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ミリィの決意


「左手を見せなさい。あなたの契約獣は何?」


 ミリィは手袋をとり、左手を差し出す。


「狼です。氷を自由に操ることができます」


 契約の証として、左手の甲にある紋章はこの世に生を受けた時に刻まれると言われている。

 ミリィの一族が契約する神話生物は、美しい青い毛並みの氷を操る狼クリュス。


 ミリィが六歳の時に親に捨てられ、孤児院に入れられた時から、クリュスだけが彼女の味方だった。

 二年前の十四歳の誕生日に、捨てられた紋章貴族の噂を聞きつけたサフィアの父に護衛として雇われた。


 ブライアンは良い人だが、それ以外のミニッツ家の人々は決して善良な人々とは言えない。

 この紋章を見るミセス・ルビーの、どこか軽蔑した目付きから、彼女もやはりミニッツ家の立派な一員とわかる。


「ふん、ちゃんと守ってくれれば紋章憑きでもいいわ。あなたたち、紋章憑きは所詮、平民からの成り上がりだということを忘れてはだめよ。あなたは護衛としてだけ働くの」


 強く手を握られ、無造作に離される。

 ミリィは頷き、逃げたくなる足を叱咤する。

 紋章憑きとして利用されるが、用が済んだら疎まれる。孤児院に捨てられてから、ずっとそうなのだ。

 今さら傷つくことはない、自分に言い聞かせる。


 ミリィはどんなに酷くされても、自分を諦めていない。それは願いがあるからだ。

 親に捨てられるまでの日々は、確かに愛に溢れた日々だった。

 ミリィの願いは自分を捨てた家族に、なぜ自分を捨てたのか、問いただしたい。その一心で生きている。


 そうやって諦めずにいたから、ミリィはミニッツ家の所領を出て、ロンドンに来ることができた。

 貴族が集まるロンドンなら家族が見つかるだろう、ミリィの窮状を鑑みたブライアンが、ミリィに教えてくれたことだ。


 サフィアたちが夜会に出かける日こそ、ミリィの待っていた時だ。

 他家の使用人たちから、紋章貴族について話を聞く。そうしていって、願いを果たすのだ。


 サフィアとルビーが、デビュタントの白いドレスに似合う宝石を話し合う中、ミリィは手袋の上から紋章をゆっくり撫でた。

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