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7.魔王の正体と呪いの理由

 城の内部で呪い体験会をやっていたころ。

 誠二は一人、魔王の城へと再び訪れていた。

 一度訪れたところに移動できる「転移」を使えば、移動はすぐだ。朝、城を探索して、夜戻るなんてこともできる。


 城内部は閑散としていて、人っこひとり、魔物一体いない。

 通常の人同士の戦であれば、死体が腐臭を放ったりするものなのだろうが、魔王の朽ちっぷりから見れば、彼らの死体は残らずに消えるのだろう。戦いはこの前終わったばかりだというのにすでに魔王城はうち捨てられた古城のような雰囲気だった。


「ミリィがあらかた探索は終えてるだろうけど……見落としもあるかもしれないからな」

 彼女の必要なものをもってくる技術はとても高いものではあるけれど、それはあくまでも戦闘に関してのものだ。

 呪いを解く方法なんてものを目標にして探索したわけではないので、素通りしてしまっている可能性は十分にあった。


 ちらりと魔王の玉座の間を覗きつつ、その主を失ってがらんとしてしまっているそこに少し寂寥感を覚えた。

 あのときは魔王を何とかするのに必死であまり見ては居なかったけれど、正直、誠二が世話になってる城よりも玉座は立派で広かった。

 広いが故に、主を失った部屋は物寂しいものだ。


「魔王を倒してくれ、か。にしてもあの魔王、チーレムって単語知ってたのはなんでなんだろうな」

 誠二は廊下を進みながら魔王の最後の言葉を思い出していた。

 チーレムなんて許せないと言っていた彼に、少しばかり違和感を覚える。

 こちらの世界は一夫多妻制もあり得る文化だ。

 実際魔王だって、側室を何人も持っていたし、ハーレム自体は存在しただろう。


 でも、チートは? この魔法がばんばん存在するのが普通(、、)のこの世界でその単語が存在するか、と言われたら、疑問しかわかない。


 そもそもこの世界にはコンピューターと呼ばれるものがない。故に、それを改ざんする裏技なんてものも存在しないわけだし、理解出来ない理不尽をチートという風な表現はまずするはずがない。

 通常それは、加護のためだとか、才能だ、とかそういう単語で片付けるものなのだ。

 

 でたらめな強さ、とか言われることはあっても、いんちきな強さ、とはあまり表現しないだろう?

 加護の力はいんちきだとは思うけれど、この世界の人間にとっては理不尽であろうが「それが通常」なので、いんちきではないのだ。


 だからこそ、魔王がその単語を使ったことに、ひっかかりを覚えるのだ。


「お、隠し部屋、か?」

 通路の先の部屋を散策していたところ、少しだけ色合いの違う壁を発見した。

 ミリィなら気づきそうなものだが、直感で飛ばしたのかもしれない。

 壁を触っていると、駆動音がしてぽっかりと人が通れる通路ができあがった。

 いや、魔物が、と言い換えた方がいいか。少しばかり誠二からしたら大きな通路である。


「ほこり臭いってことはないが……」

 隠し部屋のわりに薄暗い感じもせず、一つの部屋として機能しそうなそこには、立派な本棚が立てられていた。

 誠二の家にも本棚はあったが、もちろんそれよりも立派で三面くらいに本がぎっしりと詰まっている。

 古いものから、新しいものまで数はいろいろだ。


 とりあえず背表紙をじぃっと見ていく。

 マレイに教えてもらったこちらの文字と同じものがそこには並んでいた。

 城の書庫にあるのと同じ本もあったりして、魔王も同じようなものを読んでいたのかと、首をかしげた。

 あれほど人と異なる見た目をしながら、文字と言葉は一緒なんだよな、という思いに駆られる。


「魔王の日誌、かな、これ」

 日記ではなく、日誌と書かれているのに少しひっかかりを覚えつつ、日付が一番古いものを開いた。


 ついに俺も魔王になった。下っ端魔族から成り上がるまで、余裕はそんなに無かった。俺の加護もそこまで強いものでもなかったし、あとは日本人だったころの知識チートというやつくらいなものだろうか。

 魔族というものは、教養があまりない脳筋なやつらが多かったから、いちいち俺の発想(実際は日本人としては常識的なことだが)には驚いて、原始人の前でマッチを使った現代人みたいな感じになってしまうことばかりだった。

 思えば、サリーと最初に会ったのも、困ってるあいつを頭脳プレイで助けて見せた時だった。

 懐かしい。もうあれも二十年も前になるか。

 魔族の寿命は二百年程度。人の二倍はある。長命種ならもっと長くなるだろうが、我らの種族はその程度だ。

 

 さて。そんなわけで魔王にもなったので、日誌でも書くことにしたわけだ。

 生前の俺は航海士をしていたから、日誌を書くのもある程度習慣となっている。今まではおおっぴらにはできなかったが、紙を自由に使えるようにもなったので、これで好き放題できる。

 ちなみに、他の奴らにこれを見られたら気が狂ったとでも思うだろうな。


「だろうな。日本語で書いてあるしな。なら背表紙も日本語で書いとけよ」


 日誌とか書いてあれば、迷い込んだ同族が興味本位に開いて見る可能性もあるだろう。

 そして出てくるのは見たこともない文字だ。誠二たちからすればこちらの世界の文字がミミズがのたくったようなもののように見えるように、変な風に見えるに違いない。


「でも、転生者ってやつだったか」

 その日誌を読み進めていくつかのことがわかった。

 彼は元日本人で、こちらの世界で成り上がった。前世の仕事は航海士。年齢は記載がないものの、結構年上じゃないだろうか。文章がしっかりしているし、行動もずいぶんと大人びている。


 そして。


 その後書かれていた日誌を見るたびに、誠二の気分は落ち込んでいった。


 五冊目にさしかかったとき、魔王に子供が生まれたと書かれていた。

 

 七冊目に段々国の中の食糧事情が良くなったと書かれていた。


 そして。最後まで読み終えて。


 どこにも、人間の国に(、、、、、)攻め込もう(、、、、、)なんていう記載がなかった。


 その前まではわからない。やっかいになってる国の王様達が嘘をついていたとは言い切れないし、仲間達が自分を騙していただなんて思いたくもない。

 けれど、今の。この気持ち悪さはなんだろうか。

「うぶっ……」

 胃酸が逆流するようだった。喉に苦いものがこみ上げてくる。

 

 ちらりとてのひらが見えた。魔王を殺した己の手。

 あのときは全く気にしなかった血まみれの手が、幻視のように脳裏によみがえる。


 なんのために自分は魔王を殺したのか。

「はぁはぁ……なん……」

 みんなに期待された。

 魔族は敵だと言われて、困っていると言われて。

 それを助ける力が自分にはあった。

 最強の、必勝というチート(いんちき)だ。一年半の準備期間で強くなって、仲間と一緒に旅をして。

 そして、魔王を()した。


 それが。殺した。んだ。あいつにも生活があって。おまけに。

 子供も居て。ハーレム? 嫁さんは五人だったか。

 幸せだったろうに。転生者として苦労してやっとというところで。


 それを全部つぶしたのが自分だ。 

 これをどう受け止めればいいのだろう。

 

 これが直接こちらに害をなしたのならまだ、言い訳も出来る。

 誰かを、知り合いを害されたのなら、その報復ということも出来ただろう。


 でも、なにもない。誠二と魔王の間には因縁なんてものはなにもなくて。

 訳もわからず、周りの言葉に従っただけだった。


「ああ、だから、この呪いか……」

 魔王は、襲われるとしたら転生者か転移者だと思っていたのかもしれない。

 歴史上、それらが強い力、加護を持つことは有名だからだ。

 なら、一番効くとしたら、これだろう。

 死んでしまうよりも、生きて苦しめ、というささやきが聞こえてきそうだ。


 現代日本人の男子なら、「女子全部がおっさんに見える」というこの呪いはやばいだろ。

 それで、死のうと思えないところも含めて、最悪の呪いだ。

 たかが(、、、)女子がおっさんであっても、自殺をしようとは思えない。

 命を脅かすほどの絶望ではないのだ。もちろん絶望はするけれど。

 いつか慣れて。灰色の未来を。日常を作るのだろう。

 周りはおっさんだらけで、男とだけ仲良くして、一生一人身のまま。


 これは罰だ。人の幸せを奪ってしまった自分への。

 

 誠二はその日誌を抱きしめながら、体育座りのひざに頭を埋めたのだった。

チーレムって単語自体、異世界にはないよね、という感じで。

じゃあ、魔王さんなんで知ってるの? というお話でした。


でも、チーレムできない上に討伐への罪悪感までとは……なんて、なろう主人公ぽくないのかしらっ!


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