表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/369

第四章20 【帝国奪還編】氷獄での戦い

「はぁ、はあぁッ……くっそぉ……厄介過ぎるでしょ……コレ……」


「……そうですね。こうも天候が悪いとまともに戦うことも出来ませんね」


 ライガとリエルたちが灼熱の大地で戦っている中、同じように突風に巻き込まれた結果、氷が支配する氷獄の大地へと飛ばされたシルヴィアとエレスの二人も戦いに身を投じていた。


 常に猛吹雪が支配する氷獄の世界でシルヴィアたちの目の前に立ち塞がるのは、竜の姿をした魔獣だった。


「……シルヴィアさん、気をつけてください」


「分かってるって……ッ!」


 シルヴィアとエレスは吹き荒れる吹雪の中に取り込まれており、劣悪な環境の中での戦いを余儀なくされていた。二人の前に姿を現した氷竜の姿が今はない。吹雪に紛れるようにして姿を消した氷竜は、シルヴィアたちが一瞬の隙を見せた瞬間に攻撃を繰り出してくる。


「――右ッ!」


 視界が悪い中、凄まじい速度で接近してくる存在を感知したシルヴィアが怒号を上げる。次の瞬間、シルヴィアとエレスの二人は弾かれたかのようにその場から後ずさる。


「ちッ……」


 すると次の瞬間、シルヴィアたちが立っていた場所に鋭利に尖った氷柱が着弾して、甲高い音を響かせながら瓦解していく。


「もぉッ……これじゃ埒が明かないんだけどッ!」


「どうしたものか……」


 シルヴィアの先制攻撃が不発に終わってからと言うものの、このような状況が断続的に続いていた。視界が悪い猛吹雪の中に取り残され、姿の見えない氷竜が放つ攻撃を躱すことしかできない。


「私たちは魔獣が圧倒的な有利な状況での戦いを強いられている訳ですね」


「ちょっとッ、冷静に分析してる場合じゃ――今度は上ッ!」


「――ッ!」


 氷竜の咆哮が頭上から響いた瞬間、まともやシルヴィアたちへ向けて攻撃が放たれる。今度は青白い閃光のようなものであり、瞬間的に接近を果たした閃光だったが、シルヴィアたちを捉えることは出来ず、轟音を響かせながら着弾する。


「くぅッ……」


 氷竜が放つ閃光は桁違いに威力が強く、暴風に巻き込まれながら後退を余儀なくされる。

 敵の姿が見えず、不定期にやってくる攻撃にシルヴィアたちの精神は確実に消耗しており、このままでは状況が好転しないということも分かりきっている。


「どうすんの、コレッ!?」


「そうですね。ちょっと、試してみますか?」


「試すって何を――ひやぁッ!?」


 このような状況でも笑みを絶やさないエレスの言葉にシルヴィアが目を丸くした瞬間にも、曇天の空から氷柱が落下してくる。それをギリギリで躱して、シルヴィアは甲冑ドレスを翻しながらエレスを見る。


 すると、エレスは宝石を纏わせた細剣を天に向けて、静かに詠唱を始める。


「風の精霊よ、我に加護を与えたまえ――宝剣・風精の加護(ウィンド・シルフ)


 エレスの言葉に呼応するかのように、宝剣の周囲を浮遊していた宝石たちが眩い輝きを放つようになる。


「な、なにコレッ!?」


「ふふっ……風の精霊が持つ力を少し借りてるだけですよ」


 宝石の一つ一つが強大な風を纏うようになり、氷が支配する氷獄の大地に風の結界を生成していく。広大な氷獄の大地に生まれた風の結界は、吹雪による影響を遮断することに成功する。


「――居たッ!」


 吹雪が止むと、急速に視界がクリアになっていき、シルヴィアはようやく倒すべき敵である氷竜の姿を見つけることができた。


「てか、こんな技が使えるなら、最初から使ってよッ!」


「私もそうしたかったのですが、そうそう連発出来るものでもないので……」


 エレスの額にはうっすらと汗が滲んでいる。


 広大な領域に結界を張ることは容易ではないことを証明していて、この結界は長く持続されることが難しい。


「そういうことなので、なるべく早くに決着をつけましょう」


「――了解ッ!」


 エレスと簡単に言葉を交わすや否や、シルヴィアは溜まっていた鬱憤を晴らすかのように強く大地を踏みしめて跳躍を開始する。



「はああああああぁぁぁぁッ!」



 甲冑ドレスを風に靡かせ、両手に持った二対の剣を振り上げるシルヴィアを迎え討つように、氷竜もまた咆哮を轟かせる。


「――ッ!?」


 そんなシルヴィアの視界を突如、分厚い氷の壁が覆い尽くす。

 これは氷竜が使う魔法であり、それを打ち破らない限り氷竜へ近づくことすらできない。


「――紅蓮の閃光(フレイム・フラッシュ)ッ!」


 目まぐるしく変わる戦況に戸惑うのも一瞬であり、シルヴィアはすぐさま頭を切り替えると右手に持った『緋剣』に力を集中させていく。すると、鈍色に輝く刀身に紅蓮の炎が纏うようになり、思い切り力を込めた後に剣を突き出していくのと同時に、炎が一筋の力に変わって射出されていく。


「――――ッ!?」


 氷竜も予測し得なかったシルヴィアが放つ攻撃は、眼前を塞ぐ氷壁を容易く突き破っていくと、目にも止まらない速さで氷竜の身体を貫いていく。


「やったッ!?」


「いえ、まだですッ!」


「――きゃあああぁぁッ!?」


 シルヴィアの攻撃は確かに氷竜の身体を貫いたのだが、それは致命打とはならず、氷竜は苦しげな咆哮を上げるだけに留まると、すぐさま反撃に転じてくる。


 長細い身体を使って尻尾を振り払うと、シルヴィアの身体を氷の大地へと吹き飛ばしていく。氷竜の攻撃はそれだけではなく、粉塵を巻き上げて吹き飛んでいくシルヴィアへ更なる追撃を行っていく。


「――死ぬがいいッ!」


 氷竜は怒りを露わにすると口を大きく開き、天に向けて閃光を放っていく。


 一筋の光となって放たれた閃光は、上空で無数に分裂した後に『光の雨』となって、シルヴィアが倒れ伏すであろう場所へと集中的に降り注いでいく。


 凄まじい衝撃と爆発音が響き渡り、大地が大きく揺れる。


 異形の大地を支配する魔獣による攻撃。それは想像を絶する力を持っていて、シルヴィアたちに絶望を見せつけてくる。


 異形の大地での戦いは激しさを増し、終局へと加速していく。 

桜葉です。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ