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異世界ロボット大戦争 ~やや高尚、巨乳ヒロイン、大物のラスボスを添えて~  作者: ロボットガイジ
一章はファンタジーな異世界に転移した主人公が戦争に参加することになる
7/8

行軍日和

さて、第二回戦は新機体の調整も兼ねてのテストである。

ジャミラ風の機体は腕の可動範囲が狭く、正面より上の標的は狙えない。

一見して不利に思えるが、そのぶん固定砲台としての機能が強化されており、動く目標に対する殲滅力が他のものよりも優れているとスペック票には書いてあった。


スタート位置につき、シェイラ先生の合図で戦闘がはじまる。

先の戦いの失態は繰り返さない。

無人機をロックオンし、ハンドル右のレバーをあげる。

76mm半徹甲弾が無人機に命中、胴体で真っ二つに切れ後方に吹き飛ぶ。

物凄い威力だ。

前の機体と較べて連射速度は格段に落ちるけれど、それを補って余りある攻撃力を備えている。


だがこれではコックピットも撃ち抜いてしまうのではないか?

無残に横たわる無人機を見て、ブルッと身震いをする。

こんな弾を受けて無事な機体などあるものか。


「なに!? 今の。すっごい強いんだけど!」

シルヴィは大興奮だ。


たしかに強い。

やりすぎな感は否めないが。


「機体の回収が終わり次第、Y社の機体と戦ってもらいます。その場で待機していてください」

シェイラ先生が言う。


「これがあれば百人力、いや千人力よ。見た? 相手は真っ二つよ」


続いてY社の機体が現れる。

映画第9地区に出てきたようなコテコテのメカだ。

スタートの合図と同時に魔弾を叩き込む。


出力は並程度だったけれど、Y社のロボットは上半身が蒸発。

魔弾はそのまま直進し、五十メートルほど行ったところで落下、グラウンドにクレーターが出来上がった。

ウルトラマンの世界の威力だな、と僕は思った。

最初の機体の一回り大きいサイズのロボットでこれなのだ。

前に見た四階サイズのヤツだとどのくらいの攻撃なのだろう。

下手すると今この場所から敵国の基地を攻撃できる射程と威力を持っているかもしれない。


計二十体を葬るのにかかった時間は四時間弱で、そのほとんどが壊れた機体を回収する作業だった。

僕らは新たなロボットが出てくるたび一撃で吹き飛ばし、そのたびに企業から来ている担当者の沈んだ顔を見なければならなかった。

ともかく、これで僕が実戦に耐えうる人物だと証明できたと思う。

僕は天才だ。


ロボットを降りると、シェイラ先生にあとの授業はすべて座学だと告げられた。

理由はいくつかあって、まずひとつが今日用意した機体以上のものはもう存在しないため。

ふたつ目が、実際の任務を行うにあたって知っておかなければならない決まりを覚えるため。

軍隊のルールなどだ。

最後に、今日からシルヴィが魔力を蓄える期間に入るからだと先生は言う。


シルヴィだけではない。

今度の連隊に参加する人間はすべて、今の時期休養をとっているという。

彼女が僕と一緒に戦闘訓練をしてくれていたのは、例外中の例外だったらしい。

魔力がゼロの僕は申し訳なく思った。


「シェイラ先生、魔力を溜めるにはどうすればいいんですか?」

「恩智英くんはいいのよ。あなたは操縦にだけ集中していればいいの」

「でも、ちょっと気になるかなって」

「それはね、حلمة الثدي الثدي شرجي」


何語だ? この国の専門用語だろうか。


「僕には難しそうですね。少しでもシルヴィの助けになればと思ったんですが」

「ハッハッハ! シルヴィエさんのことなら心配いらないよ! なんたって彼女は我が校が誇るエースパイロットだからね。魔力保有量も随一だ。それに、今日は君にプレゼントを持ってきたんだ」


いつの間にか傍にきていたA.I.guy=G先生が、紙袋に入った黒い箱を取り出す。


「なんですか、これ」

「バッテリーだよ。この学校の生徒の魔力が溜めてある」


「しかしA.I.guy=G先生、これは……」

シェイラ先生が怪訝そうに言う。


「恩智英くん、これはいざというときに学校を守るロボットに装着するはずだったバッテリーだ。まぁ、今度の戦争はフツーに負けそうだったからね! でも、君が現れて事情が変わった。生徒の思いを君に託したい」


「わかりました。みんなの思い、僕が預かります」


「模倣ロボットがぶっ続けで半年行軍できるだけの魔力が入ってる」


バッテリーを受け取って、ロボットに戻る。

行軍にはこの機体で参加する予定のため、今日は乗ったまま城に帰るのだ。

機内で待っていたシルヴィが紙袋に気づいて言う。


「それってもしかしてバッテリー?」

「うん、A.I.guy=G先生が託してくれた」

「大事に使わなきゃね」


いつもは人力車で通っていた道を自分の操縦で帰るというのは妙な気分だ。

道中できれいに整列して進むロボットの群れとすれ違った。


「たぶん今度の連隊に加わる人たちだわ」とシルヴィは言った。

「この先の駐屯地で出発まで待機するのね」


四日後には僕もあの列に加わっているということか。

夕日に照らされた彼らの機体はピカピカ光っていて、街にいるどんなロボットよりも高価そうに見えた。

形は様々で、スラッとした人型の機体や、クラタスのようなゴツいマシンもある。

どれもこれも手入れが行き届いている。


ロボットの行列の周りに立っている人々が小さな旗を振っている。

これから戦争に行く兵士を鼓舞しているのだ。

徐々に戦争の気配が近くなってきている。


翌日からの座学の内容は授業というより作戦概要の説明に近かった。

教室にいるのは僕だけで、説明をするのはシェイラ先生だ。

僕たちの連隊は国境に向けて直進して、既に前線から退きこちらに向かって後退してきている部隊と合流、そのまま前線に向かう。

前線へと向かう途中で野営し、斥候が出される。

シルヴィが予想した通りだった。

無論、その場の状況で作戦は変化する。

地図を渡されて、暗記しておくようにと言われた。

現場で自分がどこにいるのかわからないと話にならないのだという。


要所要所に印があって、リッベントロップ語でなにか書かれている。

あとで誰かに訳してもらわないと。


「前線の部隊からの報告によると、敵は国境線の向こう側、つまり相手国にある山の麓に砲兵を集結させているようよ。防御に徹してるってわけね」


そんなことをこの場で喋ってもいいのだろうか。

それに戦略的なことを言われても僕にはさっぱりわからない。


「あなたの仕事は国境線を越えてその山に登ること。そして砲兵を撃滅、そのタイミングで連隊が総攻撃を仕掛けるから、遊撃隊を指揮して山側から挟み撃ちをしてほしいの」

「ちょっと待ってください。作戦指令書にはそこまで細かいことは書いてませんでしたよ。シェイラ先生の権限で決められるんですか?」

「あら、指令書に署名があったの見なかった? 私はシェイラ大佐、あなたが従軍する軽騎兵連隊の連隊長です」


そういえば前にシルヴィがそんなことを言っていた。

けれどもまさか隊長をしている人が士官学校の教師をしているとは思わなかった。

いや、逆かもしれない。

人手不足だからこそ、士官学校の教師が連隊長に任命されたのかも。


なんにせよ寝耳に水だ。

シェイラ先生が軽騎兵連隊長? まだ二十代なのに? 階級は大佐?

僕は大尉だった。大佐と大尉の違いとは? どのくらい凄い?

誰か教えてくれえいよう。


汗がダラダラ吹き出てくる。

僕は連隊長が乗ったロボットのケツを蹴りまくった。

僕は連隊長が乗ったロボットをスクラップにした。


「あの、今までどうもすみませんでした。数々の非礼をお許しください、連隊長さま」


机に手をついて深々と頭を下げる。


「気にしなくていいのよ、恩智英大尉」


しかしなぜ急に階級つきで……?

立場の違いを自覚しろと……?

ひょっとして怒っている……?


「あ、ありがとうございます、シェイラ大佐」

「それからもうひとつ。無人機のテストをしたときに使ってた機体、あれはナシね。出発までに倉庫から別のを見繕ってきてちょうだい。なるべく機動性が高いマシンでお願いね。あれじゃ山登りはできないでしょ」


たしかにジャミラで山登りはきつい。

その日の帰り際、倉庫に寄ってごく普通のシルエットのロボットを選んだ。

シルヴィがいなければ起動できないので、テストは無しで城に送ってもらうことになった。


そして出発当日、駐屯地に整列した僕らは体育祭の始業式のようにエリク元帥の挨拶を聞き、連隊長のスピーチを聞き、スポーツマンシップにのっとった戦をしましょうという宣誓をし、いざ出陣ということに相成った。


前々から思っていたことではあるが、どうにもこの世界の戦争はスポーツの感が強い。

シェイラ大佐の作戦指令にしたって、強豪校を相手に部室で作戦会議をする、みたいな雰囲気だった。

もしこれが本物の戦(第二次世界大戦やベトナム戦争、アウステルリッツの戦いに小牧・長久手の戦い)のようだったら、僕も怖気づいて早々に逃げ出していたかもしれない。

ところがこの世界の戦争たるや戦死者ゼロ(シルヴィやリヴォーフ公爵はそうは言わなかったが)でロボットオリンピックをやっているような感じだ。


Anyway、行軍の始まりである。

小学生のとき遠足嫌いだった僕が唯一楽しめたのが、目的地に向かって歩いている時間だった。

黙々と足を動かして進むという健全さ!


『バラショフのたずさえて帰った手紙は、アレクサンドル宛のナポレオンの最後の手紙だった。話は細かい点まですべて、ロシア皇帝に伝えられた。そして戦争が始まった』※10だ。


行軍が始まってから三十分、早くも僕は揺れに酔いはじめていた。

街中の舗装された道路と違い、外は荒れ地が広がっている。

一歩動くたびに機体がグワングワン揺れるのと、隊列で進んでいるので自分のペースで歩けないのとでグロッキーになってしまった。


そんな僕とは対照的に、シルヴィは体調万全で隣に乗っている。

今朝話を聞いたところによると、彼女の魔力は今や限界ギリギリ。

一歩歩くたびに溢れてこぼれ落ちそうなほど並々魔力を蓄えているらしく、悪路にも余裕といった表情だった。

余裕綽々の態度が若干憎らしい。

機内で読書までしている始末だ!


「そんなもの読んでないで、目的地までどのくらいでつくか教えてくれよ。さっきもらった行軍のしおり、あれ僕は読めないんだよ」


「えっと、三日だってさ」

「三日!?」


ほぼ休みなく歩き続けて三日とは、距離にして200kmくらいか。

やれやれ、先が思いやられる。

※10 レフ・トルストイ著 戦争と平和 藤沼貴訳 より引用

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