表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/369

第五章36 砂塵の試練ⅩⅩⅤ:過去からの回帰

「い、今のは……?」


 場面は切り替わりバルベット大陸の西、ブリアーナ地方に存在するアケロンテ砂漠。

 大陸の西に広がる砂漠には、壁のように立ち塞がる砂塵の嵐が存在していた。


 マガン大陸の帝国ガリアで負傷し、未だに目を覚まさない神谷 航大を救うためにライガたち一行は吹き荒れる砂塵へと挑むこととなった。砂塵の中は外で見たまま、普通であるならば立っていることすら不可能な暴風が吹き荒れていた。


 砂塵へと挑むライガたち一行は、そこで過酷な試練を受けることとなる。


 各自が試練を受ける中、ライガと同じハイラント王国の騎士であり、剣姫でもあるシルヴィア・アセンコットは砂塵の中で初代剣姫であるリーシア・ハイラントと出会う。


「貴方が知らない実在した歴史。剣姫が剣姫たる所以をシルヴィア……貴方に知って欲しかったの」


「剣姫が剣姫たる所以……」


 砂塵の中でシルヴィアが見たもの。


 それは、過去にハイラント王国を襲った真実の歴史であり、後に世界を守護するために一生を捧げた剣姫の物語である。


 自分が知らない物語を追体験し、自我を失っていたシルヴィアも動きを止めて呆然とした表情で立ち尽くす。


「……シルヴィア。貴方はまだ、剣姫としての力を完全に引き出すことができていない」


「…………」


「剣に愛され、剣を愛する……そして、守りたいと思うものを守る。今の貴方に足りないもの……それは分かる?」


「私に……足りないもの……」


 シルヴィアが見つめるのは、両手に握られた赤と青に染まった二本の剣。


 彼女にとって守りたいものは存在する。しかし、剣を愛するという点において、シルヴィアはその考えを持ったことがなかった。


「私たち剣姫は自分の身体だけで戦える訳じゃない。その手に持つ剣と一緒に戦うからこそ、強大な力を使うことができるの」


 リーシアはその手に聖剣・ハールヴァイトを持っている。


 シルヴィアとは違う形ではあるが、自分が初めて手にした剣と共に数多の戦場を戦ってきた。その背景には守りたいものを守るという信念と、自分が持つ剣を信頼し、命を預けることができる覚悟があるのであった。


「…………」


 シルヴィアの背後に存在するのは、白銀に輝く巨体を誇る竜。この時、シルヴィアは初めて世界を守護する竜を真っ向から向き合うことができた。リーシアを主として永きに渡り世界の安定化に努めてきた神竜も、今はシルヴィアを主として彼女が戦う際に力を貸してきた。


「守りたいものがある。それはとてもいいこと。だけどね、自分が持つ力の本質を理解できなければ、どれだけ強大な力を持っていても十分に引き出すことはできないの」


「貴方はずっと……私を見ていたの……?」


『そうだ。お前が私の主であることに間違いはない』


「しゃ、喋ったッ……!?」


『……先代も今も、どうして喋るだけで驚くのか』


「いやぁ……それは驚くでしょ……」


「だよねだよね。竜って喋るイメージないしッ!」


 シルヴィアと神竜が初めての会話を交わす中で、リーシアもまた頷きながらシルヴィアの驚きに共感する。似た者同士である剣姫たちを見て、神竜はため息を禁じ得ないのだが、確かに感じた大きな一歩にその表情はどこか穏やかである。


「もしかして、ずっと私のこと見てたの……?」


『……先代が役目を終えた時からずっと、私の役目は主を守ることにある』


「そ、そうだったんだ……知らなかった……」


『主が剣姫として目覚めない限り、私の姿も、私の声も届くことはない』


 先代剣姫であるリーシアは、シルヴィアがまだ幼い頃に命を落とした。その時、シルヴィアはまだ言葉を発することすらできない子供である。その頃から神竜は金色の髪を持つ少女を見守り続けていた。


「でも、よかったよ。ちゃんと竜の言葉を聞くことができるようになったみたいだね」


 自分が長い時を共に過ごした神竜が選んだ新たなる主。

 初めて言葉を交わすシルヴィアと神竜の様子を、リーシアは慈愛に満ちた表情で見つめ続けている。


「忘れそうになってたけど、今は試練の最中。今の私に勝てないようじゃ、世界を……守りたいものを守ることなんてできないよ?」


「――ッ!?」


 リーシアが安堵し、慈愛の表情を見せるのも一瞬であり、緩めていた気を今一度、しっかりと引き締め直すと砂塵の中に異様な重圧が包み込む。肌を突き刺す重圧を感じて、シルヴィアも驚きに表情を歪めて眼前に立つリーシアを睨みつける。


「神竜と意思の疎通ができるようになった訳だし、今度はしっかりと戦ってよ?」


『油断するな、主』


「油断するなって言われても……」


『今の主なら、リーシアを相手にしても戦うことはできるだろう』


「……そうだといいんだけど」


 初代剣姫であるリーシアの力は直接剣を交え、更に過去の記憶からも目の当たりにしてきた。


 自信を持って勝つとは宣言することはできないが、それでもこの試練を越えなければ自分の目的を果たすことはできない。


「さぁ、準備はいい? 新たな時代の剣姫として、私を倒してみせなさいッ!」


 初代剣姫と現代剣姫。

 仕切り直しとなる試練の戦いが再び、始まろうとしていた。

桜葉です。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ