの言葉に私達は頷きました。


 そして・・・・ついに洞窟に足を踏み入れたのです。

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 ピチャン・・・・ピチャン・・・・ピチャン・・・・


 洞窟の凸凹した天井から水滴が落ちる音は遠くまで聞こえました。


 ですが私達は黙々と進みます。


 ただボリスの焦れったそうな表情を見ればボリスが如何にせっかちか垣間見えます。


 もっともボリスが先頭だったら今ごろ私は足を挫いていたでしょう。

  

 それほど洞窟の中は暗い上に凸凹した天井と地面なんです。


 ここをヴァルターさんは知っている為か、ゆっくりですが確実に進んでいます。


 『本当に何者なんだろう・・・・・・・・』


 ヴァルターさんが日雇い労働者というのは半ば嘘と、この時点で明らかにはなっていますが果たして何者かは今も判りません。


 ですがヴァルターさんが敵ではないと私は根拠はありませんが確信していたので純粋な好奇心からヴァルターさんの正体を・・・・知りたかったです。

  

 そんなヴァルターさんは不意に足を止めると左側を見ました。


 釣られて私も見ますが暗闇で何も見えません。


 でもヴァルターさんが持つ松明を見ると・・・・・・・・


 『火が揺れている・・・・しかも、かなり強い。という事は・・・・・・・・』


 私が答えを見つけるより早くマリさんが右手を前に突き出しました。


 そして小声で詠唱しました。


 「我が命に従い、汝らの力を持って闇に隠れた存在を我に知らせよ」


 マリさんが詠唱を終えると「そよ風」が左側に吹きました。


 風の探索魔術である「そよ風の息吹き」です。


 そよ風の息吹きは左側に行き、何か探知したのかビューと強く吹きました。


 「・・・・・・・・」


 ヴァルターさんは無言で左側を見ていました。


 マリさんの方も強く吹いた事で何か察したのか、何時でも攻撃魔法を放てる構えを取りました。


 ですが全く動く気配はありません。


 どういう事?


 そよ風の息吹きが強く吹いたという事は何か探知した証拠。


 それが敵なら何らかの動きを見せる筈なのに・・・・・・・・


 「・・・・・・・・」


 私は無言で錫杖を握り、左手で持つ松明を掲げて足を踏み出しました。


 それをマリさん達は驚いた表情で見ましたが、モニカが来てくれました。


 「貴女だけじゃ危ないわ。まったく・・・・急に積極的になっちゃって」


 小声でモニカは私に囁いてきましたが私は小さく笑い返しました。


 「・・・・自分に挑戦したくなったんです」


 それを聞いたモニカは「怪しい上に女垂らしな案内人ね」と言いながらショート・スピアーを何時でも突けるように構えました。


 対して私は左手の松明で奥を照らしました。


 そこには大きな岩が置かれていて、隙間から風が吹いていました。


 「・・・・・・・・」


 「・・・・・・・・」


 私とモニカは顔を見合わせました。


 隙間風が吹いて、それを隠すように置かれた岩。


 つまり・・・・・・・・


 私とモニカは緊張した表情を浮かべながらヴァルターさん達の所へ戻り見た事を伝えました。


 「・・・・やられたね」


 ヴァルターさんが呟くと入り口の方から何かが動く音が聞こえてきました。


 そして左側に行けた道は私達の目の前で上から落ちてきた岩壁で塞がれました。


 「お、おいっ。これは・・・・・・・・」


 「"袋の鼠"にされた・・・・わね」


 狼狽するボリスとは対象的にマリさんは冷静な口調で事実を言いました。 

 

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