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第四章35 【帝国終結編】若き青年と帝国の老兵

「……なるほど、ようやく本命のお出ましって訳か」

「今までとは明らかに違う力を感じますね」

「まだ隠し玉を持ってるなんて、ホント帝国ガリアってめんどくさい……」


 帝国ガリア王城を取り囲む壁の中。第三層と呼ばれるその場所において、ライガ、リエル、シルヴィア、エレスの四人は帝国ガリアが誇る兵士たちとの壮絶なる戦いの最中だった。


 第二層攻略戦において、人命を軽視した作戦を行使する帝国に対して、ライガたちの怒りは強い。たとえそれが敵国の兵だったとしても、人命を軽々しく扱うことは邪道であり、それぞれが騎士としての肩書を持つからこそ、ライガたちの身は怒りで燃えているのであった。


「なるほどねー、侵入者ってのは聞いてたけど、少しはやれそうじゃん?」

「あ、あの……ほ、本当に戦わないとダメなんですか……?」

「我が帝国がこれっぽっちの侵入者に第三層までの侵入を許すなど……嘆かわしい限りだな」


 第二層を突破し、第三層へと足を踏み入れたライガたちを待ち構えていた上級兵士たちを蹴散らすと、そんな気怠げな声と苛立ちが込められた声を漏らしながら姿を現す人物がいた。


 一人は精悍な顔つきをした、分厚い鎧に身を纏う皺が目立つ中年の男。

 一人はその顔に微笑を浮かべ、派手な金髪の髪と軽装が印象的な青年。

 一人は全身を漆黒のローブマントで覆い、子犬のような震える瞳で身体を小さくしている少女。


 そこら辺で倒れている兵士たちとは纏う異様な力が段違いであり、それを瞬時に見抜いたライガたちは、ようやく本命が現れたと表情を引き締める。


「侵入者へ告ぐ。直ちに降伏せよ。さすれば、命だけは助けてやろう」


「……あっ?」


 王城から出てきた形で姿を現す騎士たちの声に、ライガたちの表情が曇る。


 降伏勧告をしてきたのは、三人の騎士たちの中で最も年齢が高いと推測される重装の老騎士だった。精悍な顔つきのまま、ライガたちへ降伏するように求めてくるが、果たすべき目標を目前として、ライガたちがその要求を素直に飲む訳がなかった。


「ふざけんなッ、誰が帝国なんかに屈するかよッ!」

「そーだそーだッ!」

「儂たちがお主らに負けることなど、万が一にもありえん」


「……本当に貴方たちといると、負ける気がしなくなりますね」


 ライガ、シルヴィア、リエルの三人が見せる啖呵に、エレスは苦笑を浮かべるのだが彼もまたその瞳に強い闘志を滾らせている。


 帝国ガリア第三層・攻略戦。

 壮絶なる戦いは新たな局面を見せようとしているのであった。


◆◆◆◆◆


「おらああああああああぁぁぁぁッ!」


「ふんッ、なんと無駄の多い動きだ……」


 帝国ガリア第三層の中心部。


 そこでは神剣・ボルカニカを持つライガと、帝国ガリアの騎士である老兵が壮絶なる剣戟を見せていた。


 怒号と共に剣を振るうライガと、それを受ける巨大なランスを持った老兵の戦いは、傍から見ればライガが優勢に見えた。しかし、ライガの攻撃が老兵に有効打を与えることはなく、大振りな動きから繰り出される一撃は、その全てを老兵が持つランスで防がれている。


「その程度の実力で帝国に侵入しようとするなど、片腹痛いわッ!」


「うおぉッ!?」


「我がランスの前に砕け散るがいいッ!」


「くそがッ!」


 攻勢を強めるライガが一瞬でも隙を見せるようなことがあれば、老兵は瞳を光らせてその隙を的確に突いてくる。身体のギリギリをランスが通過し、ライガはその度に冷や汗が流れることを禁じ得ない。


 実力は全くの五分。


 精神的なものを加味すれば、見た目以上に老兵が優位であることに間違いはなかった。


「我の名はライアン・グレイ。帝国が誇る王城騎士の一人。これから命散らす運命、せめてその相手の名を教えておこう」


「へッ……俺はハイラント王国騎士・グレオ・ガーランドッ! てめぇにも、これから負ける相手の名前くらいは教えておいてやるよッ!」


「…………」


 激しく互いの武器を交わらせるライガとグレイ。


 ライガの表情には笑みすら浮かんでおり、一瞬も気を緩めることなく剣を振るっていく。その様子を見て、老兵グレイは目を見開かせている。


「……ハイラントのガーランド、だと?」


「あぁッ? 俺の名前がそんなに珍しいかよッ!」


 ライガが繰り出す斬撃を、老兵のグレイは完璧にいなしていく。ライガの名前を聞いて、少なからずの動揺が走っているのか、グレイはその目を険しいものに変えると、対峙するライガの全身をくまなく観察する。


「……なるほど。馬鹿みたいに巨大な剣を振り回すのは、父親譲り……といったところか」


「てめぇ、親父を知ってんのかッ……」


「この国において長らく騎士をやっている者で、ハイラントのガーランド。その名を知らぬ者はおらん。それほどまでに、貴様の父は伝説的な人物だということだ」


「…………」


 グレイの瞳に驚きの色が消えて、次には今まで以上に強い殺気が込められていた。

 繰り出されるランスからの攻撃が鋭さを増し、気付けばライガは防戦一方な展開を強いられていた。


「うぉッ、くッ……はぁッ……くそぉッ……!」


「かつて、世界にその名を轟かせたガーランドの名。そして、帝国ガリアに初めて土をつけた男の息子と、こうして刃を交えることになるとはなッ……!」


「な、なんだコイツッ……!?」


「しかし悲しいかな……父が持つ天賦の才を、貴様は受け継ぐことが出来なかったようだ」


「それはどういう――ッ!?」


「貴様の父、グレオ・ガーランドは他を寄せ付けぬ武の才があったのだよ。私などでは太刀打ちできないほどのなッ!」


「ぐあああああぁぁぁぁッ!?」


 瞬時に繰り出されるランスによる突き攻撃。


 それを防ぐことで手一杯なライガは、しかし老兵の巧みな槍裁きに体勢を崩されてしまう。その隙を突く老兵のランスによって、ライガの身体はいとも容易く宙へ浮いてしまい、後方へと吹き飛ばされていく。


「立て。若造よ。ガーランドの名に泥をつけるつもりか?」


「はぁッ、はあぁッ……俺と親父を一緒にすんじゃねぇよッ……」


「…………」


「……確かに、俺は親父を越えることはできないかもしれねぇ。だけどな、俺がこうして生きている限り、果たすべき目的がある限りはどんなに強い奴が相手でも、負ける訳にはいかねぇんだよ――武装魔法・風装神鬼ッ!」


「――――」


 神剣・ボルカニカから発せられる暴風がライガの身体を包み込んでいく。


 これはライガが使える数少ない魔法であり、自身の身体能力を極限まで高める武装魔法である。ライガに足りない『スピード』の強化へ特化させた武装魔法により、ライガは瞬速を見せていく。


「……ほう、まだ奥の手を隠していたか」


「あったりまえだろうがよッ!」


 今まで、捉えることすら困難だったグレイが放つランスによる突き攻撃。しかしそれも、武装魔法を身に纏ったライガにとっては、あまりにも遅いものに見える。


 放たれる突き攻撃を最低限の動きで躱していくと、ライガは今までとは比べ物にならない速度と鋭さで剣を振るっていく。


「――ッ!」


「どうだよッ……俺だって何もしてない訳じゃねぇんだよッ……!」


「――ふむ、悪くない」


 ライガが見せる凄まじい連撃。最初はそれに圧倒されていた老兵グレイだが、驚くのも一瞬です短い時間でライガの動きに対応し始める。


「コイツッ、マジかよッ……」


「年老いたとしても、私は帝国ガリアの騎士。そう簡単にやられてやる訳にはいかぬッ!」


「ちッ!」


 人智を越える極限のせめぎ合い。


 いつしかライガとグレイは互いの目的を忘れて、互いの武をただぶつけ合うことに楽しみを見出していた。


 しかし、このままどちらかが朽ち果てるまで続くかと思われた戦いは、思わぬ展開を持って終局を迎えることとなる。



「――全員、そこまで」



 その声音が響いた瞬間、ライガたちの全身に絶対の悪寒が走り抜けていく。


 この場に存在する誰もが、その声を発する人物に逆らうことが出来ず、ライガたちは目を見開いて制止することを余儀なくされるのであった。

桜葉です。

次回もよろしくお願いします。

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