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第五章2 砂に覆われた村・デミアーナ

「ライガー、まだなのー?」


「…………」


「もう客車で揺られてるの嫌なんですけどー」


「………………」


「ねぇー、ライガってばぁー」


「うるっせぇなあああぁぁぁッ!」


 ハイラント王国を出発して一日が経過した。ハイラント王国が統治するバルベット大陸の西方を目指すライガたち一行は、王国から貸し出された地竜を操り順調に目的地へと進み続けていた。


 旅の道中は拍子抜けするほどに平和であり、それはハイラント王国の統治がしっかりと行き渡っていることの証明であり、無用な戦闘を極力避けたいライガたちにとって理想とも言える展開であった。


「わッ、ライガがキレたッ!?」


「そりゃ、ずっと後ろでギャーギャー言われたら誰でもキレるってのッ!」


「ギャーギャーなんて言ってないしー」


「ったく、そんなに暇なら寝てればいいだろうが。そうすれば、起きた時には着いてるだろうよ」


「うーん、もうたくさん寝ちゃったから眠くないんだよねー」


「……だったら静かにしてろ」


「むー、つまんなーい」


 平和な旅は誰もが望むことであるのだが、これまでが戦いの連続だったシルヴィアにはちょっと退屈なようだった。退屈だと喚き散らかし、地竜を操るライガに何度も声を掛けてくる。


「ふぅ……少しは静かに出来んのか?」


「あっ、リエルまでそんなこと言うんだ?」


「いつ戦いが起きるのかは分からん。いざという時のために休むのも騎士の勤めって奴じゃないのか?」


「うぅ……」


 リエルの冷静な一言を受け、シルヴィアは身体を小さく縮こませると客車の隅で膝を抱えてしまう。

 ようやく静かになったとライガは安堵のため息を漏らし、地竜の走る速度を上げていく。


「実際、あとどれくらいの時間が掛かるのでしょうか?」


 静かになった旅において、次に口を開いたのはライガの隣で地竜を操っているアステナ王国の騎士・エレスだった。彼はライガと同じように地竜を操ることで、唐突な問題が発生しても迅速に対応できるようにしている。


 彼が操る地竜には客車が付随していないため、草原を走る地竜の足取りも軽やかなものだった。


「うーん……もうそろそろ見えてきてもいいんだけどな」


「砂漠に入る前に休憩すると言っていましたよね?」


「あぁ、砂漠のすぐ近くに唯一存在する村だ。砂漠のすぐ近くにあって、そこが最初で最後の休憩ポイントになる」


「この旅も最後まで平和で行ってくれたらいいですね」


「……まぁ、そう簡単じゃないだろうな。砂漠の危険性は昨日説明した通りだ」


「……肝に銘じておきましょう」


 ライガとエレスは互いに前を向いたままで簡単に言葉を交わしていく。

 地竜が一歩を進む度に、ライガとエレスの緊張感は僅かながら上昇していく。


 西方の女神を訪れる長い旅は始まったばかりである。


◆◆◆◆◆


「お、ようやく見えてきたな」


「ウソッ!?」


 あれから数時間。

 地竜で走るライガたちの眼前に小さな村が見えてきた。


「あれが砂漠と隣接する村・デミアーナだ」


「……デミアーナ」


 遠く見える小さな村の向こうに広がるのは、どこまでも続く砂漠地帯だった。


 視界いっぱいに広がる砂漠地帯の広大さにライガたち一行は生唾を飲む。その砂漠はこれまでの間、誰の侵入も許さない魔の場所である。


 立ち入る人間の全てに帰還を許さず、しかしその先には世界を守護する女神が眠っているとされる。ライガたちは航大を助けるために、誰も踏破したことがない砂漠を抜けなければならず、実際に砂漠が視界に入ることで、無意識の内に緊張感が高まってくる。


「よし、とりあえずはあの村で休憩だ。急ぐぞ、エレス」


「承知しました」


 ライガの言葉に頷くエレス。

 地竜が僅かに速度を上げ、ライガたち一行は砂に覆われた村・デミアーナを目指すのであった。


◆◆◆◆◆


「よし、到着…………したのはいいんだけど、誰も居ないな」


「うーん、まだお昼なのに誰も居ないなんてことあるの?」


「これがゴーストタウンって奴なのかの?」


「いえ、ついさっきまで誰かが生活をしていた痕は見えますね。なので、無人ってことはないと思いますが……」


「……人の気配はする」


 砂漠と隣接する形で存在する村・デミアーナへとやってきたライガたち一行。


 しかし、村の入口で周囲を見渡す限り村人の姿は一切見ることができない。そのことに強い違和感を禁じ得ないライガたちは、これからの行動をどうするかを決め兼ねている。


「このまま突っ立っててもしょうがないし、村を捜索するか」


「それがいいかと思います」


 ライガの提案にエレスが同意する。


 リエル、シルヴィア、ユイの三人もキョロキョロと周囲への確認を怠らずに無言で肯定の意を返してくる。


 それぞれの反応を確認した後に、ライガが一歩を踏み出した瞬間だった。



「……おい、何か聞こえないか?」



「…………何か嫌な音が聞こえてきますね」


「音だけじゃないぞ。地面が少し揺れておる」


「なんか風も強くなってきてない?」


 ライガの言葉に全員が表情を険しくする。


「……何かが近づいてくる」


 ユイはそんな言葉と共に背後を振り返る。

 その動きに釣られて、ライガ、リエル、エレス、シルヴィアの四人も背後を振り返っていく。


「――なぁ、エレス」


「……はい」


「あれは何だと思う?」


「見たままを言うのであれば、竜巻……ですかね?」


「砂漠の方からやってくる……あれが砂嵐という奴かの?」


「ねぇねぇ、みんなは何か冷静だけどさ……あれ、こっちに来てるよね?」


 村から隣接する砂漠から迫ってくるのは、超巨大な砂嵐だった。

 ゆっくりと近づいてくる砂嵐を見て、ライガたちはしばし呆然とした様子で立ち尽くす。


「なるほど。村に人影が無いのは嵐が近づいていたから……ということでしたか」


「いや、のんびり観察してる暇はないぞッ、全員逃げろおおおぉぉッ!」


 ライガの言葉を合図に全員が砂らしから逃げるために走り出す。

 しかし、行動を始めた時には全てが遅く、どれだけ逃げようとも砂嵐は接近を果たすばかり。


「やっべぇ……飲み込まれるぞッ!?」


「みなさん、吹き飛ばされないよう何かに捕まってくださいッ!」


 エレスの怒号が響くのと、ライガたちが砂嵐に飲み込まれるのは同時だった。


 視界は一瞬にして砂に遮られ、前後上下の感覚が失われる中でライガたちはひたすらに嵐が過ぎ去るのを待つことしかできない。


 村を一瞬にして飲み込んだ砂嵐。

 ライガたち一行は、砂漠に挑む前にその厳しさを身をもって体験することとなるのであった。

桜葉です。

次回もよろしくお願いします。

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