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6.チーレムターのシミ

演出上、今回もちょっとアレな描写がありますのでご容赦ください。

 城の一室、百人ほども入れそうな広間には、マレイを始め魔術師チームと、今回の実験に参加する勇者パーティー、そして王様や文官など十数名が集まっていた。

 勇者である誠二が見たのと同じ、ということで勇者パーティーは当時の格好と同じものを着込んでいる。

 ミリィは動きやすそうなシーフの格好で、二の腕や太ももは露出されているし、サーシャはこれぞビキニアーマーという思い切り露出の多い格好だった。


 あれでサーシャの家に伝わる最高峰の神具だというのだから、昔の人間の趣味はどうなのだろうかとマレイは思ってしまう。

 魔王討伐に出ているときも、そのこぼれ落ちそうなおっぱいと、すらりとしなやかそうな太ももは反則だと常々思っていたのだ。普通の鎧を着てこいよと正直自分の胸と見比べながら何度も思った。

 でも、サーシャに言わせれば、防御の加護が付いている上に、軽くて歩きやすいのだということで。

 よく、せーじの視線を集めていたよなぁと苦々しく思うばかりだ。


「では、第一回勇者さまにかかった呪いを再現しよーのコーナーのはじまりはじまりー」

 ぱんぱかぱーんとおじぃが魔法で効果音まで演出して盛り上げようとしている。集まったメンバーはみんなげんなりしているようだった。

 とくに女子からの視線がそうとうに厳しい。真面目にやれというのがひしひしと伝わってくる。

 マレイは対象外なのでそうでもないが、女子三人からすれば切羽詰まった状態であるのは確かだった。


「ちょっとおじぃ。勇者さまの一大事なんだからふざけないで」

「そうよそうよ。私のせーじがあんな呪いまみれになるだなんて。さぁおじぃさっさと解呪しなさい」

 さっさとしなさいと厳命するサーシャの視線はやばかった。

 戦いが終わったというのに、こんな事になってしまって焦っているのだろう。

 いいや、こんなことになってしまって、気付いたというところだろうか。

 自分が誠二に対して、どういう感情をもっていたのか、ということに。


「最近の若いもんは血の気が多いのう。別に世界の女性がおっさんに見える呪いとか、どうでもいいじゃろ。わしらはそのままなんじゃし」

「よくないっての。そんなの不能になる呪いよりひどい」

「サーシャったらすけべじゃのう」

 ふへへ、と笑うおじぃの前でこぶしをぐっと握りしめているサーシャを見て、マレイは慌てて自分の(ロッド)で軽く養い親の頭をはたく。

 おぶっという声が漏れたものの、騎士の本気のこぶしを受けるよりはマシだと思ってもらいたい。


「まあよい、今日は勇者さまにかかっている呪いを体験してもらいたくて集まってもらったのじゃ」

 とりあえずは、わしみたいな意見の男のケツを叩くためだのう、とおじぃは趣味の悪い煽り方をした。


 実のところ、勇者の呪いについて、真剣なのは彼と親しい女性三人のみ。

 サーシャと、ティナと、そしてお姫様だ。

 他のものは、別段その呪いについて重要視はしていない。王様ももちろんその中に含まれる。

 実害がない上に、おっさんに見えるといわれても、自分で体験していなければ想像もしにくいというものだ。

 ミリィにいたっては、おっさんとして見られた上でなお、まあいいやという態度だ。

 

「マレイ。魔法陣展開じゃ」

 黄金のカップから水をぶちまけるとそれはうねるように地面に魔法陣を刻んでいった。


「ではみなのもの、起動の言葉(キー)じゃ。チーレムターノシミ」

「ち、チーレムターノシミ」


 実験場の魔法陣の上では怪しげな呪文がこだましていった。

 そして地面に描かれた文様は薄暗い輝きを発して消える。


「あの、チーレムターノシミとはどういう意味がある言葉なのですか?」

 チーレムターという固有名詞のあとの、染みだろうか。

 ティナがその不思議な語感に首をかしげる。


「ごぶっ」

 そう。おっさんとして、がちむちの首をかしげながらあごに指を当てる姿に、その広間にいた全員が吹き出していた。おまけにメイド服はぱつぱつである。


「ひどい……あの見た目と仕草の違和感ったらないわ」

「おまえにだけは言われたくはないだろうよ……」

 マレイのつっこみに、皆の視線がサーシャに向かった。

 そう。ビキニアーマーを着た彼女に視線を向けてしまったのだ。


「ぐばっ」

「ごぶっ」

 ばたりと何人かが倒れた。

 ほほぅ、これを勇者どのは見た上で正気を保っておられたとは……というつぶやきはおじぃのものだったろうか。


「な、なんなのよっ。ちょ、みんな私を見てなにをそんなに……」

「サーシャ。ほれ、鏡、見てみるといい」

 ちょいちょいとマレイはサーシャの二の腕をたぷたぷつつきながら、わざわざ設置させた大鏡の前につれていった。

 気分は処刑台へ囚人を送り届ける獄卒のようだ。


「……えっと……どうしておっさんがうちのビキニアーマーを……」

 口から紡ぎ出される声は、サーシャには二重音声のように聞こえた。骨を伝わる音は元のものが、そして耳から反響してつたわるものは、野太い声音。

 そしてこちらが手を上げれば、そちらのおっさんは反対の手を、まるで鏡合わせのように上げる。


「それが呪いの効果。せーじには貴女たちがそう見える。だからあの城の中でせーじは貴女を見て錯乱したというわけさ」

 ひどいものだろう? といわれてじぃとマレイの姿をサーシャが見つめる。


「マレイだけ姿が変わらないなんてひどいじゃないの! 私たちはこんな風に見えて、マレイとティアだけそんな可愛いままだなんて……」

 がくりと地面にへたり込んで、サーシャはよよよと泣き声をあげはじめ。

「うぶっ」

 へたり込んだときに見えた自分の股間の悲惨さに、そのまま倒れ込んだのだった。


「わぁ、拙者がおっさんとはっ。これはなんともっ」

「ミリィは動じないね。さすがにその格好は抵抗があるんじゃないのかい?」

 最後の勇者パーティーの一人、盗賊のミリィは鏡の前にたつと興味深そうにそれを覗き込んでいた。

 がちむちの二の腕にむんっと力を入れて、力こぶなんかを作って見せたりもしていた。


「誠二が嫌がるのは困るけど、拙者盗賊でござるし、それにこれはまやかしの類いなのだろう?」

「さ、触った感触までそのものだ、と姉様の実験でわかっていますけど」

 ティアが少しその姿に頬を引きつらせながらも、その事実を伝える。

「ふむ……触った感じ、か」


 ミリィは一人なにか思いついたのか、じぃと鏡を覗き込んだまま、むんずと自分の股間をつかんだ。

 本来存在しないそこがどうなっているのか、興味を持った上での行動だ。

「おっほぉー、これはなかなか摩訶不思議な。自分で触った感触はあるのに、触られた感触がないというこの違和感。これはいじればどうなるのであろうなぁ。それともこの粘土をこねくりまわしてるような感じが続くんだろうか」

「ちょ、ちょっ、ま。まって! ミリィ。さすがに他に男の人がいる中でその発言は、いろいろしんどいから! 気まずいから!」

 いきなりのミリィの行動にマレイは慌てて止めに入った。確実にここでやるにはNGな場面だ。

 周りにいる文官や魔術師の男性がとても気まずそうに顔を背けている。


「あ、戻った」

 そんなやりとりをしていると、ミリィは鏡に映っている自分の姿が元に戻ったのを自覚した。

 周りの人達もそうだ。


「効果時間の設定をさせていただきましたのじゃよ。ずーっと切れないのではこの世の破滅ですからの」

 とくに、王族の方々はいろいろマズイでしょうし、とおじぃは愉快そうにあごひげをわさわさとなでた。

 きっとそれにだって人は適応するだろうが、きっとしばらくは大混乱となるだろう。


「さて。勇者どのの呪いの効果時間ですが……おおむね百年ほどという結果ですじゃ。まー一生呪われたまま、ということになりますかの」

 ま、我らには関係ないことですが、とおじぃは相変わらず冷たい態度のまま、ちらりと周りの者たちに視線を向ける。


「関係ないことあるか! あんなものを勇者どのは毎日見ていたというのか!?」

「それじゃ、避けられるのも当然じゃない! せっかく王宮で働けるようになったのにー」

「けっこーあれもあれで面白いと思うのだがなぁ」

 気絶していない人達から声が上がった。

 女性からは悲痛な声が。男性からは同情の声が。


「ミリィ。君はホントぶれないね」

 その中で、一人ミリィだけが腕組みをしながら、愉快にござるとうんうん頷いているのだが、そんなものは例外だった。


「さて。おじぃ。やることはやった。あとは研究に戻ろう」

 広場の雰囲気を見て、マレイはくいとオジのローブの裾を引っ張る。

 これで、みんなが味方に付いてくれるのなら、チーレムターの呪いを解析しやすくもなるだろう。


 けれど。

「えと、その前にサーシャさまと姉さまをなんとかしないと」

 ティアの疲れたような声を聞いて、城の者達は倒れた二人、サーシャとティナをそれぞれの私室へと運んでいったのだった。


起動呪文がどうやらみなさんよくわからないご様子です。

チーレムターってなんだろーでございます。


しかしまあ、実際その光景を見せられたら本人達はショックだよねぇということで。

ミリィさんだけ一人豪胆ですけどもね。


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