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異世界ロボット大戦争 ~やや高尚、巨乳ヒロイン、大物のラスボスを添えて~  作者: ロボットガイジ
一章はファンタジーな異世界に転移した主人公が戦争に参加することになる
3/8

晩餐会

僕は天才だ。僕は素晴らしい人間だ。

僕は美しい。僕は真面目な人間だ。

だからきっと、この試練にも耐えられる。


搭乗人種エラー。

画面にははっきりとそう出ていた。

日本人でなければ、このロボットは操縦できない。

そして日本人とは、この場に僕しかいない。


「いざ乗ってみると、緊張するよな……」


なんの因果か、僕がロボットの操縦席にいる。

隣にいるのはシルヴィエだ。

この世界で一番親しい人間だという理由でシルヴィエが魔力供給役に抜擢されたわけだが、少しばかり強引ではないだろうか?

たしかにこの一ヶ月で一番時を過ごした間柄かもしれない。

だからといってそれだけで『両者の意識された対立から出てきた統一』と断定できるものだろうか?

そもそも僕とシルヴィエは一度も対立などしていないではないか。


「発進せよ!」


外で領主が叫ぶ。

二度の失敗で領主様はしびれを切らしている。

えい、ままよ!


シルヴィエの魔力がマシンに伝わり、機体がかすかに振動する。

ギアをパーキングからドライブにチェンジ、ブレーキを踏む足に力を込める。

サイドブレーキを下ろし、ゆっくりとブレーキを離す。

クリープ現象により、マシンは勝手にファイティングポーズをとる。


いいぞ、この調子だ!


「前よし! 後ろよし! 右よし! 左よし! 歩行者よし!」


前後左右に人がいないのを確認し、アクセルを踏み込む。

歩きだすロボット。目指すは前方にある試験用の標的だ。

向きを整えて、標的として設置された無人ロボットへと照準を合わせる。

それからブレーキを踏む。


「これより射撃テストに移ります」

マイクに向かって言う。

会場からは拍手の音がする。


「それじゃあシルヴィエ、いくよ」

「シルヴィでいいよ」

シルヴィは微笑んで言った。


ブレーキを離し、ハンドル右横のレバーをクイッと持ち上げる。

実弾射撃だ。

ロボットの右腕から12.7mm弾が射出される。

無人ロボットの機体に無数の穴があいていく。


「実弾射撃終了!」


言いながらレバーを下げると射撃が止む。


「続いて魔弾発射! Fire!」


右横のレバーを所定の位置から下にする。

ロボットの右手から弾丸が飛び出し、マズルフラッシュが発生する。

紫色の光が高速で点滅する。

会場がどよめく。


先程の実弾とは比べ物にならない威力。

無人ロボットは衝撃を受けて倒れ、なおも止まない魔弾の雨にさらされ腕が吹き飛び、足がちぎれ、見るも無残な姿となる。


「魔弾射撃終了! これにてテストを終了します!」


サイドブレーキを上げ、ギアをパーキングにし、魔力供給をストップさせる。


「おつかれシルヴィ。大成功だ」

「ええ、これは本当に凄いロボットね……」

「大丈夫か?」

「ちょっと疲れただけだから平気」


シルヴィは大粒の汗をかいていた。

魔力供給というのは、生ける燃料になるのと同じらしい。

つまりロボットを動かせば動かすほど、その疲労は魔力を供給している者に溜まっていくわけだ。

後部ハッチを開き、僕たちは外へと出る。


会場はスタンディングオベーションだった。

「素晴らしい!」「救世主だ!」「復活の時だ!」

エンジニアや学者たちが叫ぶ。


会場から領主が歩み出てきて、握手を求めてきた。

「素晴らしい操縦だった。見給え」

領主は無人ロボットを指差した。


「コックピットには特殊な防御魔術を施してあるから無傷とはいえ、これだけの威力なら再起不能だろう。戦場に出れば一機で百機分、いや二百機分の戦力になる」


「それは僕が戦場に行くということですか?」


領主は表情を曇らせて視線を下げる。

シルヴィに目をやると、彼女もまたばつが悪そうに僕を見返した。


「わかってるわ。恩智英くんにはこれ以上迷惑をかけられない。でもね、このロボットが動かないと困るのも事実なの。だから……」


「シルヴィエ、よしなさい」

「お父様……」

「恩智英どの、貴君の功績は決して忘れない。今日まで本当によく尽くしてくれた。礼を言おう。諸君! 英雄、恩智英に拍手を!」


歓声が雨のように降り注ぐ。


僕はここにいるべき人間ではない。高校生活に戻らなければならない。

夏期講習もまだ残っている。不思議の国のアリスの英文読解もしなくては……。

生まれてこのかた喧嘩ひとつしたことのない僕に、戦争なんてできるわけがない。


今まで人から感謝されることがあっただろうか?

漫然と生き、漫然と暮らしていた。

雨のような拍手を、賞賛を受けたことがあっただろうか?


「恩智英、少しはまともになりなさい」と塾講師は言った。

「恩智英くんってなんか汚い」とクラスの女子は言った。

「ふざけないで」と高校の先生は言った。

「バカ」が僕のあだ名だった。


僕はまともだ。僕は美しい。僕は真面目だ。僕は天才だ。

僕はすばらしいにんげんだ。


「やります。僕が乗ります!」


「うおおおおおおおおおおおおおお!」と会場が盛り上がる。

当たり前だ。

僕もこのセリフをはじめて聞いたとき同じように盛り上がった。

ここにいる全員エヴァンゲリオンを見たことがないのだから、僕がこのセリフを発明したと思っているのだ。

これは名言として語り継がれるに違いない。


「本当に? 本当にいいの?」

「ああ、シルヴィ。まだ時間はあるしね。それに」

「それに?」

「なんでもない。領主さん、これからもよろしくおねがいします」


「この勇気ある若者に、今一度拍手を!」


その夜、城の広間で晩餐会が催された。

主賓は僕だ。

見たこともないごちそうを前に、腹の虫が鳴る。

椅子はないのだろうか?


食べ物が置いてあるテーブルの周りに椅子はなく、見渡すといくつかあるものの、既に先客が座って歓談している最中だった。

もしやこれが噂に聞く立食パーティーというヤツか?


シルヴィに作法を聞こうとしたが、傍にいたはずの彼女はいつの間にか群衆に紛れて話し込んでいるようだった。

完全に孤立してしまった。

仕方がないので皿に料理を盛り、なるべく目立たないよう隅に行って食べた。

車海老らしきものを素揚げした料理が一等美味かったので、おかわりしようともう一度テーブルに近づいた時、群衆を引き連れたシルヴィと目が合った。


「まぁ! こちらの殿方が例の?」

「これはこれは! どうもわたくし板金塗装業を営んでおりますセリノと申します」

「あなたが例のパイロットですか。いやぁお初にお目にかかります」


シルヴィの周囲にいた群衆が一挙に僕を取り囲む。

起動テストが終わってからまだ数時間しか経っていないというのに街の方ではその噂でもちきりらしく、古代ロボットをどうやって動かしたのか、なぜ日本語が読めたのか、出身はどこなのか、など矢継ぎ早に質問された。


「ごめんね、なんとか誤魔化そうとしてたんだけど、無理だったみたい」

シルヴィが群衆をかき分けて来て小声で言う。

よく見たらシルヴィは巨乳だった。


「皆さん楽しんでおりますかな。どうぞそのままお楽しみください。恩智英どの、こちらに」

隣室から現れた領主がよく通る声で言うと、群がっていた人々が道をあけてくれた。


「ありがとうございます。助かりました」

「あの者たちを許してやってくれ。悪気があるわけではないのだ。それよりもこちらへ」


領主に連れられて隣室に入る。

強面の男たちが机を囲んで煙草をふかしている。


「少将、こちらが例の?」

「そうです。例の日本人です。恩智英どの、こちらはエリク元帥だ」

「お、お初にお目にかかります……」

「楽にして構わない。ウイスキーは?」


エリクと呼ばれた黒ひげを生やした禿頭の男は、手近にあったグラスに並々ウイスキーを注いでこちらに差し出した。

彼は領主のことを少将と呼んだ。

ということは、ここにいる全員が役職付きの軍人だろうか。

これなら広間で群衆の相手をしているほうがよかった。


「座り給え」と領主は言った。

「失礼します……」


席につくと目の前にズイッとウイスキーが運ばれてきた。

未成年ですので……などと言える雰囲気ではない。

口をつける真似だけでもしておこう。


「単刀直入に言って、我軍は危機に瀕している。すぐにでも君を戦地投入したい」


危うくウイスキーをこぼしそうになる。

冗談を言っているような感じではない。

戦地投入? 先程テストを終えたばかりだというのに?


「ですが、彼は今日はじめてアレを動かしたばかりです。今すぐというのは性急かと」


領主が助け舟を出してくれている。

その通りだ。

今日やったことといえば、少し歩いたのと弾を撃ったくらいだ。

それがいきなり実戦では飛び級がすぎる。


「国境線に駐留している部隊から報告があった。敵国〈メルラン〉に動きがあった。国境付近に軍隊が集結しているとのことだ。進軍が開始されれば我軍は三日と持つまい」


北朝鮮のミサイル騒動で、ロシア、中国の軍隊が国境付近に集まっているのと同じ状況だ。

もしかすると金正恩もこんな会話をしたのかもしれない。

中国版Twitter微博で中国人がよく言っているそうだ。

「我軍が日本を攻撃すれば自衛隊は三日と持つまい」と


「もし負けたらどうなるんですか?」


場違いな質問だったかもしれない。


「敗戦はすなわち破滅を意味する」


だんまりを決め込んでいる他の軍人たちの口から溜息に似た声が漏れる。

八方塞がり、進退窮まったという状況か。

大勢の前で大見得を切った手前、やっぱり乗らないというわけにはいかないとは思う。

しかし物事には順序がある。

いきなり実戦というのは……。


それはエリク元帥も分かっていたらしく、彼は振り絞るような声で言った。

「一週間でモノにしてくれ。アルバラード少将、君に期待する」


沈痛な面持ちのままエリク元帥は退室していった。

後に続き、軍人と思しき面々も帰っていく。

あとに残されたのは僕と領主だけだ。


「申し訳ない。今日の晩餐会は楽しいものにしようと思ったのだが」


謝らせてばかりいるこちらのほうが申し訳なく思う。

ともかく、エリク元帥は一週間でモノにしろと言った。

それはつまり一週間後には実戦投入されるということがこの場で決定したということだ。


「君は貴重な戦力だ。使い捨てにされるということはまずないと思っていい。明日から本格的な訓練をはじめようと思うのだが、どうかね」

「望むところですよ」


持久走すら満足にこなせない僕が、軍隊訓練についていけるだろうか。

考えていても仕方がない。

為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり。

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