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終末の異世界と大罪のグリモワール ~英霊は異世界で斯く戦えり~  作者: 桜葉
第三章 大森林に眠りし魔竜・ギヌス
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第三章35 強欲のグリモワール

「――さぁ、殺し合いを始めヨ?」


 ――アステナ王国を舞台にした戦いは激しさを増そうとしていた。


 王城へと辿りついた航大たちを待っていたのは、復活を果たそうとする魔竜・ギヌスと、それを従える赤髪が印象的な帝国騎士の女であった。


 魔竜・ギヌスを操り、アステナ王国にて王女側近の騎士であるエレスを打ち破った帝国騎士の女は相手を不快にする嘲笑を浮かべると、魔竜に攻撃を指示する。


「――来るぞッ!」


「――ッ!」


 魔竜の咆哮が轟くのと同時に航大たちも動き出す。

 ギヌスが使う創世魔法。それは世界を滅ぼし、世界を創造したものである。


 その威力を深層世界で身をもって体験している航大だからこそ、魔竜の攻撃に対して最大限の警戒心を抱くことが可能だった。


「行くぞッ、小娘ッ!」


「え、えっ……小娘って私のことですかッ!?」


 周囲に轟く航大の声にリエルとアーサーが素早い反応を見せる。


 魔竜が大きく翼を広げ、そこを中心として膨大な魔力が集中してきているのだと理解した。魔竜の攻撃が始まる前に討とうと動くのはリエルとアーサーだった。二人は険しい表情を浮かべると、姿勢を低くして魔竜と比べれば微力な魔力を集め始める。


「――氷柱一通ッ!」


 まず最初に魔法による攻撃を放ったのはリエルだった。


 両手に眩い光を集めると無数に連なる氷の柱が生まれ、それが地面を走って魔竜の身体を貫こうとする。凄まじい魔力の放出を前にしても、魔竜・ギヌスは鋭い眼光でそれを見つめるだけ。


「――無駄ダッ!」


 魔竜・ギヌスはそんな言葉を漏らすと集めていた魔力の一部を放出していく。


 氷柱が走る先。そこに巨大な大樹の根が出現すると、それらを鞭のようにしならせることでリエルが放つ氷魔法の全てを無効化していく。


「それならこれはどうですか――王剣・絶対なる勝利(聖剣・エクスカリバー)」


「――ッ!?」


 ギヌスがリエルの攻撃に意識を奪われている隙を狙った、英霊・アーサーによる強力な一撃が放たれる。


 それは王城に到達する前、無数に現れる小型魔獣たちを一掃した攻撃であり、彼女が放つ強大な一撃は魔獣たちを一掃するだけではなく、大地に大きな一文字の亀裂を生んでいた。


 光り輝く斬撃が一直線に魔竜・ギヌスの身体へと向かっていく。


 凄まじい力に王城全体が激しく揺れる中、アーサーが放った斬撃が魔竜の身体に到達しようとしていた。


「――創世魔法・絶魔封陣(シェル・スキル)


「――しまったッ!?」


 もう少しでアーサーの攻撃が届こうとした瞬間だった。

 魔竜・ギヌスは膨大な魔力を消費することで、絶対の防御魔法を発動する。


 それは深層世界での北方の女神・シュナとの戦いで影の王が使った絶対の防御魔法。


 膨大な魔力を必要とする代わりに、あらゆる魔法による攻撃を無力化する魔竜のみが使役することの出来る魔法。それが炸裂した結果、アーサーが放った一撃必殺の斬撃も虚しく消失していくことになる。


「な、なんじゃアレはッ!?」


「ま、魔法が消えた……!?」


 虚空に消えていくアーサーの攻撃を目の当たりにしたリエルとプリシラは、眼前に広がった光景を前にして信じられないと目を見開く。


「え、えっ……どうして……?」


 攻撃を放ったアーサー自身も呆然とした様子で立ち尽くすことしかできない。彼女が手に持つ聖剣・エクスカリバーも輝きを失っていて、あの一撃に対する負担の大きさを物語っている。


「あれはギヌスが使う魔法を無効化するものだッ……」


「さすがは魔竜。なんでもアリじゃなッ……」


「それはマズイですねッ……」


 航大の説明を聞いて概要を理解すると、リエルとプリシラの二人は悔しげに唇を歪ませる。


 ――魔法による攻撃を無力化する、


 その効果は魔法による戦闘を得意とするリエルとプリシラにとっては効果抜群だと言わざるをえない。


「アハハッ、ちょーっと魔竜ちゃんを甘く見すぎじゃないかナ?」


「――創世魔法・花陣爆散(フラワー・エクスプロージョン)


 航大たちの攻撃が全て無に帰したのを確認するなり、帝国騎士の女が不快な笑みを浮かべる。それに続くような形で魔竜・ギヌスによる反撃が始まる。


「な、なんだ……?」


「ま、魔法を使ったんじゃないのか……?」


 魔竜・ギヌスが放つ膨大な魔力を感じ身構える航大たちであったが、そんな警戒に反して周囲は異様な静寂に包まれていた。


 静寂の中で航大とリエルは呆然と立ち尽くす。


「……花?」


「花びらがたくさん……?」


 そんな声を漏らしたのはアーサーとプリシラだった。

 航大たちが存在する封印の塔。その最上階に無数の花びらが舞っていた。

 それは次第に数を増していて、気付けば航大たちの周囲を取り囲むようになっていた。


「マズイぞ……コレ……」


「花びらの全てに魔力が篭められておる……」


 リエルの言う通り、突如として虚空から舞い降りてきた無数の花びらには魔竜ギヌスの魔力が篭められていた。


「アハッ、全員死んじゃエ」



「――主様ッ、逃げるんじゃッ!」

「全員、逃げてぇッ!」



 帝国騎士の女が漏らした言葉。


 それを合図にして、航大たちは咄嗟に行動を開始する――しかし、直前の思考停止。それが致命的な出遅れを生んでしまった。


 航大たちが動き出した瞬間。周囲を舞っていた花びらたちが同時に爆発した。


「――ッ!?」


 凄まじい衝撃が航大たちを襲い、逃げ場のない連鎖爆弾に巻き込まれていく。次々に花びらが爆発していき、魔竜・ギヌスが放つ無差別攻撃に航大たちは為す術もない。


 どれくらいの時間が経過したのだろうか。

 無限にも続く連鎖爆発の中で、航大は吹き荒れる爆風の中に身を晒していた。


「はぁ、はあぁッ……大丈夫か、みんなッ!?」


 ようやく連鎖する爆発が沈静化し、航大は自分が生きていることを確認すると急いで周囲を見渡す。


「――リエルッ!?」


 航大の眼前に背中を見せて立ち尽くすのはリエルだった。


「はあぁ、はぁ、はぁ……大丈夫か、主様よ……」


「お前、また俺を守ってッ……」


 魔竜が放つ爆撃の中で、リエルは防御魔法を展開することで航大を守ろうとしていた。しかし、魔竜の攻撃は凄まじくリエルが展開した氷の障壁も所々が崩れ落ちている。

 リエルの服はボロボロになっていて、あちこちから出血している様子も確認できる。


「リエルさん、大丈夫ですかッ!?」


「ふん、これくらいで死ぬような賢者ではない……しかし少々……魔力を多く使ってしまったようじゃな……」


 爆発の粉塵が消えると、プリシラとアーサーたちもリエルの様子に気が付く。


 リエルの魔法は航大だけではなく、プリシラとアーサーの二人も守っていた。そのためにリエルは膨大な魔力を消費してしまったのだ。


「主様を守るのは当然として、魔法が無力化されるというのなら……この中で儂が一番足手まといじゃからな……これくらいは役に立たねば……」


 最早、リエルは立っているのもやっとな状態だった。

 その様子を見て、プリシラとアーサーの表情が苦痛なものに歪む。


「アハハッ! あの攻撃でも死なないんだ? 案外、しぶといんだネ?」


「くそッ……」


「あ、でもそこの君には死んでもらったら困るんだっタ」


「……なんだと?」


「うちの総統が君を望んでるんダ。だから、君が大人しく帝国ガリアまでついてきてくれるなら、攻撃をやめてあげてもいいよ?」


 帝国騎士の女は傷つく航大たちを見て、嗜虐的な笑みを浮かべると信じられない提案を投げかけてくる。その言葉に航大は目を見開いて驚きを隠しきれない。


「ダメじゃ、主様……そやつの言葉を聞いてはならない……ッ!」


「アハッ、選択権は君にある。自由に選んでいいヨ? でも、私は気が短いからあまり待てないヨ?」


「…………」


「行かせません。貴方は私が守りますッ……」


 帝国騎士と対峙する航大の前に立ったのは、金色の甲冑ドレスに身を包んだ英霊・アーサーだった。両手に聖剣を持ったアーサーは、航大を守るようにして帝国騎士の前に立ち塞がると、厳しい顔つきで女を睨む。


「うーん、やっぱり邪魔者は全部殺さないとダメみたいだネー」


「私は聖剣・エクスカリバーを持ちしアーサー。決して敗北することはないッ!」


 最初に出会った際の弱気な様子はどこかに姿を隠し、アーサーは精悍な顔つきになると眼前に立ち塞がる強大な悪へ剣を突きつける。


「アハッ、その顔……そこでぶら下がってる男と似てる。私はその顔が大嫌いなんだよネ」


「…………」


「殺っちゃって、魔竜ちゃん」


「――ッ!」


 女の言葉を合図にするようにして、魔竜・ギヌスが再びの動きを見せる。


 咆哮を上げるのと同時に大樹の根を生成すると、凄まじい速度でそれらをアーサーの身体へと伸ばしていく。その根は先端が異常に鋭くなっており、アーサーの身体を貫こうとしているのは明白だった。


「――はぁッ!」


 自分の身体へ迫ってくる根の攻撃を跳躍によって躱すと、アーサーはその剣に魔力を充填していく。


「――遅イッ」


 アーサーの動きを見て魔竜・ギヌスが忌々しげに声を漏らす。

 その声と呼応するようにして、根はアーサーを追い始める。


「アーサーッ!」


「――大丈夫ですよッ、私がいますッ!」


 魔竜・ギヌスの注意がアーサーに集中する中で魔法の詠唱を終えていたのはアステナ王国の筆頭治癒術師・プリシラだった。ギヌスが操る根の進行方向に土の壁を生成することで、アーサーへの攻撃を防ぐ。


「アーサーッ! さっきの無効化魔法はそう何発も使えないッ!」


「さっきは不発でしたが――次こそはッ……王剣・絶対なる勝利(聖剣・エクスカリバー)ッ!」


 ――全ての魔法を無力化する。


 それはギヌスが使役する魔法の中でもトップクラスに厄介だった。

 しかし、より大きな魔法を無力化すればその分だけ消費する魔力も大きい。


 アーサーが放つ魔力を伴った攻撃を無力化するには、それ相応に大きな魔力を使用しなくてはならない。


「――ッ!」


 アーサーが放つ大地を裂く必殺の一撃。

 封印の塔を揺るがす強大な一撃が炸裂し、魔竜・ギヌスの身体へと到達する。


 ギヌスが一段と大きな咆哮を上げるのと同時に、その巨体に大きな一文字を刻まれ、そこから夥しい量の出血を確認することが出来た。それはアーサーの攻撃が魔竜に届いた証であり、誰が見てもその傷は重傷であると判断できた。


「もぉー、魔竜ちゃんの癖にあれくらいでやられるなんてなー。やっぱ、偽物はダメだなー」


 アーサーの一撃を喰らっても尚、魔竜は鋭い眼光を浮かべて生存していた。しかし、動くことは叶わないのか、ズシンと大きな音を立ててその場に倒れ伏してしまう。


「しょうがないなー、帝国騎士である私が助けてあげよう」


 倒れ伏す魔竜・ギヌスを見てやれやれと溜息を漏らす女は、漆黒の装丁をしたグリモワールを取り出すと光を帯びさせ始める。


 それと同時に髪を掻き分けると、その顔を露わにしていく。

 情熱的な髪の奥には濃紺の瞳が隠れており、航大たちを見るその瞳は卑しく歪んでいく。


「気をつけろ、みんなッ……何してくるか分からないぞッ……」


 航大の言葉にアーサーとプリシラが表情を険しくする。その様子を見て、さらに笑みを強くする帝国騎士の女はグリモワールの光をより強くしていく。


 何かが起こる……身構える航大たちであったが、そんな反応に反して動きは見られない。

 変わった所といえば、女が浮かべる濃紺の瞳に『十字架』が浮かんでいることくらいだった。


「な、なにが……」


「――うぐッ!?」


 戸惑いの声を航大が上げるのと同時だった。


 航大の少し後ろに立っていたはずのプリシラが突如として苦しみだし、胸を押さえてその場にうずくまってしまう。


「――さぁ、夢を見ましょう?」


 その様子を見て、帝国騎士の女は卑しく笑うのであった。

桜葉です。

次回もよろしくお願いします。

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