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2.男の娘は無事のようです

本日更新二話目です。


「んあ……あれ。王宮の中か?」

 目が覚めたらそこは久しぶりにみる白天井だった。

 魔王討伐に出る前、訓練と称して自分の加護やスキル、剣技を磨いていた頃に使っていた部屋。

 かすかに柑橘系のにおいがするそこは、半年離れていただけなのに懐かしい。


「お目覚めになりましたか? 勇者さま」

 そしてあの頃のように、ベッドのわきに控えているのはメイドさんだ。

 ふわっとした髪を肩まで伸ばしているのが、ティア。そしてショートカットにしているのがティナ。

 双子のメイドさんは、王宮での生活を支えてくれた恩人だ。

 そのうちの片方、ティアがベッドのわきからこちらを覗きこんでいた。


 城の関係者はたいてい、勇者である誠二に魔王討伐の期待を寄せてくる。

 でも、この二人のメイドはただただ、誠二のことを気遣ってくれた。異世界にきても取り乱さずにいられたのは、この二人がいてくれたおかげだ。


 そして今そばに控えているティアは、こちらが目を覚ましたのを見て、花が咲いたかのような笑顔を見せてくれた。魔王討伐から戻った誠二がなかなか起きないので心配していたのだろう。もしかしたら今まで交互に様子を見ていてくれたのかも知れない。

 双子とは言ったが、二卵性双生児というやつで、うり二つという感じではない。

 ティアのほうが、ふわっと柔らかい印象なのに対して、ティナの方がきりっと凜々しいイメージが強かった。

 

 そして。ティアなのだが……本当に残念ながら、男の娘である。

 ああ、何度でもいおう。

 こんなに可愛いのに、男なのだ。

 小さい頃は男の子の服を着させられていたようなのだが、ティナがメイド服を着せてみたら周りが、そのままいこうよ! なんて言い始めてこうなったらしい。


 も、もちろん誠二はその手の相手に偏見はない。

 というか、ティアくらいに可愛くてメイド服が似合っているのならば、ありだと思う。

 が……。

 最初にその話を聞いた誠二は驚いたし、まじで!? と問いかけたりもした。ちょっと恥ずかしそうに顔を背けて、ほ、本当です……という様もとても可愛かったのだけど。一瞬ときめいた自分にがっくりきたことは事実だった。


 存在を認めることは出来ても、受け入れられるとは限らない。

 その話を聞かされたときは、ショックすぎて一晩寝込んだくらいだった。

 まあ、翌朝姉であるティナの方に笑顔を向けられて持ち直したのだから、いささか節操なしなのかもしれないが。

 そんな経緯はあるものの、ティアは特別気にした様子はなく、勇者さまと誠二を慕ってくれていた。可愛いメイドさんである。


「変な夢を見ていたようだ。魔王を倒した……所はいいけど、その後、呪いをかけられてさ。サーシャのやつのビキニアーマーを着たおっさんが、野太い声で、あたしがサーシャなのぉーとか胸元でこう、両手を組んで上目使いとかしてくるんだよ」

「こう、ですか?」

 ティアが華奢な体で、きゅっと小さい手を胸元で合わせて上目使い。

 ああ、ほんと、マジでなんでこいつ、男なんだろう。

 メイド服も違和感なく着こなしているし、露出されてる二の腕なんてほっそりしていて、簡単に折れてしまいそうだ。


「そう。でもそれをがちむちのおっさんがやってんだよ。おまえなら似合うけどな」

「サーシャ様もお似合いになるかとは思いますが……勇者さま。やはり魔王討伐でお疲れなのでは?」

「もう大丈夫だって。で。ティナはどうしてるんだ?」

 ゆっくりとベッドで寝たから大丈夫だ、とティアの頭を軽くなでてやると、目を細めてそれを受け入れてくれる。

 うん。柔らかい髪の感触がとても懐かしい。


「姉は、今でかけています。パーティーの準備に大忙しなんですよ」

 時間交代で勇者さまのご様子を見ていたんです、とティアはもじもじしながら顔を赤くしている。

 ホント。可愛い。まるで女の子みたいな、いいや女の子以上の照れかただ。


「でも、僕がちょっとうきうきしたのが伝わってるかもしれません。姉もじきにこちらに来ると思います」

 ティアとティナも二人で一つの加護を持っている。それがこの『共振』だ。


 しっかりと魔石の補助なんてものを使えば明確に言葉を伝えることもできるらしい。

 けれど常日頃から感情が高ぶったりすると、お互いにそれが伝わってしまうのだそうで、姉様には隠し事ができないんですよ、とティアは以前ちょっと困ったように微笑んでいたことがあった。


「あ、姉様がこちらに来るようです。はしゃいじゃって、もう。姉様ったら久しぶりだからって喜び過ぎです」

 ふふ、とティアが嬉しそうに頬を緩ませた。

 この二人はとても仲がよくて見ているとほっこりしてしまう。


 そして。

 久しぶりのティナとの再会に少し胸が高鳴った。

 やっぱりメイドさんの可愛さと言ったら反則級だろう。

 本人達の魅力ももちろんのこと、メイド服というのが破壊力が高いと思う。

 だが。


「勇者さま! おかえりなさいませ! ティナは誠二さまのお帰りをお待ち申し上げておりました」

「ふぁっ?」

 変な声がでた。

 部屋の入り口から、足音一つ立てずに優雅に入ってきたメイド服。

 それは、いいのだが。その中身はティナとは似ても似つかない、ごつマッチョなおっさん3だったのだ。


 まて。ちょ、ちょいまて。そりゃー、いかつい男がメイド服をきて戦う漫画作品があるのは知ってる。

 読んだ。割と楽しかったけど、実際目の前で見ると、そのインパクトたるや。

 な ん た る、破 壊 力。


 上半身だけ起こしていた体がぐらりと揺れてベッドに倒れ込んでしまった。

 ビキニアーマーよりはたしかにマシだ。マシだけど、ティナが着ているメイド服は二の腕が思い切り出ているタイプのもので、あのほっそりしたメイド服を押し破るように、鋼の肉体がごぱぁと展開されているのだ。

 よくはじけ飛ばないものだと不思議になるほどである。


「姉様っ」

「え……えええ。なにを言ってんだよ、ティア。これが、ティナなわけ……」

 まだティナだと言い張るおっさんは、じわりと瞳に涙を浮かべながら、わしりとこちらの手を握ってきた。

 大きな手は、まだ成長途中の誠二の手をまるまる包み込んでしまうほどだった。

 おまけに、指毛。指の付け根付近に生えるあれが、もさもさしていた。まず女の子には生えていなさそうな物体だ。

 しかもじっとり湿っているように思えるのはなぜなのだろうか。


「はいっ。あなた様のティナです。一緒に魔王に立ち向かうことのできるサーシャ様たちとは違って、待っているだけの身の上。この半年というもの、無事にお帰りいただけるのを心より祈っておりました」

 そのおっさんは、サーシャもどきと同じように、上目使いでうるんだ瞳を誠二に向けた。

 ……ティナはショートカットだと書いたけれど、目の前のおっさんは、思い切り刈り上げられた五分刈りである。髪の色は同じでも印象はまったくもって別物だった。


 ティアと並んでいるとその違いはあきらかだ。

 ティアは、相変わらずものすごく華奢で可愛い。男でもこんなに可愛いやつはいるんだなってくらいの小柄さ。

 きっと腕を回せばすっぽりと収まってしまうだろう。

 それにくらべて、隣のおっさんはどうだろうか。

 やはりこっちも筋肉マッチョだ。二の腕とかメイド服を今にも引き裂いてしまいそうなそのボリューム。

 絶対領域は筋肉質で、きっと爆発的な瞬発力で走り出すことだって可能だろう。

 別に、世の中のマッチョな方を否定するつもりは毛頭なくとも、何事にもミスマッチというものはある。生理的な嫌悪感というものは簡単に消せるものではないのだ。


「おまえ……誰だ」

「何を言ってるんですか? 姉様ですよ?」

「姉様って……この筋肉マッチョが?」

「筋肉マッチョって……何をおっしゃって……」

 今まで手を握っていたおっさんは、熱でもあるのではないかとでも思ったのか、こちらのおでこに大きな手を伸ばしてきた。以前ティナは訓練で疲れて体調が悪そうにしている誠二によくこうやっておでこを触っては、心配そうな顔をしてきたものだ。

 けれど、今目の前にいるのは。

 メイド服姿のごついおっさんが流麗な仕草で迫ってくる図は、違和感以前に背筋を恐怖が襲うレベルだ。


「近寄るなっ」

 その手を軽くはじく。ぱちんという音とともに、そのおっさんは驚愕したような顔をして、その後しょぼんと悲しそうに視線を伏せた。


「姉様……勇者さまはまだお疲れのようです。幸い僕のことはちゃんとわかってくださいますから、なんとか宥めてみます」

 ね。しょんぼりするのは、やれることをやってからにしましょう、とティアは、そのおっさんの背中を優しくぽふぽふと叩いていた。

 そして、メイド服のおっさんは背中を丸めて、部屋をでていく。

 少し罪悪感のようなものは沸いたものの、そんなことよりも困惑の方が大きかった。


「勇者さま。サーシャさまと、うちの姉が、ごついおっさんに見える、とのことですが……」

「マレイは大丈夫だった。ミリィはおっさんだった」

「ああ。マレイさまですか……」

 ふと、何かを考えるような仕草をティアが浮かべる。

 

「他は大丈夫ですか? 体力も魔力も回復していますか?」

「ああ。問題ないと思う」

 手を軽くグーパーしてみたり、体を伸ばしてみたりしても痛むところはまったくない。

 可愛い子がおっさんに見える以外は特に体におかしいところはない。


「なら町の様子を見てみてください。遠視、使えましたよね」

「わかった」

 呪いが三人。こんなにも続いてしまうとなれば、さらにそれ以外がどうなっているのかを確認しておく必要はある。

 ティアの提案は確かに必要なことだと誠二は思った。


「遠視!」

 街の方に視線を向けてスキルを展開。

 遠くの景色を見るこの力は、今まで数々の場面で誠二を救ってくれた。

 近づいてくるモンスターを検知したり、時には、索敵をした結果、むふふなラッキースケベというものも提供してくれたスキルだ。

 けれど。

 このときほどこのスキルを呪ったことは無かった。


「おい、どういうことだ? いくらなんでも街の様子がおかしいだろう」

「おかしいところは……そんなに無いはずです。そりゃ魔王が退治されましたから、戦いに出ていた男の人達が街に戻ってきたっていうのもありますが……」

 遠視のショックで揺れる体を、ティアは抱きかかえてくれた。 

 ああ、可愛い。おまけにすごく良い匂いがした。


 それに比べて、街の景色はどうだ。

「おっさん……と、子供? いや、ちっちゃい女の子はいるのか」


 遠視で見えた光景はどこもはっきりと異常だった。

 街の中はほとんどが男だらけだった。

 しかも四割程度は、女性の衣類を身にまとったおっさんなのである。

 三人というレベルではなかった。

 

 この世界はどこかおかしくなってしまったと、誠二は身体を震わせた。

 まるで悪夢のような光景が広がっていたのだ。


町の光景に愕然とするせーじどのでした。

ちなみに、男の娘がウェルカムじゃない男子主人公とか、私が手がける作品の中だと希有であります!

呪われてあれ!


まぁー見た目って大事だぁね、というわけで。

次話は明日の朝予定でございます。

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