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異世界ロボット大戦争 ~やや高尚、巨乳ヒロイン、大物のラスボスを添えて~  作者: ロボットガイジ
一章はファンタジーな異世界に転移した主人公が戦争に参加することになる
5/8

Robot guy=GとA.I.guy=G

僕は天才だ。なのになぜ……。

腕を組んだ女教師が眉間に皺を寄せて仁王立ちしている。

彼女は無言で指をさす。


その方向にはぬかるみに落ちて泥だらけになった僕のロボットと、蹴られたケツが凹んでいる先生のロボットがあった。

勝負だと思って熱くなってしまったとはいえ、あそこまでやったことは反省している。


「シルヴィエさん、あなたがついていながらなんですかこの有様は」

「すみませんシェイラ先生」

「死ぬかと思いましたよ」


それはそうだ。

クリフハンガーにぶら下がっているときに後ろから思い切りケツを蹴られれば、誰だって生きた心地がしない。


「すみません、僕のせいです。はしゃぎすぎました」

「まぁいいわ。実戦ではこのくらいやってもらわないと困るから。例外中の例外ですよ」


実戦という言葉が重く肩にのしかかる。

あと一週間で戦地に赴かなければならない。

本当にこんな訓練で戦えるようになるのだろうか?


最悪、僕一人が戦って負けるならそれでいい。

しかし隣にはシルヴィも乗っている。

僕の魔力はゼロだから、彼女なしではマシンを動かすことすらできない……。


いっそ話し合いで解決したらどうかと考える。

金目のものは差し上げます、領地も少し差し上げます、だから戦争はやめましょう、と。


そんな事態にはならないことはわかっている。

これは遊びではないのだ。

エリク元帥は敗戦はすなわち破滅だと言った。

国を失うという感覚が、僕にはない。

シルヴィにはあるだろうか?


先生は代えのロボットを持ってくると言って校舎に走っていった。


「シェイラ先生も軍人なのよ」

「え、本当に? まだ二十代に見えるのに」

「人手不足だから仕方ないの。十代で戦場に行った人もいるわ」


まるでアフガニスタンだ。

前にYou Tubeでシリア人の女性と会話したことがある。

彼女は良い人そうだったけれど、とにかくアメリカが嫌いらしく始終アメリカを罵っていた。


シルヴィたちも同じなのだろうか?

見知った間柄の人が集まって、ちょっと会話が途切れたりしたときに、おあつらえ向きの話題という感じで敵国を罵るのだろうか?


「あ、帰ってきた。あれ、二体いるぞ」


こちらに向かって走ってくるロボットは二体。

僕の乗っているものと同程度の大きさのものが一体、一回り大きいヤツがもう一体だ。

二体が立ち止まる。

後部ハッチが同時に開き、小さいほうからシェイラ先生が、大きい方からふたりの男が降りてきた。


「ほう、彼が例の?」

「ええ、古代ロボットを動かせる者です」


白髪の博士然とした男がシェイラ先生と話している。

その間にもう一人の男、ガタイがよく短髪で、見るからに軍人といった出で立ちの男が近づいてきた。

シルヴィがそっと耳打ちをしてくれる。


「ふたりともここの先生よ。白いほうがRobot guy=G先生、黒いほうがA.I.guy=G先生」

「君が例の青年か! さっきの訓練、職員室から見せてもらったよ。いやぁ素晴らしい!」


いかにも体育会系という感じの張りのある声だ。

僕が最も苦手とするタイプ。

それにしても例の例のと皆口を揃えて言うが、やめてほしいものだ。

これではヴォルデモート卿ではないか。


「恩智英です。よろしくおねがいします」

「これから実戦訓練だって? シェイラ先生に言われてね、助っ人に来たよ! ハッハッハッハッ! お二人さん、そろそろ密談はやめにして、早速はじめようじゃないか」

「そうね。じゃあ恩智英くん、シルヴィエさん、ロボットに乗ってくれる?」


ぬかるみに埋まった機体に乗り込むのは一苦労だった。

おかげで靴がドロドロになり、そのまま機内に泥を持ち込んでしまったため座席の下が泥だらけになってしまった。

世の中には自分の車を土足厳禁にしている人もいると聞くが、今ならその気持ちがわかる。


例によって下句パスワードを入力し、ロボットを起動させる。


「実践訓練ってどんなのだろう」

「たぶん射撃訓練だと思う。動く目標に当てる」

「あの二体を撃つのか?」

「おそらくね」


シルヴィの読みは当たっていた。


「これから射撃訓練を開始する! 私達が動き回るから当ててみなさい!」


その瞬間二体のロボットが地面を蹴り、遥か後方に距離をとる。

とはいえ、秒速八百メートルを超える銃弾の速度を考えればどんな距離も意味をなさない。

アダプティブ・クルーズ・コントロールシステムをオフにすべきか?

オンのままだと動く目標に自動で照準があってしまう。

昨日のテストで威力は十分証明済みだ。

もし本当に当たれば、三人とも無事ではすまない。

オフにすれば間違いなく当たらないだろう。


僕がなかなか撃たないからか、guy=Gコンビの機体が距離を詰めてきた。

手には金属片が――いや、刀だ!


倒れ込むようにして間一髪で回避する。

刀が空を切る音が機内にもとどく。

相手は刀を振り切った勢いを利用して、その場で一回転、今度は振り下ろす形で刀をふるう。


またもやギリギリで避けた。

格好もクソもあったものではない。

地面を這いつくばり、命からがらという態で右へ左へ移動する。


かなり体勢に無理がある状態からの急激な移動が重なったためか、シルヴィの呼吸が荒くなってきた。

魔力の消耗が激しい!

こうなりゃヤケクソだ。


「ボケ牛乳が! ざこ! あほ! まぬけ! スカンジナビア半島が!」


右のレバーを持ち上げ、至近距離から12.7mm弾を叩き込む。

guy=Gコンビの機体は衝撃によりバランスを崩し転倒する。

左方向から攻撃を受ける。

シェイラ先生の機体が右手を突き出している。

衝撃はないに等しい。


「牛の世話でもしとけやボケ円卓の騎士が!」


左のレバーを持ち上げると、左手からレーザー兵器のような光が飛び出した。

シェイラ先生の機体は真っ二つになり、頑丈なコックピット部分だけを残して崩れ落ちた。

guy=Gコンビの機体にしても、銃弾を浴び穴だらけで立ち上がれる状態ではない。

レバーを下げ射撃を止める。

サイドブレーキを上げ、ギアをパーキングにして魔力供給をストップさせる。


「またやりすぎたかな?」

「大丈夫……だと思う。コックピットまで攻撃が達することはまずないから」


「いやぁ、これは一本取られたよ! ハッハッハッハ!」

A.I.guy=G先生が高らかに笑う。


「やられたわ……」

「シェイラ先生、大丈夫でしたか?」

「ええ、死ぬかと思ったけれどね」


「あの出力だ、一般の機体なら五秒と耐えきれず細切れにされるだろうな! ハッハッハ!」

「さっきシェイラ先生の攻撃を受けて思ったんですが、もしかして一般の機体というのは攻撃力が……その、不足してるんですか?」

「不足ってこともないのよ。古代ロボットを模倣した機体は装甲も薄いから、そこまでの高火力は必要ない。あなたが乗ってるロボットが規格外すぎるだけ。もっとも、私たちはその破格のスペックにこそ賭けているのだけど」


「シルヴィエ、攻撃にかかる魔力消費は体感でどのくらいかね」

Robot guy=G先生が尋ねる。


「素晴らしい機体です。一般の模倣機体が消費する十分の一くらいの感覚、で移動、攻撃、回避が可能です」

「なるほど……」


「でもシルヴィ、君は中でわりとつらそうだったじゃないか」

あれは魔力消費が激しすぎてそうなったのだと思っていたが。


「ちょっと酔った。あと熱くなるのは分かるけど、言葉が汚すぎ。もっと静かに運転して」

「そうやな」


いくら訓練でも毎回相手の機体を壊すわけにはいかないので、先生たちが対応策を考えるとのことで授業はこれで終了となった。

それに僕の身体も悲鳴を上げている。

ハンドルを右に左にきったせいで普段使わない筋肉を使い腕がぶるぶる震えている。


「どうかね、感想は」

アルバラード少将が近寄ってきて言った。

正面玄関の所に座って訓練を眺めていたらしい。


「慣れるのに時間がかかりそうです」

「あれだけ動ければ前線に送られても無双できるさ」

「はぁ……」


簡単に言ってくれる。


「車を呼んでおいた。城に元帥の使いが来ているそうだ。急ごう」


行きと同じく人力車に乗って帰宅する。

道中、長屋が立ち並んだ通りで子供が遊んでいるのを見かけた。

子供サイズのロボットと一緒に、なにやらごっこ遊びをしているようだった。


僕があのくらいの頃、戦争はテレビゲームの世界の出来事だった。

米ソ冷戦の想い出を引きずっている人がいたり、北朝鮮が弾道ミサイルを飛ばしているとニュースで流れたり、イラク戦争、難民によるテロといったきな臭い出来事は多々あったにせよ、子供の世界では平和こそがすべてで、明日自分の国がなくなるかもしれないなどという状況は考えもしなかった。


あの遊んでいる子供も同じことを考えているのだろうか?

国境線に軍隊が集結していたり、敵国が水面下で攻撃の準備を整えているといったことは大人の世界の話で、ロボットと遊ぶ日常が永遠に続くと思っているのだろうか?


戦争の気配さえ感じられない街の雰囲気が一番不気味だ。


「念のために言っておくと、今日の使者は筋金入りの敗北主義者だ。君の実戦投入にも反対している」

「国が滅んでもいいと?」

「むしろ滅んだほうがいいと思っている男だよ。実際我が国の現状は惨憺たるものだ。メルランからの制裁で、今やまな板の上の鯉。明日にでも国民の中から反乱分子が飛び出してきかねない勢いだ。国が滅び、メルランに併合されることで制裁解除される。それこそが真に国民のためになると」

「僕に逃げろと言いに来たんですかね」


「わからん。だがその可能性はある。貴族の中では発言力のある男だ。私から説得してみるが、君からも援護を頼みたい。もし彼が運動を始めれば、お上から実戦投入中止の指令が出かねない」


責任重大だ。

戦いは実戦だけではないということか。

城に着くとまず着替えをし、髪にオーデコロンをたっぷりふりかけた。

女中がやってきて、「領主様がお呼びです」と告げる。

「頼むぞ、ラッキーアイテム」

技術書を小脇に抱えて応接間へと向かう。


困ったときは適当に語句を拾ってごまかそう。

僕が頭を使って絞り出す言葉よりも一千倍価値がありそうだ。


きらびやかな装飾が施された応接間。

アルバラード少将と向かい合って、その男は座っていた。


「恩智英どの、こちらはリヴォーフ公爵だ」

「はじめまして、恩智英さん!」


リヴォーフ公爵は想像していたよりも若い男だった。

年齢は三十手前くらい、ジョン・レノン風の長髪で、ユダヤ人のような鼻をしている。

服装はヒッピー的なボロ布をつなぎ合わせた感じで、ズレた無頼派気取りの作家のような印象を受ける。

といってもこの世界の服装マナーは知らないから、あれが正装なのかもしれないが。


「先程まで士官学校で訓練をしていたと聞きました。まったく、近頃は子供にまでロボットを操縦させるようですね」


アルバラード少将がこちらを見る。

目で合図を送ってくる。

なるほど、戦いは既に始まっているらしい。


「リヴォーフさんはロボットの操縦は……?」

「とんでもない! あれは殺戮兵器ですよ!」


「殺戮とは飛躍だな。コックピットは頑丈に作られているから、ロボット同士の争いで死亡につながるような何事も起こりようがない。戦地でロボットを失ったり、故障で降りなければならなかった者は国際法で保護される。故にロボットが戦争に利用されるようになってから、戦死者はゼロじゃないか」


アルバラード少将が援護してくれる。

役割が逆では?

それにしても戦死者がゼロとは初耳だ。


「恩智英さん、まさかあなたまでそんな数字を信じるとは言わないでしょうね? あれは史上最悪の殺戮兵器です。人道的観点にしたがい、今すぐにでも廃棄すべきです」


リヴォーフ公爵は最初からアクセル全開だ。

前のめりになり、目を見開き、今にも噛み付いてきそうな顔でまくし立ててくる。

早くも僕は技術書に手を伸ばした。

適当に開いたページを読む。


「帝国主義的な対立関係の存続のもとでは、“軍縮”の綱領は欺瞞の中でももっとも有害なものである。それはいかなる場合にも新たな戦争を予防することができないであろう。いわゆる“漸次的軍縮”の理念は平時の法外な軍事支出を削減しようという試みを意味するにすぎない。平和愛の問題ではなく、金庫の問題なのである」※7


「私が金のために言っていると? とんでもない誤解ですよ。戦争を望まないだけです。平和よりも戦争を望む人がこの世にいるでしょうか? 争いのない世界こそ理想ではありませんか。平和こそが真理なのですから」


「“ニの二倍は四である”という真理は永遠に承認されることを要求するからといって、私は絶えずこの真理を繰り返していなければならぬのか?」※8


「要するになにが言いたいんです?」

「平和がいいなら勝ち取れってことですよ」

「舐めてんのかてめえ」


ヒエッ……。

理路整然と平和を説くと思いきや、リヴォーフ公爵は逆ギレした。

口調が荒くなった彼は、平和平和と繰り返すだけの人形と化してしまった。

舌戦は約三時間に及んだけれど、ほとんど公爵が喋っていたので、僕はぼうっとして壁の模様を眺めていた。

意見を求められることもなかったし、何か言おうものならすぐ「うるせえ黙ってろ」と返ってきたので、それに従ったまでだ。

※7 レフ・トロツキー著 裏切られた革命 藤井一行訳 より引用

※8 William James著 プラグマティズム 桝田啓三郎訳 より引用

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