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ミリィの焦り


 ラルフは余裕を見せつけるような笑顔で、まるでミリィが遅刻してないかのように話しかけた。


「あの、私……遅刻してごめんなさい」


「気にすることはないさ。私は君が来てくれただけで嬉しい。それでいいだろ? さぁ、馬車はあちらにあるんだ」


 これはラルフの本心だ。しかし、ミリィの瞳に写る影に、ラルフは動揺している。なぜなら、その影は戦争時に味方から騙し討ちをした者が宿していたものにそっくりだったからだ。

 騙し討ちには心底ぞっとする。信頼が突然、絶望に変わる。戦時中に起こったそれは、今でも夢に見るほど、嫌な行動だ。

 それでも、ミリィは美しいとラルフは思う。質素なドレスを着ていてもだ。整えられた髪からこぼれるほつれ毛すら、愛しく思える。

 こんなにも愛しく思える女性に、初めて出会ったラルフは違和感を無理矢理飲み込んだ。


 ラルフは馬を預けている場所に、ミリィを案内した。道中も話が絶えることはなく、ミリィは何度もラルフに笑わされた。

 くくりつけていた縄をほどくため、ラルフがミリィに背を向けた時、ミリィは意を決してサロンの話を話すことにした。


「ロンドンには、紋章貴族のためのサロンがあるって聞いたの。そこに連れていってほしいんです」


 ラルフは、ミリィの言葉に耳を疑った。

 サロンは確かにあるが、ミリィに行く用事があるとは思えない。


「なぜ? 理由を教えてほしい」


 ミリィは、その返答からラルフがサロンを知っていることに気付いた。


「大事な用事があるの。私自身に関わる大事な用事が」


 ラルフはミリィのとても思い詰めた低い声に驚いた。


「君が、私に、その大事な用事を話してくれたら考えるさ」


 ラルフに事情を話すべきだ、きっと彼なら力になってくれる、ミリィには少ししか一緒にいないラルフのことを信頼している。しかし、紋章憑きとして蔑まれてきた過去が、ミリィに重くのしかかる。

 全てを話し、ラルフに軽蔑されるかもしれない。そう考えたミリィは、一気に頭に血が昇り、冷静に考えることを放棄するしかなかった。

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