ラルフの考え
ソフィーの家はとても品が良く、丁寧に整えられていた。
三人は応接室で椅子に座り、紅茶を飲み、休憩している。
「本当にありがとうございました、ブラッドレイ卿。あなたがいなかったら、どうなったことだか……」
ソフィーは家に着いてからずっと同じことを繰り返し言っている。落ち着かないのか、リトスを神話世界に返すことなく膝に乗せ撫でている。リトスもソフィーの好きにさせ、好物のクルミを一心不乱に食べる。
ミリィがラルフを伺うと、ラルフは人好きのする笑顔で答えた。
「気にしないでくれ。契約獣の暴走など、めったにないから、パニックになるのも仕方のないことだよ。しかしソフィー、念のために言うが、君は自分を制御する訓練と護身術の復習をすべきだ。ミリィ、紅茶のお代わりは?」
ミリィは首を振って断る。ソフィーに対するラルフの言葉に自分を振り返り、未熟さを味わう。口の中はどこか苦い味がする。
「はい、ブラッドレイ卿。一から勉強し直します、リトスのためにも。ミリィさんも本当にありがとうございます。私にできることがあったら、何でも言ってください」
ソフィーはミリィの方を見ると、恩を感じていると言う。あの時、手を握ってくれてありがとう、と。
自分は何もできなかった、と思っていたミリィは、その言葉で一気に嬉しくなり、思わず笑顔になる。
ラルフはその笑顔を見ると、大事な用事があると思い詰めていたミリィの顔を思い出した。
こんな笑顔ができる女性があそこまで追い詰められているなら、紳士として助けるしかないとラルフは思う。それには、ソフィーの協力が必要だが、先程の言葉なら簡単に協力してくれるだろう。
「ソフィー、君にやってほしいことがある」
「なんでしょうか、ブラッドレイ卿? もちろん、何でもやらせて頂きますわ」
ラルフはミリィにウインクすると、話を続ける。
「ここにいるミリィを、一人前のレディにしてほしい。彼女は既に礼儀作法を知っているだろうが、念のためにね」
ラルフのウインクに心を奪われていたミリィは、とても驚いた。ラルフの言っている意味が、全くわからない。
それはソフィーも同じで、目を白黒させている。
「ミリィはコンフィダントに行きたいらしいんだ。しかし、コンフィダントに入るには、門番であるアシュリー家の忌々しい猫に認められなければならない」
ソフィーにはそれで合点が行った。アシュリー家の猫は、人間を試す。彼らが出す条件に認められないものが、彼らの領域に入ると攻撃する。マール家と同じ、守護者の性質を持つ契約獣である。そして、コンフィダントに入る条件に、礼儀作法は必須だ。
「わかりました。私に任せてください。よろしくお願いしますね、ミリィさん」
よくわかっていないミリィを置いて、ラルフとソフィーの会話は続いた。




