第七章4 要塞大陸への旅路
「ルーラ大陸のマルーダ共和国って、どんなところなんだ?」
帝国ガリアの騎士たちが世界中に封印された魔竜を回収していることが判明した。
世界をその手に収めんとする帝国の動きが活発化し、その牙はハイラント王国にも及んだ。帝国騎士たちの襲撃はハイラント王国へと伸び、そして魔竜の一匹を奪われるという結果を生んでしまった。
世界各地に封印されている五匹の魔竜。
判明している限りで既に三匹の魔竜が帝国の手に落ちていると推測されている。
魔竜・エルダ。
バルベット大陸のハイラント王国に封印されていた実体を持たない魔竜。
魔竜・エルダ。
サンディ大陸のバーツ公国に封印された魔竜。
魔竜・アーク。
マガン大陸に封印されし魔竜。
全ての魔竜が帝国の手に落ちれば、それは世界の終末を意味する事態となる。
世界の終末。
それだけは回避しなければならない未来であり、そのために航大たち一行は行動を開始する。
「ルーラ大陸……儂も話だけを聞いたことがあるレベルじゃな……」
「ふむ、ルーラについての話なら我がしてやろう」
「お、アスカは知ってるのか?」
「当然、常識。どれほどの間、この世界で生きていると思っておる。ルーラ大陸のマルーダ共和国。そこにもよく訪れたものだ」
帝国騎士たちが魔竜を狙っているのは判明した。
だからこそ彼らの手に落ちる前に手を打たなければならない。
航大、リエル、アスカの三人はルーラ大陸に存在するマルーダ共和国を目指していた。
「まず、ルーラ大陸について話をしようではないか。あの大陸は少々、他と違っているからな」
「違っている?」
「ルーラ大陸にはもう一つの名前が存在する」
「え、どういうことだ……大陸に別の名前……?」
「大陸の特徴を生かした名前である。その名も――要塞大陸」
「よ、要塞大陸……?」
「中々、想像がし辛い名前じゃな……」
「なにも難しい想像はしなくてもいい。要塞大陸、そのままの意味を持つ大陸だ」
「大陸全体が要塞だって言うのか?」
「さすがにそこまでのものではないがな、大陸を防壁が囲っているのだ。その様子から要塞大陸と言われている」
「なるほど……その大陸は海から入ることが出来るのか?」
航大、リエル、アスカの三人はバルベット大陸の東方地域に存在する港町を目指して歩を進めていた。地竜を操舵しているのは航大であり、普段ライガが操舵している様を見て勉強していた腕が発揮されている。
航大たち一行は港町から船でルーラ大陸を目指そうとしていた。
「海から入ることも出来なくはない。港町があるはずなので、そこから入るのがいいだろう。それ以外の場所から大陸に入るのは難しいと考えていい」
「港町があるなら問題はないな。そこを目指そう」
「ふむ、我もその選択が正しいとは思う。しかし、問題があるのだとすれば我たちが簡単に上陸することが可能かどうかだろうな」
「上陸にハードルがあったりするのか?」
「ルーラ大陸を統治するマルーダ共和国は、自国のみならず大陸にも要塞を作ってしまうような国だ。よそ者に対しては厳しい対応を取ることもある」
「まじかよ……」
「ハイラント王国からの使者であれば大丈夫だとは思うが……」
「とにもかくにも、ルーラ大陸へ行ってみるしかないだろう。帝国騎士の奴らが先に上陸しているかもしれない……そうしたら、マルーダって国も危ないだろう」
既にハイラント王国にも帝国騎士の魔の手が迫ったとあれば、ルーラ大陸やコハナ大陸も同様に危険な状態であることが予測される。今は一秒でも時間が惜しく、全てが手遅れになる前に航大たちはルーラ大陸へと上陸を果たさなければならない。
「いくら帝国騎士といえど、マルーダ共和国の牙城をすぐに崩すことはできないだろう。我々も急ごう」
アスカの言葉に全員が神妙に頷く。
この先に待ち受けるは過酷な戦い。それぞれが気持ちを引き締め、来るべき戦いに備えるのであった。
◆◆◆◆◆
「ところで、アスカは王城で何があったんだ?」
港町が近づきつつある中で、何気なく航大はアスカに問いかけを投げる。
それはバルベット大陸南方の最果て、そこでアスカはユイと共に姿を消した謎の少女によって敗北を喫していた。謎の少女はアスカと酷似した外見をしており、二人の間に何かがあったのは間違いない。
「うむ? 何がとはなんだ?」
「ほら、帝国の奴らにやられてたじゃないか。アスカも女神だし、遅れを取るとは思えないっていうか……」
「ふむ……我にもよく分からない、というのが答えになる」
「よく分からない?」
「あの者が炎龍の守護を如何にして突破したのか、そして王城で我と対峙した時、あやつは何をしたのか……あまりにも一瞬の出来事であり、気付けば我は鮮血と共に沈んでいたのだ」
「なんだよそれ……そんなことがあるのか……?」
「もしあれが帝国の仕業というのならば、奴らは何か特殊な力を持っているということだろう。それは女神に対しても有効である」
「…………」
帝国ガリア。
巨悪の存在として君臨する帝国が持つ戦力は未知数である。
それぞれが大罪のグリモワールを所有している帝国騎士たちを始めとして、帝国にはまだ航大が知らない力を持った人物がいるのかもしれない。帝国騎士たちはそれぞれが国を滅ぼすことが出来る力を持っている。しかし、何よりも不気味なのがそれを従える総統・ガリアである。
帝国で対峙した時も航大はガリアを前に戦うことすら出来はしなかった。
しかし、世界を救うために戦うことを決めたのならば、決して避けては通れない相手でもある。
「世界を救う戦い。それを覚悟したのならば、相手は強大だぞ?」
炎獄の女神・アスカは険しい表情で航大を見据える。
彼女の瞳は航大に覚悟はあるのかと問いかけている。
「どんなに敵が強かったとしても、俺は絶対に負けない」
世界の終末というものが明確に近づく中で、もう航大たちに敗北の道は残されてはいない。
眼前に港町が見えてきた。
一秒、また一秒と時間が経過するごとに、航大たちの緊張感は否応にも高まっていくのであった。
桜葉です。
次回もよろしくお願いします。




