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終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~  作者: 桜葉
第三章 大森林に眠りし魔竜・ギヌス
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第三章36 まどろみの中で

「――さぁ、夢を見ましょう?」


 異世界に召喚された英霊・アーサーの『聖剣・エクスカリバー』による一撃を身に受けた魔竜・ギヌス。その圧倒的な力を前に劣勢を強いられていた航大たちであったが、見事な連携を見せることで、ようやくその巨体に一撃を見舞うことに成功した。


 金色に輝く甲冑ドレスを翻し、膨大な魔力を身に纏った聖剣・エクスカリバーによる一撃は甚大であり、さすがの魔竜も巨体から夥しい量の鮮血を溢れ出させることで地面に屈した。


「うぐッ……ああぁッ……!?」


 圧倒的な力を持つ魔竜に致命的なダメージを与え、劣勢だった航大たちにも光が見えたと思った矢先だった。帝国騎士の女はローブを脱ぎ、その顔を露出させると異形の力を持つグリモワールの力を解放する。


「プ、プリシラッ!?」


 女が持つグリモワールが淡い光を帯び始める。

 それは現実世界と異世界を繋ぐグリモワールの力が使役されている証である。


 相手は帝国ガリアの騎士である。一体、どんな力を使ってくるというのか……険しい顔を浮かべて身構える航大だったが、周囲に変化は現れない。異様な静寂が場を包む中、最初に声を上げたのはプリシラだった。


「はぁっ、はあぁっ……なに、コレッ……んぐぁッ……!」


「おい、プリシラッ……どうしたんだよッ……!?」


 帝国騎士の女が見せた変化。それは乱雑に伸ばされた赤髪の中に見える濃紺の瞳に『十字架』を浮かばせただけ。しかし、その直後にプリシラの身体へ異変が現れたのだった。


「わ、分かりませんッ……突然、身体がッ……あがぁッ……はぁっ、くぅッ……んああぁッ!」


「お前ッ、何したんだッ!」


「アハッ、ちょっとだけ夢を見てもらってるダケ」


「……夢?」


「くッ……あッ……んうううぅッ……!」


「クソッ、プリシラッ……大丈夫かッ……!?」


「――ダ、ダメですッ!」


「――ッ!?」


 苦しみ悶えるプリシラの元へ駆け寄ろうとする航大だったが、そんな彼をプリシラは手のひらを見せて制止させる。


「どうしてだよッ!?」


「て、敵の攻撃が分からない以上ッ……はぁっ、はあぁッ……私に触れるのは危険ですッ……」


「クソッ……」


 苦しむプリシラを前にしても、航大たちは何もすることが出来ない。

 そのことに歯がゆさを感じていると、魔竜の近くで立ち尽くす帝国騎士の女が嘲笑いだす。


「アハハッ! もう、その子は私の夢の中。殺すも生きるも私の手の中にあるんだヨ」


「てめぇッ……」


「さぁ、こっちにおいで」


 楽しげな笑みを浮かべる帝国騎士の女は、苦しむプリシラに手を伸ばすと自分の場所まで来いと命令する。普通であるなら、王国をこんな有様にした敵の言葉に従うはずがないのだが……プリシラは苦しんだ様子を見せながらも一歩進みだしてしまう。


「プリシラッ!?」


「はぁっ、くぅッ……身体が勝手にッ……はぁっ、はああぁッ……!」


 どういう理屈かは分からないが、女が使役するグリモワールの力によってプリシラは身体の自由を奪われているようだった。必死に抵抗する様子を見せてはいるが、その意に反して身体は足を踏み出してしまう。


「うーん、まだ自我が残ってるみたいだネ?」


「――うぐッ!?」


 帝国騎士の女は再びグリモワールに光を灯すと、瞳に『十字架』を浮かばせていく。

 するとプリシラの身体がピクンッと痙攣し、とうとう彼女の瞳から光が失われた。


「――氷雨連弾(アイス・ニードル)ッ!」


「――なッ!?」


 虚ろな足取りで歩き出すプリシラ。突如、魔法の詠唱が轟いたかと思えば、完全に無防備となっているプリシラの背中に向けて氷魔法が放たれる。虚空に出現した両剣水晶はプリシラの身体を貫こうとした瞬間、何の前触れもなく水晶は霧散していく。


「な、なにしてんだよッ、リエルッ!」


 この場において氷魔法を使うことが出来る人間。


 眼前に広がった一瞬の光景を思い返しながら航大は振り返る。そこには呼吸を乱して片膝をつくリエルの姿があった。彼女は険しい表情を浮かべて右手を突き出しており、その様子からやはり氷魔法はリエルが放ったもので間違いないのであった。


「はぁッ、はあぁッ……あやつからは禍々しい魔力を感じる。殺らねば殺られるッ」


「お前ッ、殺られるって……プリシラはあいつに操られてるだけだッ! それだけで殺そうとするなんてッ」


「アハッ、そこの能天気な君よりも……そこで死にそうになってる女の子の方が頭良いみたいだネ?」


「……どういうことだ?」


 ゆっくりと歩いてくるプリシラを迎えるようにして両手を広げる帝国騎士の女は、何も理解していない平和ボケした航大を嘲笑う。


「この魔竜ちゃんはねー、偽物なんだけど、まだ真の力を発揮してないんだよネ」


「真の力を発揮していない……?」


「――そう。この子の封印はまだ解けていない。今まで戦ってたのは、この子の半分くらいの力なんだよネ」


「……は、半分?」


 帝国騎士の女が漏らす言葉に、航大とアーサーは愕然とする。


「アハッ! 魔竜ちゃんの封印を解くには、貴方の力が必要なんだよね?」


「……はい」


 虚ろな瞳を浮かべるプリシラは、そんな女の問いかけに答えてしまう。


「プリシラッ! 正気を取り戻すんだッ!」


「…………」


「ダ、ダメですッ……私たちの声は届きませんッ……」


 航大たちの呼びかけに、プリシラは一切の反応を見せることはない。

 ただ呆然と立ち尽くすと帝国騎士の言葉に従順に従うだけ。


「アハッ、それじゃ……魔竜ちゃんの封印……解いてくれる?」



「――四神解封印」



「――ッ!?」


 プリシラは両手を合わせると、小さく封印を解除する魔法を詠唱する。

 その声に合わせて大地が大きく揺れ始める。


「――ようやくか」


 プリシラを中心に眩い光が漂い始めると、次の瞬間にはその光が倒れ伏している魔竜・ギヌスの巨体へと降り注がれていく。魔竜が放つ咆哮がより強いものへと変わるのと同時に、航大たちの肌を突き刺す禍々しい魔力も増していく。


「アハッ、これが魔竜ちゃんの力なんだネ。まぁ、上出来かな」


 完全なる復活を果たす魔竜・ギヌス。

 その力は今までのものとは比べ物にならないことは航大にも理解することが出来た。


 決死の思いで与えたアーサーの一撃も一瞬のうちに消失しており、魔竜・ギヌスは完全な状態で顕現した。


「さて、まだまだ遊びはこれからだヨ?」


「――――ッ」


 眼前には冷徹で冷酷な帝国騎士。


 その後ろには完全な復活を果たした魔竜・ギヌス。


 アステナ王国を舞台にした戦いは、絶望の速度を上げて新たなる局面へと突き進んでいくのであった。

桜葉です。

気付けば第三章もそこそこの長さになりました。

次回もよろしくお願いします。

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