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第七章27 大蛇と金色の狂者XIII

「時は熟した。深淵なる世界に沈め――ッ!」


 悪魔の声音が響く。

 光の差さない深淵の世界にて衝突する二つの影。


 一つは世界を救うために壮絶なる戦いに身を投じる異界の少年。

 一つは世界を混沌へと突き落とし、そして支配しようとする帝国の騎士。


 互いに譲れぬものを賭けての戦いは激化の一途を辿っており、異界の悪魔と融合を果たした帝国ガリアの騎士・ネッツの強大な力を前に航大は苦戦を強いられる。暴風の女神・カガリとシンクロを果たすことでようやくまともに戦えるレベルであり、本気の帝国騎士と対峙した航大は、改めて帝国騎士が持つ力の強さを見せつけられている。


 異界から魔獣を召喚し、それを使役する権能を持つ『怠惰のグリモワール』。帝国騎士・ネッツはグリモワールの所有者であり、その力を使うことで『神の敵対者・サタン』を召喚し、更にそれを自らと一体化させることに成功していた。


 航大が生まれ育った世界では誰もが知る強大な悪魔の力を得たネッツは、一切の光も差さない深淵の世界を生み出すと、そこで航大を地獄へと突き落とそうとするのだ。


「なんだ、コレッ……身体が……沈むッ!?」


 幾度となく衝突を繰り返し、防戦一方だった戦況にも変化が訪れようとしている。カガリの力を使い、戦いの中でも成長を見せる航大は以前に全く歯が立たなかった帝国騎士を相手に一太刀を入れることに成功したのだ。


 目を見張る成長。

 それは世界を守るためのこれからに必要なものである。

 確かな手応えを持って未来へ進むため、神谷航大は武を振るう。


『航大くんッ、危ないッ!』


「――――ッ!?」


 油断も慢心もなかったはずである。


 相手は帝国ガリアの騎士。一瞬でも油断すれば命を刈り取られる。それを痛感しているからこそ油断はなかったはずだ。しかし今、航大の身体は突如として傾いていた。底なし沼に足を突っ込んだ時のように、身体が大きく傾き、ネッツを前に航大は最大の隙を晒してしまったのだ。


 脳内では様々な思考が駆け巡っている。


 どうすればこの危機的状況を乗り越えることができるのか。

 どうすれば眼前に迫る凶刃から命を守ることができるのか。


 あらゆるパターンが浮かんでは消えていくのだが、どう思考を巡らせても迫る凶刃から逃れる術を見つけることはできない。帝国騎士・ネッツが生み出した深淵の世界。一切の光も差さない空間が航大を飲み込み、その命すらも飲み込もうとしているのだ。



「――終わりだ」



 冷めた声音が鼓膜を震わせる。

 その直後、この戦いで最も大きな衝撃が深淵の世界に広がっていく。

 ネッツが振るう刃が航大へと到達し、狂い無き一閃が破壊の旋律を奏でる。


「…………」


 静寂が場を支配する。


「てめぇ、今度はなんだ?」


 一撃を放ったネッツの表情は険しいまま、むしろその顔は今までにないほどに険しいものへと変わっており、その視線は眼前に立つ少年へと向けられていた。


『カガリ、貴様は諦めたな?』


『…………』


 声音は航大の脳裏に響いた。

 勝ち気で強気な少女の声音。その声を航大はよく知っていた。


「……アスカ?」


『参上、登場、見参ッ! よくぞ、我が来るまで持ちこたえたッ!』


「え、いや……助かったのは事実なんだけど……どうしてここに……?」


『ふん、我の戦いが終わったのだ、駆けつけるのは当然だろう?』


「でも、この形で戻ってきたってことは……」


『今はそんなことを気にしている場合ではないぞ? 戦いはまだ終わっていない』


 窮地の航大を救ったのは炎獄の女神・アスカだった。


 ネッツの刃が航大を襲う瞬間、その体内へ強制的に憑依してきたアスカは、瞬間的に航大の意識を奪い、身体を支配することで帝国騎士の一撃から守ることに成功した。風剣が消失し、両腕にアスカの魔力を纏いそれでネッツの一撃を受け止めて見せたのだ。


『カガリ、貴様には後でお仕置きが必要だな』


『うっ……』


『世界を守り、世界のために戦う女神は一瞬たりとも眼前の戦いに諦めるべきではない。どんな結末が待ち受けていようとも、決して諦めてはならないのだ。我たちが諦めてしまったら、この世界は誰が守ってくれる?』


『…………』


『しかも少年の体内に依存する中で諦めるなど、言語道断ッ!』


 航大の脳裏でアスカが怒りに震えている。


 その怒りは同じ女神であるカガリに向けられたものであり、赤髪を揺らすアスカの怒りを受けてカガリは沈黙を保つ他ない。


「カガリを怒るのはそれくらいにして、目の前の戦いに集中しよう」


『同意。コイツが敵なのだな?』


 航大とアスカが見据える先、そこには苛立ちを隠しきれない様子のネッツが君臨している。およそ人間からかけ離れた姿をしている帝国騎士を前にしても、炎獄の女神・アスカは堂々とした様子で敵を見据えている。


『この感じ、かつて魔竜共と戦った時を思い出す。あの時はとても痺れたものだ』


「魔竜と戦って痺れるのかよ……」


 今、航大の中には暴風と炎獄の女神二人が存在している。

 内から溢れる魔力を感じながら、航大は拳を強く握りしめる。



『刮目せよッ! 地獄の業火を纏いし力、とくと見せてやれッ!』



「英霊憑依――炎神ッ!」



 その言葉をトリガーに航大の身体が激しい炎に包まれる。


 触れるもの全てを灰燼と化す地獄の炎。それは航大の体内から溢れ出て止まらない。業火が身体を包み、紅蓮に染まる騎士服へと姿を変えていく。シュナ、カガリと一体化した時と同じで、アスカと一体化を果たすことで航大は新たな力を手に入れる。


 航大が身に纏うは白を基調とし、燃え盛る炎をイメージした紅蓮の模様が刻まれた騎士服である。


 上半身は肩から先を露出しており機動性を重視し、下半身は細身の航大には余裕がある長ズボンといった形をしており、これまでの女神たちとはまた違った衣装となっている。


「また違う形ってことか?」


「その通りだよ。今度はまた一味違った展開を見せてやるよ」


「おもしれぇじゃねぇか。見せてみろよ、そして次こそお前をぶっ殺してやる」


 炎獄の女神・アスカと融合し、その身に業炎を纏う異界の少年。

 異界の悪魔をその身に宿し、凶悪な力を持って立ち塞がる帝国ガリアの騎士。


 紆余曲折を経た戦いは新たなる局面と共に終局へと突き進んでいく。

桜葉です。

次回もよろしくお願いします

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