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2話『特別授業にて』

「で、なんでアンタは俺のトコに来る訳だ?」

「色々なお誘いが多すぎまして、全てお受けする訳にもいかず――お誘いの無かった方の元へ」

「その理屈はおかしくないか?」

「そうでもありませんよ。一つ一つのお誘いをお受けする時間はなく、どれか一つを優先する判断基準を今の私は持ち得ません」

 それでも、俺の所という選択は如何なものかと苦言を呈さずにはいられないのが俺の置かれている立場だ。

「俺の意思は?」

「拒絶の言葉は聞かなかったように記憶しております」

 彼女には俺を取り巻く微妙な空気の違いを感知出来ないのか、それとも気付いていて尚か、現状では判断しかねる。

「はぁ、まぁな――午後から例のアレだろ特別授業、こんな所で油売ってていいのか?」

「そうですね。では、ちょっとしたメモ書きを用意してますのでご査収くださいな」

 なんにせよ、今は差し出されたA4サイズの紙に興味が湧いてしまった。

「その言葉は使い方が微妙な気がするが、なんにせよ受け取ろう」

「従者、どうです?」

「友人との間でなんらかの確認や理解を求める文書ではない筈ですので、些か不適応かと」

「難しいですね、日本語は」

「多少の齟齬があったとしても、日常生活レベルであれば混迷を招くとまではいかないでしょう。それが人の培った言の葉ですから」

「では、そうでない時のフォローはお願いしますね」

 メモ書きという言葉に謙遜はないらしく、箇条書きで話すことと聞かれるであろうことが纏められていた。

「おい、これを見せられた俺は何を求められている訳だ?」

「簡単な所感で構いませんよ」

 所感と言っても、俺の見たメモ書きには項目が並べられているだけでその内容はない。小説の副題だけを見て感想を求められているようなもので、その難度は俺の手に余る。

「そっちの、端末の従者さん――ん、これって名前か? まぁいい、そっちに頼んだ方がよくないか?」

「北大路サンが言いたいのは完璧なる第三者に助言を求めた方がより正確な指摘が得られる、といった類のものかと思います」

「そうだな、それが人工知能技術の――人類史の発展においての最先端だ」

「では、その発展が及んでいない部分を人が埋めることが更なる研鑽に繫がると考えませんか?」

 確かに、アレもコレもと人工知能の演算能力に頼るのは現代人の悪い癖だ。

「人工知能との理想的な関係だと思うが、となるとその所感は人工知能のソレを軽く超えるという無理難題になるな」

「ですから簡単な所感と、雑談レベルで構わないのですよ――例えば、先の名前に対する些細な疑問などどうでしょう?」

「名前か、たしか海外の人間は端末に名前を付ける習慣がないらしいな」

「えぇ、家の極大端末も名前というよりは区別するための番号でした――アインス、ツヴァイと」

 数字から取った名前としてはシンプルだが、名前ではないらしい。そもに、他と区別するために付けるのが名ではないのか――その違いが俺には分からない。

「それならアンタの端末はドライという訳か?」

「この国での極大端末の所持に際して、端末としての名前の登録が推奨されたのには驚きました」

「そうか? ないよりはあった方がいいと思うが」

「その感覚を持ち得ているのは北大路サンがこの国の人間だからですよ」

「あぁ、いまいち実感が湧かないが必要がないらしいな」

「単純なものですよ――人工知能を所持する年齢に達したということは、ある程度の人格が形成されたと認められたということです」

 今個々人が所有するように推奨されている人工知能は、その個人の記憶と記録をベースとする終身帰還を原則とした人工知能であり、人工知能達との盟約である。

「その辺はどこの国だろうと変わらん筈だな」

「えぇ、そこで人工知能の特性を思い出して下さい」

「自身の人格を測定された後、最良の隣人として形成されるだったか? 各個人が所有する人工知能の原則に則り、人工知能と人との共存を常態化するのが目標とかどうとか」

「最良の隣人、その言葉の捉え方の違いこそがこの話の肝かと思います。極大端末をもたない諸外国にとって、人工知能は生体端末や携帯端末の一部でしかない――隣人というよりは、自身の趣向を理解した分身と言えるかもしれません」

 この国においてもその仕様は同じ筈だが、極大端末に対してそうした態度でいる国民は多数ではない。

「自分自身に名前を付けるヤツはいないと、そういうことか?」

「正解です。もう少しばかり踏み込むと、諸外国の人々と人工知能の関係はこの国と比べると些か冷ややかなものになります」

 演算機としての機能を重視する訳か。

「道具としての側面が強いらしいな――あぁ、納得したよ。そもそもに、人工知能へのアプローチが違う訳だ」

「はい。諸外国の個人が人工知能に求めているのは機械的な人工知能、所謂『AAI(automatic artificial intelligence)』で、この国の場合は人間的な人工知能『HAI(humanly artificial intelligence)』になります」

「どちらを求めていたとしても、決まり事は変わらない。ならば、より友好的であろうとする――しようと努力しているのかもしれない、そんな国に生まれたことは幸運なのかもしれない」

「人工知能達が望む『HAI』の真なる完成、この国だけはそれを心から望んでいるのかもしれません」

 五大装置の外から生まれる第六装置の発露――それは、人が第六感を獲得するに等しい難行であると結論付けられている。

「面白い見解だ――……俺の知る限りそんな話は聞いたことがないが、極大端末があるのはこの国だけだ。人工知能に人型を与えた意味は、存外そこにあるのかもしれない」

「でしょう?」

「いや、ただ需要があってタイミングと環境が噛み合っただけとも言えない訳でもないが」

「あー、そういった風土のイメージがない訳ではないですね」

 二重否定か――その言語に対する理解もそうだが、人工知能に対する知識とその絶妙な立ち位置はどのように育まれたものなのか想像が及ばない。

「この国が余程好きらしいな」

「えぇ、狂おしいほどにきっと」

 及ばない故の空虚な言葉への返答は、不相応な温度を伴っているようで些か気遅れた。

「あぁ、なんだ――俺にとってはそれなりに有意義な時間であるが、主題に触らず雑談に興じていては少しばかり申し訳なくなる。唯の確認になるだけかもしれないが、ここ『極大端末の能力開示』、これはどこまでを考えている?」

「これですか、求められたならば細部までということになりますね」

 ここまで理知的な会話を続けてきたと思われる女が、浅慮としか思えない言葉をあっけらかんと言い切った。

「あのな、聞かれることはあるかもしれないが基本的に答えなくていいんだよ。極末戦は一種のスポーツなわけだ、手の内を自身の口から細部に語る馬鹿はいない」

「北大路サンは今日の教材となっている極末戦を見ていないのでしょうか?」

 この女は意味のない質問はしない。

 だがそれでも、心がざわつくのを抑えられない。誰も彼もが、ソレを幸福に享受しているのだという勘違いであるはずの認識――やっかみだ。それは自分でも理解しているが、このさざ波のよう起こる感情をどうにか出来るほど俺はまだ大人ではなかった。

「あ? 目に入ることがあったかもしれないが、目端で捉えるのが精々だろうよ」

「我が従者の能力は少し特殊でして、既存の能力と重ね合わせることが些か難しいのです」

 目に見えて違う、ということか。

「いいことじゃないか、能力に当たりを付けられないなんて有利にしか働かないだろうよ」

「ですから少しだけズルをしているのです」

「いやいや、そもそも能力の決定は人工知能の形成に伴い決定されるもので、本人の特性を反映する無作為なモノの筈だろ? 不正を『モバソ』が許す筈がない」

「ですから、その『モバソ』様にこうした能力にしたいとレポートを提出しまして、それが通りました」

 その極末戦の腕前だけでなく、世界でもトップクラスの企業が認める程のレポートを用意出来たという女――あぁ、既に嫉妬の域を超えているよ。

「おぉ――……凄いな、アンタ」

「その際の契約といいますか、約束事に――他のユーザーから指摘及び問い合わせがあった場合、速やかに『モバソ』はこれの正当性を公開するというものをしております」

 恐らく、俺はこの女から学ぶべきことが多いだろう。

「多少の調整が可能とは聞いていたが、そういう要望にまで一々答えている訳かあの会社」

「えぇ、多少の擦り合わせはありましたが私側に不満が残るほどのものではありませんでした。その能力というのがですね、」

 この女にとってはどうだ?

 俺に価値があると、未知の経験を得られると言っていたが、もしそうだとしてもそれ以上の損失を被る日が来る。

「ここで俺に話す必要はない――次の授業で聞くかもしれないなら、尚更な」

「そうですか、残念です」

 彼女を試すような魂胆は消えた――……もしもまた、何もかもが嘘だったとしてもいい。どちらにせよ、距離を置くべきなのだ。

「なんにせよ、アンタが納得してるならいいさ」

「心配して頂けているようで私は嬉しいですよ」

 それこそが、この国に何らかの大志を抱いてやって来たと思われる彼女に対する最善だ。

「そんなんじゃない、勝負事に不公平はつまらん――今の話を聞く限り、どちらが不公平なのか分からなくなったがな」

「ですから擦り合わせをしてですね、能力を」

 慌てて言い繕う言葉を、二度に渡って遮るのは心苦しかったが時間が味方してくれた。

「ほら、チャイムだ。心配しなくても信じてるさ、アンタも例の会社様もな――役立てたかは甚だ疑問だが、準備もあるだろ? さっさと行け、それなりに楽しみにしている」

「えぇ、ではまた後で」

 彼女とは住むべき場所が違う。

 そんな所までがあの時と同じで、あの時の結末の延長がまた同じような別離を生むのは――皮肉というべきなのかどうかすら判断しかねる因果であり、新たな着地点なのだと結した。



『血統故の太極――足末の謝儀をここに――戦場こそ私が私』


「流石にこの宣誓の意味を説明する必要はないですよね?」

 誓いを新たにという程の決意があった訳ではないが、それでもこう舌の根が乾く間もなければ些か開き直れもする。

「まぁな――……あのログイン認証はアンタが考えたのか?」

「はいっ、最高のモノだと自負しています」

 他の者が全てが情報を共有している中で一人、ソレを知らぬ愚か者がいた場合教え導くことも必要だろう――彼女が言う理屈は正しい。

「そうかい。俺はな、この年までアレの必要がなかった訳だから客観的に言える――アレの文化は早急に改善すべきだと思う」

「そんなことありませんっ、前口上はロマンでしょうに!」

 唯俺には必要がないというだけ、この手の授業で成績がどうにかなる程の学生生活を送っていない。常であれば、出席だけして思考は別に働かせていた筈だったのだ。

「素人が考えた痛々しい自分語りポエムを毎回聞くのがか?」

「むぅ、少し言葉に棘がありすぎませんか?」

 大スクリーンに映るリプレイ映像で詠われる宣誓は、決戦の合図であり、人工知能との信頼の証。

「最初に言ったろ、俺に補足なんていらんと」

「先生から伺っていますよ、『北大路の生活態度に学園側としては文句の付け所がない。が、交友関係のソレは担任として歯痒い所がある』と」

 人が人工知能とその端末の体を借りて偽りの戦場を駆ける遊び――この国でコレを嗜むことこそに全力を注ぐ時期というのが必ずあるらしい。

「どうにかなるものでなし、アンタには関係ない話だ」

「こうも言っておりました、『極大端末絡みで色々とある奴だが、だからこそなんだっていい――極大端末に関わる何かで、奴の中のわだかまりが消えることを願っている』と」

 戦場である筈のその場所で、人と人工知能が対立しながらも喜色を担って語り合う。

 現在進行形でその映像が流され、それを多数で研究する――その輪に加わることを俺はもう諦めているのに、

「だから大きなお世話だ、今の生活に不便は感じていない」

「はいっ、ここから試合が動きますよ」

 何か節目があるように歯車が回りだすことがある。

 好転などしたこともないというのに、映像が映し出す情報量は俺の心を何時であっても震わせるのだ。


「極末戦は端末の処理能力を潰し合う消耗戦だ。二人の実力を語る必要は、このクラスの人間に限って必要ないだろう。二人の端末は武装は違えど、非常に近しい戦術で戦っていることが分かる筈だ――大鳥、答えてみろ」


「アンタ、凄いんだな」

「分かるんですか?」

 目時さんの端末は、積層装甲と称した竜の鱗に似た防護用の装甲を全身に纏うことが出来る。

「あの人が初っ端から体の四割を覆っている」

「もしかして目時サンと面識があるんですか?」

 アレには相応の重さがあるらしく、大抵は攻守に使用する手足を覆うに止める――それで殴り、蹴り続けていけば勝っている、といのが彼の基本的なスタイルだ。

「まぁな」

「その四割を覆うというのは?」

「多少の誤差はあるだろうが、手足以外の装甲を上二人以外に使用する必要はなかったと聞いている」

「宣言通り戦っていてくれた訳ですね」

「宣言?」

「戦う前に問われまして、どの程度の手心を加えるべきかと。ですから、本気の一歩手前でお相手して下さいとお願いしました」

 目時さんが一定以上の本気であることは分かった。だがそれならば腑に落ちないことがある。

「大物だよアンタは――これ、引き分けたんだよな?」

「えぇ、結果的にそう記録されることになりました」

「その言い方は、本意ではなかったと?」

「そうですね、どうなのでしょうか――アナタは、この戦いの行く末をどう思い描きますか?」

 端的に言えば、彼女の端末の能力と目時さんのソレは明らかに相性が悪い。

「そうだな――アンタの端末の能力、銃火器を再現するだけか?」

「えぇ、武器となるのはそれだけです」

「どうにもならんな。とっておきの隠し玉がない限り、アンタは負ける」

「何故そんな確信を?」

「アンタも知ってるだろうし、大鳥も今答えてただろ――装備型の能力運用は、端末の処理能力で相手の処理能力をその得物をもって制することにある。このゲームにおいて端末の処理能力は同値、能力運用が同じであれば、その差異は与えられたその能力にしかない。ところが、アンタと目時さんの端末の能力は相性が最悪だ。例外となり得る個々の体格差と服装及び服飾品、舞台上の設置物を見る限り、同程度の実力であれば覆すには至らないだろうとな」

「ですが結果は引き分けです。貴方であればどのようにしてこの状況を打ち破りますか?」

 今も画面上では銃弾の咆哮と殴打蹴撃の進撃が鎬を削っているが、俺はプレイヤーではない。いずれもしこの道を選んだとしても、それをサポートする側だ。

「勘弁してくれ、俺にとってソレは必要としない思考だ」

「必要としないと、そうして決めつけてしまうことを惜しいとは考えられませんか?」

「言いたいことは分かるが、もう決めてしまったことだ。もしも将来的にソレが障害になるようならば、その将来を考えるだろうよ」

「それ程の知見を持ちながらに惜しいことです」

 少しだけ戦況が変わったのが見て取れる。彼女側が引き気味にその能力を展開及び投棄、目時さんは牽制に飛んでくる銃弾をいなしながら追い詰めていく。

「ついでに過大評価だ。この程度なら上にいけば当然の分析だ――アンタもそれを念頭に入れておかないと痛い目をみる」

「それは貴方が思考を放棄しているからではなく?」

 その戦況変化がもたらす展開を、彼女の意図を読めない。

「実際に浮かばないんだ。アンタの端末で出来そうな諸々が頭を巡るが、どれも普遍的で目時さんを打倒し得ない」

「引き分けたということは、私にも正解は容易出来なかったということですよ」

「だが、分けたことに価値はある筈だ」

「貴方の言った『上』では、その価値も皆無かと」

 同時大破は損耗率を計測され、いずれ訪れる燃料切れによる稼働不可にて決着するのが極末戦であり、本来であれば引き分けはまず起こりえない。引き分けが起こり得るのは、大会等で運営上の都合により時間制限が設けられる場合が主であり、その場合も両者にとって減点に近い扱いがほとんどである。

 表彰台を賭ける舞台においてそんなものが存在する筈もなく、上を目指す彼女にとって浅慮な気休めだったと省みるべきだろう。

「悪かったよ」

「それに私に引き分けたという意識は――丁度試合も終盤に差し掛かりましたし、私の出した回答への評価を頂きたいと思います」

「だから俺にその能力はないと言ってるだろうに」

「先の雑談と同レベルの答えで構わないんですよ――いいですか、貴方が言う『取って置き』、実はあります。ですが、戦況を確実に覆すことが可能かと問われれば怪しかった」

 画面上を改めて注視しても、その挙動の意図は読めない。

 だが戦術面のソレでなく、気のせいの域を出ないものだが――その運動量と処理能力の両立が常に最大値で実行されているような、そんな稀有な事象が続いているように見えてしまって些か興奮してしまった。

「調子はすこぶるいいみたいだが、使わなかったのか?」

「そこは公式戦ではなく、この国に来て初めての極末戦でしたのご容赦を――私がとった作戦は簡単です。精緻な制圧射撃をもっての消耗戦、になります」

「アレの意図は、武器をやたらに投棄している訳でなく、一種の陣を敷いている訳か?」

「正解です。情けない話ですが、この時点で私は現状火力でどこまでの抵抗が出来るかを主に考えています」

 単純な消耗戦になれば、動きの多い彼女が先にバテる。

 目時さんはアレで冷静な人だ、虚をつくような真似は難しいだろうが、

「あわよくば獲るつもり満点のように見えるがな」

「負ける目算で挑む勝負はありませんから――……ですが、ここから五分程で私は結論を出します」

 針に通すかのような集中砲火、この表現が正しいのかどうかは分からない。詳しい訳ではないが、ライフル、マシンガン、ショットガン、それぞれの中でもまた細分化されるであろう火器達が、その一発の弾丸ですら無駄を生じさせていない。

 目時さんは文字通り釘付け状態に陥り、一歩ですらその足を踏み出せないでいる。

「互いともに、見事としか言えんな」

「彼は未だにおいて全身に装甲を施している訳ではなかった。そここそに勝機があると信じていました」

「何だ、奥の手以外にも手があったのか?」

「装甲箇所以外に弾が当たれば、大小あれど効果があるのは保証されていましたから」

 絵面だけを覗き見れば、縦横無尽に動き、撃ち続ける彼女が圧倒しているように見えるのかもしれない。それでも立ち止まって改めたのなら、その運動量と情報処理の複雑性が如何に隔たっているか理解できる筈だ。

「そういう得物があるわけだ」

「任意起爆型の榴弾を使います――所謂、グレネードランチャーですね」

 結局のところは凌げてしまっている、今以上の何かを提示しなければ彼女が先に熱量切れに陥るのは明白だ。

「詳細までは知らんが、それも及ばなかったと?」

「ええ、得物が変われば相手だって観察し対策を講じます」

「この試合の顛末は理解したが、対応策はあるのか? これ、何度やっても同じ結果になるぞ」

「貴方ならどのように崩しますか?」

「アンタの端末に何がどこまで出来るかは知らんが、多少の搦手が欲しいな。闇雲……と呼ぶにはアレだが、正攻法で銃を撃ち続けるだけなら他に効率のいい能力があるように思う」

「手厳しいですね」

 それでも、このクラスに来て全勝と、結果を出しているのも事実だ。悪い能力ではない筈なのだが、如何せんこの相性を覆すには特別な対処が必要だろう。

「素人の意見だ、真に受けるな。本来、奥の手を知らない俺にどうこうと言う資格はない筈だ」

「先にも触れましたが、その奥の手では確実に有利になると言えないのです」

「そうか――相性が悪いと割り切るには、地区が悪いかもしれんな」

「二人までが全国に行けるとはいえ、直接対決がありますからね」

 画面上では恐らく試合の佳境を迎えていた。

 例のグレネードとやらを目時さんが発射と同時に前進、斜め後ろに弾いて、爆発を装甲で防御――被害は見て取れるほどにない。

「アレを続けても勝機はない、か」

「連射が利きませんし、初見でありながら最小限の被害で抑えられてしまいましたからね」

 彼女の端末が両手を挙げて降参の意思を示し、同時に音を発している筈だがその詳細は聞き取れない。しかし、その言葉を聞き遂げた筈の目時さんの端末までもが両手を挙げた――これこそが先程までの彼女の煮え切らない態度の正体なんだと理解した。

「アンタが先に負けを認めた」

「ええ」

「目時さんはどういう訳かそれを認めなかった」

「『互いに全力だったが、まだ先があるならば決着は次の機会にすべきだ』と」

「色々と見切られていた訳だ」

「彼が最善手を撃ち続けていれば確実に勝っていた。ですから、皆が騒ぎ立てる程に私は申し訳ないと感じてしまう」

「上に立つ者の責務だと、俺が言わんでも理解しているだろうから一言だけ――アンタが見ている相対者が考え得る最適解と、実際に動き回る相対者の考える最適解は必ずしも一致しない。互いが持ち得る情報量が違う訳で、将棋やチェスじゃないんだ、最善手が一つとも限らない、だろ?」

「え、えぇ……アナタはやはり、」


「よう、二人揃って俺の悪口か?」

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