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第七章42 再・アステナ城下町※10/30追加

「……主様、あの者たちを王国へ近づけてよかったのですか?」


「…………」


「……もし命令するのであれば、今からでも後を追いかけますが?」


「その必要はないかな。あの人たちは確かにアステナを救ってくれた恩人なんだから」


「……そうですか。それならば、どうして不安げな顔をしているのですか?」


「……あの人たちが直接の原因ではないよ。何か、嫌な予感がするから」


「……嫌な予感。主様の予感はよく当たります」


「今回ばかりは……外れて欲しいと願うばかりね」


 木々の葉が揺れる音だけが響く森林の中。


 そこにはローブマントを被った女性と、メイド服に身を包んだ少女の姿があった。彼女たちは神妙な表情を浮かべながら、その場から動くことなく会話を続けている。


「さぁ、私たちも早く家へ戻ろう。やらなくちゃいけないことがたくさんあるから」


「……はい」


 二人はシルヴィアたちが去っていった方向を一瞥すると、静かな森林を歩き出す。彼女たちの瞳には強い決意の色が浮かんでおり、その様子はこれから始まる戦いを覚悟しているかのようであった。


◆◆◆◆◆


「それにしても、なんだって俺たちに挑んできたんだよ」


「あのメイドのこと? そんなこと、私が知るはずないじゃない」


「……まぁ、結果的にこうして通してくれたんだからいいんだけどさ」


「あの二人、なにか隠してる感じだったわね」


「シルヴィアも感じたか。でも、それを追求はしなかったんだな」


「敵対してる訳でもないし、言いたくないなら言わなければいいって思っただけ」


 コハナ大陸を支配する森林の中、シルヴィアとライガの二人は地竜に乗ってアステナ王国を目指していた。


 世界の支配へ向けて本格的に行動を開始した帝国ガリア。


 彼らが狙っているのは、各大陸に封印されている魔竜と呼ばれる存在であった。かつて、世界を混沌へと陥れようとした最悪の存在であり、魔竜が持つ力はたとえ一匹であったとしても、世界の秩序を大きく乱すものであった。


 女神によって封印された魔竜であったが、帝国ガリアは己が持つ全勢力を行使してそれを奪おうと行動を開始している。


 事実、ハイラント王国もまた帝国ガリアの騎士による襲撃を受け、王国に封印されていた魔竜の一匹を奪われてしまった。


 ハイラントの騎士であるシルヴィアとライガの二人はマルーダ大陸へと向かった航大たちとは別行動を取り、アステナ王国に封印されている魔竜を帝国の手から守るために行動している。


「アステナ王国……あいつは元気にしてるのかな?」


「エレスのこと?」


「あぁ。あいつとは一緒に旅もした仲だからな、任務のこともあるけど、久しぶりに会うのは楽しみだ」


「状況が状況だから、あまり楽しい再会って訳にもいかないかもね」


 ライガがぽつりと漏らしたのは、かつて共に旅をしたアステナ王国が誇る騎士の名であった。アステナ王国で魔竜ギヌスと戦い、その後に拉致されたユイを救うために行動を共にした男である。


 彼には何度も救われた場面もあった。そんな彼との再会をライガは密かに楽しみにしていた。


「まぁ、アステナに向かってるんだし、会えるでしょ」


「……だな」


 二人の会話が静かに続く最中も、地竜たちは足を止めることはない。代わり映えのしない森林の仲をひたすらに進んでいるだけのように見えるが、アステナで生まれ育った地竜たちからすれば、なんら変わらない光景も見慣れたものである。


「おっ、見えてきたんじゃないか?」


「一度、来たことあるのに随分と懐かしい光景ね……」


 森林を突き進むことしばらく。


 鬱蒼と生い茂る森林に僅かな変化が現れる。所狭しと立ち並んでいた木々たちの間から、見上げるほどの人工物が姿を現し始めていた。それはアステナ王国を取り囲むように存在する防壁であり、城下町を含めて王国を取り囲む防壁をライガたちは一度、目の当たりにしたことがあった。


「相変わらず圧巻だな……」


「防壁だけを見る限り、魔竜が暴れてたり、帝国の奴らが暴れてるようには見えないわね」


 永遠に続くかと思われた森林を抜けると、そこはアステナ王国である。コハナ大陸のちょうど中心に位置している。自然が支配する大陸を統治する国家であり、魔獣たちからの防衛手段として王国を守護するための防壁を用意している。


「でも、ちょっと位置を間違えてるみたいね。正門はあっちみたい」


「たしかに……ここには入り口なんてないしな」


 アステナ王国に到達したはいいが、ライガたちの眼前には無骨な防壁が立ち並んでいるばかり。王国内部へと入るための正門は別の場所にあり、そこからでなければアステナへと立ち入ることは不可能である。


「よし、とりあえずこの防壁をぐるりと回るか」


「そうね。不幸にも誰の姿もないから、自分たちの足で探すしかないみたいだけど」


 周囲を確認しても人影を確認することはできない。


「そこで問題なのは、右に行くべきか、左に行くべきか……ね」


「まぁ、どっちから行ってもアステナは逃げないと思うが……」


「でも、無駄に一周してる暇もないんじゃない?」


「んー、とりあえずは異常もないみたいだし、少しくらいゆっくりしてもいいんじゃないか?」


「そんなのんびりしてる間に襲われてたらどうするのよ?」


「いや、まぁ……確かにそうだけど……」


「それに不自然だと思わないの?」


 どこか能天気な言葉を発するライガに対して、シルヴィアの表情は険しくなる一方である。キョロキョロと周囲を確認する度に、シルヴィアの表情は険しく歪んでいく。


「どういうことだよ?」


「ここはアステナ王国よ? コハナ大陸で最も人間が存在しているはずの場所」


「あぁ、そうだな」


「いくら正門から離れてるって言っても、ここまで人の気配がしないなんておかしくない?」


「…………」


 シルヴィアが感じていた違和感を共有することで、初めてライガもまたその眉間にシワを寄せる。


「それにいくらなんでも静か過ぎる。この壁の向こうは城下町があるはずなのに……」


「全員寝てるような時間でもないしな」


「とにかく、街に入らないと」


「よし、それじゃこっちだ!」


「ライガ……本当にそっちで合ってるんでしょうね?」


「任せとけ、こういう時は勘だ」


◆◆◆◆◆


「まぁ、見事に勘は当たった訳ね」


「ふん、俺にかかればこんなもんちょろいぜ」


「なんか自信満々なのがムカつく……」


 アステナ王国へと到達したライガたち一行が防壁を伝って歩くことしばらく。代わり映えのしない光景が続いていた中、その変化は突如として姿を現した。


「城門ってさ、普通は護衛がついてるもんじゃないのか?」


「普通ならそうだとは思うけど、つまり今、アステナはピンチってこと?」


「……もしかしたら飯を食ってるだけかもしれないしな。とりあえず中に入ってみるか」


「ライガ、いつでも戦える準備をしておいてよ」


「あぁ、お前もな……」


 二人で視線を交わし、小さく頷くと無人の城門をくぐってアステナ王国内部へと立ち入っていく。


「…………」

「…………」


 城門をくぐり、城下町へと足を踏み入れるとそこには普段と変わらない様子の街並みが広がっていた。魔竜・ギヌスによる復興は目を見張るほどに進んでいて、街の中心部はかつての姿を完全に取り戻していた。


 防壁の外では聞こえなかったはずの喧騒がそこにはあって、人々は誰もが笑みを浮かべて街中は活気に満ちあふれていた。


「なんだか拍子抜けだな」


「そうね。心配してたこっちが馬鹿みたい」


 活気あふれる城下町を見るなり肩の力を抜くライガ。

 隣に立つシルヴィアもまた、拍子抜けといった様子で小さな溜息を漏らしている。

 想定していた最悪の事態が起こっていることはなく、アステナの城下町は至って平和な様子だ。


「帝国の奴らよりも先に到着することが出来たみたいだな。それなら、俺たちは早く王国に行こう」


「レイナとエレスに話を聞かないと」


 街の安全を確認するなり、ライガとシルヴィアの二人は意識を王国へと切り替える。少し離れた場所に存在するアステナの王城。そこには国を治める王女・レイナと、その近衛騎士であるエレスが居るはずである。


「よし、そうと決まれば急ごうぜ」


「了解ッ!」


 二人で頷き合い歩を進める。向かうはアステナ王城。


 平和な街並みはいつのも様子でライガたちを飲み込んでいく。その果てにあるものとは、ライガとシルヴィアを待ち受ける運命を今は誰も知らないのであった。

話が抜けていました。すみません。

次回もよろしくおねがいします

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