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ラルフの夜


 ラルフは見舞いの承諾を得る手紙を急いで書き、送った。その一日後にはソフィーを経由し、ぜひ来てくれとサフィア・ミニッツからの手紙が届いた。

 

 そしてその日の夕方、ラルフはもう一人の親友であるキースをコンフィダントで待っていた。

 キースもシーズンの始まりには遅れたが、嫌々とはいえロンドンに滞在していたため、見舞いに誘うべきだと考えたのだ。


 キースは、ラルフが時間潰しに頼んだ酒を飲みきる前に現れた。

 キースは淡い金髪の美青年でれっきとした紳士だ。しかし彼が手にいれた金は、ある理由で旅費に変わる。各地は旅している彼を、今回ロンドンで捕まえられたことは幸運だった。

 キースは服装に無頓着で、綺麗好きな門番の猫から好かれていない。だから、いつもコンフィダントに入場しようとすると、手間取ってしまう。


「遅れてすまない。今回も服装のことで、アイエ殿の機嫌を損ねてしまってね。いつものことながら最終的に、アシュリー家の方にとりなしてもらったよ。アイエ殿は、我が家の契約獣が狼であることも気にくわないから目の敵にしてくるんだ」


 キースは軽い口調で詫びラルフの横に座ると、自分もラルフと同じ酒を召し使いに頼んだ。ラルフもグラスを変えるよう頼む。


「あの意地悪猫は、自分以外の契約獣が嫌いなのさ。俺のリアマすらトカゲと呼ぶぐらいだ。初めて紋章を見せた時の舌舐めずりは、今でも忘れられないね」


 ラルフは大袈裟に震えて見せる。アイエは優秀な門番だが、好き嫌いが多い。

 運ばれてきた酒でキースと乾杯する。そして、離れていた月日のことを話し合う。


「あの丈夫なブライアンが一週間も寝込んでる? 冬の湖を裸で泳いで、唯一風邪をひかなかった男がか?」


 キースは心底不思議に思った。あの冬の寒中水泳では、二人の契約獣が勝手に飛び出してきた。契約者と同じ湖の中に現れたはいいが、その冷たさに驚いて暴れ、溺れかけて大変だった。救助に来たはずの契約獣を、三人で助けたことは一生忘れない話だ。


「そうだろう? 俺もそう思ったんだ。しかし、あの湖は冷たかった! 俺とお前は風邪は拗らせて、期末試験まで長引いた。あれは最悪だったよ。見舞い、お前も行くだろ?」


「もちろんさ! あの麗しの青春を共に過ごした仲間が危機とあれば、どこにだって飛んでいく。卒業式に誓った言葉は嘘ではない!」


「旅費は計画的に使えよ。お前はいつも西へ東へ、大忙しだ」


 キースは旅行先で困っている子女を見ると、すぐに金や身を惜しまず助ける。それは彼の過去が深く関わっている。

 そんな彼をラルフは自慢の友だと思いながらも、あまりの献身さに心配している。


「俺は待つのが苦手なんだ。早く見つけてやりたい。家族は一緒にいるべきなんだ」


 キースは左手の紋章を光にかざし、眩しいものを見るように目をすがめると、一気に酒を煽る。

 そんなキースはとても悲しそうに見えた。


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