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第五章7 星夜に輝く砂の村

 ハイラント王国が統治するバルベット大陸の西方。

 アケロンテ砂漠の隣接する形で存在する田舎村・デミアーナ。


 ライガ、ユイ、リエル、シルヴィア、エレスの五人はアケロンテ砂漠に存在するとされる、西方の女神と邂逅を果たすために砂に覆われた村・デミアーナへとやってきた。


 デミアーナへと足を踏み入れたライガたちは、砂嵐という早速の洗礼と不思議な雰囲気を醸し出す少女と出会った。濃厚な一日を過ごしたライガたちは、デミアーナの隅に存在する宿で一夜を明かそうとしていた。


「…………」


 上を見れば、雲一つない満天の星空がどこまでも広がっており、寝静まったデミアーナは絶対的な静寂に包まれていた。宿で休息を取るライガたちもまた、翌日から始まる新たな試練に向けて休息を取っていた。


 北方の女神・シュナの魔力によって眠りに長い眠りについている航大の身体もまた、ライガたちと同じように宿の一室へと連れて来られていた。


「……こんな時間に何の用?」


「おやおや、こんな時間に女の子が一人で出歩くなんて、危ないよ?」


 月明かりが差す航大が眠る客室。


 薄暗い部屋にはベッドで眠る航大の他に、静かに立ち尽くす人影が一つ存在しており、佇む何者かに声をかけたのは白髪が印象的な少女・ユイだった。


 ここ数日、ユイは寝る前に航大の様子を見に来るのが日課だった。だからこそ、何者かが航大が眠る客室に立ち入った事実に対していち早く気付くことが出来た。


「……私の質問に答えて、アリーシャ」


「へぇ……私の名前、覚えてくれたんだ。今日、出会ったばかりなのに有り難いことだね」


「…………」


 アリーシャ。


 それは砂の村・デミアーナでライガたちが出会った、不思議な雰囲気を纏う少女の名だった。肩下まで伸ばした茶髪と、細身の身体を覆うローブから伸びる白い手足が印象的な少女・アリーシャは部屋に姿を現したユイを見て、その顔に笑みを浮かべる。


 笑みを浮かべるアリーシャに対して、ユイの表情には警戒心が強く滲んでいて、静かに魔力を練り始めることでどんな状況にも対応できる準備を始めていく。


「まぁまぁ、そんなに警戒しないで欲しいな。私はただ、君たちが助けたいっていう少年がどんな人なのか……それを見たかっただけなんだから」


「……どうして夜に一人で?」


「まぁ、私が会いたいって言ってもこうなるって分かってたからね。だから、夜にコッソリと様子を見に来たって訳」


「コッソリ様子を見に来る……そっちの方が相手の警戒心を強くする……そうは考えなかったのか?」


「……なるほど。この少年は、よほど人望に厚いらしいね。どんどん仲間が集まってくる」


「ふん、身体から溢れる魔力を隠そうともせず、なにがコッソリとじゃ……笑わせてくれる」


 航大が眠る深夜の客室。

 そこへ新たに姿を現したのは、賢者・リエルであってその表情には最初から警戒心が強く滲んでいた。


「うーん、魔力を隠すのって慣れてないんだよね……次からはもっと上手くやるようにするよ」


「……その次があればの話じゃがな」


「ちょっと待ってってばッ! 確かに、勝手に忍び込んだのは申し訳なかったんだけど、本当に危害を加えるつもりはなかったんだって!」


「…………」


 本気で戦いを始めようとするリエルに対して、アリーシャはその表情に驚きを滲ませながら釈明を始める。


「……ユイ、こやつを見ててくれるか?」


「……分かった」


 アリーシャの必死の釈明を聞き、リエルは警戒心を表情に滲ませたままベッドで眠る航大の元へと近づいていく。アリーシャもリエルの言葉に逆らうことなく、やはりその表情に薄っすらと笑みを浮かべてその場で立ち尽くすだけ。


「…………確かに、主様の身体に変化はないの」


「ほらね、私は無実なんだよ」


「無実だったとしても、怪しまれる行動を取ったのは間違いないじゃろ?」


「……まぁ、そこは反省してるよ。ちょっとした出来心だったんだよ」


「……リエル、どうするの?」


 航大の身体を徹底的に調べたリエルは、彼女が言う通り彼の身体に異常がないことを確認していた。複雑な表情を浮かべて黙り込むリエルに対して、ユイはアリーシャの扱いについて問いかけを投げる。


 アリーシャについてどうするか。

 その決定権については、全てリエルに託されていた。


「……主様の身体に異常が無かったのは確かじゃ。怪しい行動を取ったことは間違いないが、これからの監視を強めることを承諾するのなら、見逃してやってもいい」


「監視の強化……まぁ、そこら辺が妥協ラインってところなのかな?」


「飲めないのなら、離脱してもらう。どうする?」


「……いいよ。今回のことは全部、私が悪いんだし。これくらいで済ませてくれるなら有り難いくらいだよ」


「それなら、この部屋から出ていくんじゃ」


「はいはい。ごめんね、変なことして」


 リエルの言葉にアリーシャは安堵の笑みを浮かべるとゆっくりと歩き出して部屋を出て行く。その間も、ユイとリエルは険しい表情を浮かべたままであり、警戒を解くことはなかった。


 異様な静寂が包むデミアーナの宿。

 不穏な気配は小さく、しかし確かな形を持ってライガたち一行に漂い始める。

 二人の少女はそれぞれの胸に強い警戒の色を濃くさせてしばしの間、無言で立ち尽くすのであった。


◆◆◆◆◆


「うーん、ちょっと失敗したなぁ。さすがにあの人たちを甘く見過ぎてたか……まぁ、目的は達成できたわけだし、少しは大人しくしておこうかな」


 星が瞬く夜のデミアーナ。


 ライガたちが過ごす宿の屋根には、短く切り揃えられたローブを身に纏う少女の姿があった。少女・アリーシャは頭上に広がる星空を見て、小さな言葉を呟く。


 その顔からは笑みが消えており、真剣な表情を浮かべてアリーシャは物思いに耽っている。


 航大を救うための旅路。

 それはまだ始まったばかりである。

桜葉です。

次回もよろしくお願いします。

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