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9.おっさんに見える少女たちの憂鬱と。甘い囁き

 誠二達がそんなやりとりをしているころ、城の一区画ではティナとサーシャが歩いていた。

 その表情はやはり暗い。

 先ほどから気分転換に庭に出てみたものの、二人で話す内容といったら誠二のことばかり。

 ようやく戦いも終わったというのに、その後の生活をまったく楽しめてはいなかった。

 自分達は誠二に怖れられ、近づけば悲鳴を上げられるのだ。それをどう受け止めろと言うのだろう。


「これは、サーシャと、ティナ。そんなに暗い顔をしてどうしたのだ?」

 とりあえず仕事に戻ろうと二人で城のそれぞれの持ち場への道を歩く。

 ティナは使用人の詰め所、サーシャは騎士団の詰め所だ。

 途中までは一緒に行こうと進んでいる最中に、見知った顔に声をかけられたのだった。


「団長。いえ、特別なことは特にありません」

「はは。君らしいな。そんなにかしこまらんでいい。君はすでにことを成したのだ」

 騎士団での訓練も免除しておるだろうが、と声をかけてきたのは騎士団長を勤めているマルクスだった。

 サーシャにとっては直属の上司ということになる。

 魔王の討伐任務を終えたサーシャは、げっそりしながらも騎士団の仕事に戻ると申し出ていたのだが、それを止めて休暇を与えているのは彼である。


「ティナもずいぶんとしょぼくれて。可愛い顔が台無しじゃないか」

「マルクスさまでも、そのような気遣いをなさるのですね」

 いつもは厳しい顔を崩そうともしない、いかついおっさんであるマルクスも、しょんぼりと肩を落としている小柄な娘には少しは柔らかい顔になるらしい。


「話には聞いているが……勇者どのの話かな?」

 マルクスが彼にしては気さくにその名をあげる。

 二人は肩をぴくりとふるわせた。

 ここのところ周りの人間はその話題に触れることはなかったのだ。

 特に、呪いの実演をしてからというもの、不憫だと思われてるようで、その話題を直接ふってくるようなものはいない。


 けれども、マルクスはそういうことに頓着する男でもない。

 原因があるなら、言ってみろといわんばかりの態度だった。


「誠二さまには、私達がまるでマルクスさまの様に見えるそうです。さらには最近はお食事も召し上がらなくなって……」

「わしのように、か。それが不満とは、わしの立つ瀬がないではないか」

 それでしょぼくれていては、わしなんぞ生きていけんぞ、と彼は脳筋らしく豪快に笑った。


「って! その……殿方がそうなのは別におかしいことではなくですね!」

「団長。さすがに貴方がドレスを着て、町中を歩いていたら、周りはどう思うと?」

 こめかみに青筋を立てながらサーシャが反論する。

 いろいろとがさつな団長ではあるのだが、さすがにそれくらい察しろと言いたい。


「仮装だとでも思われるかな? それともそういう日でなければ気が狂ったとでも思われるかな」

「私達なんて別人だと思われてるんです」

 そんなの序の口だと言わんばかりにティナが口をとがらせた。

 さらに、一番大切な人にそう思われるのだ。これがどれだけ苦しいことか。


「まあまあ、二人ともそんなに睨まないでくれよ」

 悪かったから、とマルクスが言っても二人の機嫌が直ることはない。

 そんな二人を前に、そうだ、とマルクスは切り出した。


「そ、そうだ。チーレムターの呪いについて、魔王の城から新たに情報が出たんだ」

 調査隊の報告で、古文書があったということだ、とマルクスがいうと、二人は、は? と一瞬呆けたような顔をしてから、食いつくようにマルクスに詰め寄った。


「ど、どのような!? それはっ」

「解けるのですか!? あれはっ」


 二人が息ぴったりで答えるのをマルクスはため息まじりに押しとどめる。

 そして、薄い本のようになっているそれを二人に見せた。

 もちろんひったくるようにして二人はそれを読み始める。

 文字はこの世界のものだ。誠二が見た日本語のものではない。


「この魔方陣……マレイが組んでいたものと同じ……」

「チーレムターノシミ。呪文も同じ……」

 魔法の内容から行使の仕方まで、まったく同じものがそこには書かれていた。

 そこにあるのは紛れもなく、チーレムターの呪いについて書かれた書物だ。


「じゃあ! 解呪の方法は!? ティナ早く次をっ!」

「ええ、わかっておりますともサーシャさま」

 あせる気持ちを抑えながら、二人はページをたぐった。


「「……なっ……」」

 けれども、そこで二人はその先の文字を読んで絶句してしまった。


「呪いにかからなかった者の心臓を捧げよ。さすれば呪いは無効となる……だと」

「ど、どういうことですか!?」

 ちらりと責めるような、驚いたような視線を二人はマルクスに向ける。


「さぁ、わしには専門外でさっぱりだよ。ただ、マレイの力自体は二人も知っての通りだろう? 呪い、魔法、そういった力に反抗する力は随一だ。大賢者オジさまに比肩すると言っても良い」

 なれば、呪いにかからなかったのも道理というものだ、とマルクスは目を細めるようにしながら、魔術師の集まる研究施設に視線を向ける。


「それと、異世界への送還は、オジさまとマレイが二人そろって行わなければ発動しない特殊なものだったはずだろう?」

 それ以上は言わなくてもわかるね? と言われてサーシャとティナは思わず後ずさった。

 何を言っているのだろう、この騎士団長どのは。


「そもそもおかしいとは思わないのかね? 今の状況は、マレイにとって破格な条件だろう。君たちは一歩も近づけず、自分だけが勇者どののそばにいられるだなどと」

「ティアは?」

「男子にこの呪いは効かないのはみな知っていることだろう?」

「それは……」

 ティナがあいまいに言葉を濁した。

 確かにティアは自慢の弟だ。見た目はああも可憐で少女の様だけれど。

 だが、男だ。

 ならば呪いが効かないのも当然といえば当然なことだ。


「それに誠二どのは、ティアに感謝こそすれそこに異性を見る目というものはないだろう?」

「もちろんそれは、私から見てもそう思います。あの子自体も好意は抱いていてもそれ以上はならないように気をつけてるようで」

「そうよね。男同士でつきあうなんてあり得ないもの」

 うんうんと、そこにいる三人は深くうなずきあった。

 この国は、というかこの世界ではなにより、人口が増えることが優先される。

 それは純粋に国力の基本となるからだ。優秀な人材は教育で生み出せるだろうが、頭数というものはやはり子供が生まれなければそろうものではない。


 一夫多妻がOKな気質なのも、その流れがあるからだ。

 だからこそ、同性を好きになる、ましてや添い遂げるなんていうことは、まずあり得ない。

 いにしえには、悪魔に性別を変えられたものの悲恋話などというものもあったと言うほどだ。


「それで。二人とも。このままでいいのかな?」

 そんな会話の間隙に、マルクスの優しい声が二人に響いた。

 まるでしみこむように。ゆっくりと。


「そ、それはどういう……」

 ティアとサーシャは内心わかっていながら、頭のどこかでそれを拒絶しようと声を上げる。

「勇者どのとマレイ、どちらを取るのか、という簡単な問いかけだ」

 けれどもマルクスの声はその拒絶をはがしとる。

 一人、勇者(せいじ)を独占している彼女よりも、勇者そのものが彼女らの手に返ること。それも永遠に一緒にいてくれるとなれば、どちらを取ればいいのかなど考えるまでもない。

 女はそうやって、過去よりも未来を掴みにいく狡猾な生き物なのである。


「でも、勇者様には帰るべき場所が……」

「存外、旅先に馴染むこともあろう。それに大賢者オジどのさえいれば、あちらの世界に手紙を送るなどはできよう」

 人のようなサイズのものであればともかく、小物であれば天才二人の手がなくてもなんとかなるのだ。 


「わしはいつだってお前らの味方だ。なに、儀式が終わった後なじられたとしても、かばってやるさ。勇者どのには我らも大恩がある。それにマレイだって彼が治るのなら黙って心臓を捧げるだろう」

「ですが……その」

「なんなら、間者が紛れ込んだことにでもすればいい。なに、君たちの非にならないよう、わしがお膳立てはしてやるさ」

 だから君たちはマレイを連れ出してくれないか。

 マルクスの声は甘く、二人にしみこんでいくのだった。

マルクスさんはおっさんです。

さて。では誠二からこの光景をみたら……おっさん三人が会話しているの図!inコスプレ会場?


というわけで、ちょっときな臭い話になってまいりました。

友情と愛情なら、どっちをとるか、わかるね? ん? といった感じでございます。


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